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第三集:法霊武門

 杏花(シンファ)は五日間の事前雅学を終え、残り二日のうち一日は瑞雲(ルイユン)不凍航路(ふとうこうろ)内を散歩したり、書房で読書したりするなどして過ごすことに。

 その間も、瑞雲(ルイユン)は時折悲しそうな瞳で杏花(シンファ)を見つめることがある。

 何を患っているのか全て話した方がいいのか、と、杏花(シンファ)も悩みながら、でも言うことが出来ずにいる。

「気になる?」

 瑞雲(ルイユン)は頷いた。

「でも、まだ瑞雲(ルイユン)とは友達だし……。私の病を背負って欲しくない」

「私では背負う資格がないのか」

「資格とか、そういう話ではなくて……」

「それなら……」

 瑞雲(ルイユン)不凍航路(ふとうこうろ)で一番広い中庭に出て、中央にある東屋の中へ杏花(シンファ)の手を取り入り、椅子に座るよう促した。

瑞雲(ルイユン)は座らないの?」

 瑞雲(ルイユン)杏花(シンファ)の足元に跪き、再びその手を取った。

「私は杏花(シンファ)を諦めない。例え共に生きていくことが難しい病だとしても」

 瑞雲(ルイユン)は微笑み、手を握った。

杏花(シンファ)が、私のことを諦めないでいてくれたように」

 胸が苦しくなった。

 瑞雲(ルイユン)が言っているのは、おそらく、父親を亡くした直後に全く言葉を話せなくなった時のことだろう。

 それは瑞雲(ルイユン)が十歳の時だった。

 突然のことでどうすることも出来ず、琅雲(ランユン)が助けを求めて星辰薬舗(せいしんやくほ)を訪ねてきたのだ。

 杏花(シンファ)の両親も「この症状は、お父上を亡くされたことによる精神的負担です。瑞雲(ルイユン)が再び『声を出して伝えたい』と思わない限り、治らないでしょう。精神を安定させる薬を処方することは出来ますが、それでは根本的な解決にはなりません。おそらく、我々の言葉も、意味をなさない音に聞こえているはずです」と、事実を伝えるしかなかった。

 それでも、杏花(シンファ)は諦めなかった。

 「声が出ないなら、紙に書いて。お話しよう」と。

 杏花(シンファ)は返事がなくても、ずっと手紙を送り続けた。

 その日あった楽しいこと、少し悲しかったこと、一緒に見たかった景色のこと。

 二十通程送ったあと、瑞雲(ルイユン)から返事が来た。

 手紙には「杏花(シンファ)の声が聞きたい」とだけ書いてあった。

 杏花(シンファ)はそれを琅雲(ランユン)に手紙を書き、伝えた。

 すぐに琅雲(ランユン)瑞雲(ルイユン)を連れて扶桑(ふそう)にやって来ることに。

 杏花(シンファ)はどうすればたくさん声を聴かせられるか考え、本を音読することにした。

 瑞雲(ルイユン)達が扶桑(ふそう)にとどまれるのは三日間。

 杏花(シンファ)は早速集めた本から瑞雲(ルイユン)に選んでもらい、読み始めた。

 難しい文字には事前に母が振り仮名を振ってくれている。

 朝から夕方まで、ずっと読み続けた。

 でも、本は二日目で尽きてしまった。

 最終日、杏花(シンファ)は少し恥ずかしかったが、蓬莱に住んでいたときに覚えた歌を歌うことにした。

 母が寝る時に歌ってくれる歌。父が食器を洗っている時に口ずさむ歌。杏花(シンファ)が泣いている時に、兄が歌ってくれた歌。

 その全てが蓬莱語だから、瑞雲(ルイユン)には内容がわからなかったかもしれない。

 でも、大秦国(だいしんこく)の歌を歌ってしまうと、瑞雲(ルイユン)は父親や、遥か幼い頃に亡くなってしまった母親のことを思い出してしまうだろう。

 覚えている歌の最後の曲を歌ったあと、瑞雲(ルイユン)は「最初に歌ってくれた歌を、もう一度聞きたい」と声に出して杏花(シンファ)に伝えてくれた。

 それを聞き、杏花(シンファ)は家族や琅雲(ランユン)が驚いて駆け寄って来るほどに泣いてしまった。

 「瑞雲(ルイユン)が、今、お話し、して、くれた」と。

「あの時、兄上の声すら流れる川の音のようにうまく聞き取れなかったのに、杏花(シンファ)の声だけが聞こえた。読んでくれた本の内容も、歌ってくれた蓬莱の歌も、全部覚えている」

 杏花(シンファ)の視界が波打つようにぼやけていく。

「私が成人したら、杏花(シンファ)を迎えに行きたい」

 心が、後押しする。

 頬へ零れ落ちた涙を拭い、杏花(シンファ)は口を開いた。

「全部話す。私も、自分のことを、瑞雲(ルイユン)と過ごす未来を、諦めないことにする」

 杏花(シンファ)瑞雲(ルイユン)を椅子に座らせ、自分の病状を噛み砕いて話し始めた。

「私の身体は、生成される霊力の半分を使ってその機能を保っている。もしその調和が崩れると、私は息をすることすら困難になる。それに、霊力の暴走によって意識が朦朧とするほどの熱が出て、手足の感覚が鈍くなる。淀んだ血液を排出するために吐血することも。意識を保っている間に、仙力(せんりょく)を霊力に変換して調和を取り戻さないと、危険な状態に」

 杏花(シンファ)は左手の周囲に仙力(せんりょく)の風を纏わせた。

 それは左手を守るように巡り、まるで翡翠色の繭のようにも見える。

「私は仙力(せんりょく)の扱いが兄弟の中でも一番下手だった。だから、今でも、この命のために修練が欠かせない」

 瑞雲(ルイユン)杏花(シンファ)の手を握り、真剣に言葉を受け取っている。

「私は医仙(いせん)の娘だから、法霊武林(ほうれいぶりん)の人達のように他人から霊力をもらうことが出来ない。それは相手から『奪う』ことに等しいから。医仙(いせん)は与えることしか出来ない。でも、たった一つ、医仙(いせん)でも受け取れる力がある。それは神力。でも、そんなもの簡単には手に入らないし、現実的ではない。だから私は、父と母が開発した薬と、自分の力を信じるしかない」

 杏花(シンファ)の顔が曇る。

 瑞雲(ルイユン)は次に語られることを静かに待った。

「そんな状況に心は疲労していき、一昨年、心が二つに割れてしまった。心は身体とは違い、二度と元に戻ることはない。私は身体も精神も病に罹患しているんだ」

 瑞雲(ルイユン)杏花(シンファ)を見つめ、口を開く。

「私が杏花(シンファ)の傍にいる理由が増えた」

「重くないの?」

「少しも。病ごと、大切にする」

「大袈裟だ」

「そうか?」

「うん。でも、嬉しい」

 自分の力以上に、信じられるものに出会えたのかもしれない。

「じゃあ、そのうち私の両親に挨拶に来ないと」

「もちろんだ」

「この関係に名前はあるのかな」

 瑞雲(ルイユン)は少し考えてから、顔を真っ赤にして杏花(シンファ)を見つめた。

「愛」

「ふふ。それは想いだよ」

 杏花(シンファ)は微笑みながら、左手の仙力(せんりょく)の渦を解き、瑞雲(ルイユン)の頭を撫でた。

「蓬莱にはね、想い合う二人のことを少し古い言葉で『思人(おもひび)』って言うのがあるの。大秦国(だいしんこく)の発音だと……、スーレンかな」

「では、私達は思人(スーレン)だ」

「そうだね」

 自分の病を恨んだこともあった。

 嘆いて、粉々に壊れてしまいそうになったこともある。

 でもそれも全部、未来を信じる力になるのなら悪くない、と、杏花(シンファ)は思った。

「明後日から雅学だ」

「毎日送り迎えをする」

「それは駄目だよ。私の宿舎は女性専用の区画にあるんだから」

「あ……、そうか」

「休憩の時間にお話ししよう」

 瑞雲(ルイユン)は頷くと、嬉しそうに微笑んだ。

「明日は七大武門(ぶもん)から門弟が集まってくるね。瑞雲(ルイユン)は知っている人も多いんじゃない?」

「名前はわかるが、話したことはない」

「そうかぁ。いっぱい友達できるといいね」

 長命種の人間にとって、十七歳から十八歳は青年期への過渡期。

 その期間に法霊武林(ほうれいぶりん)についてしっかりと学ぶことで、将来道を外すことはない、との考えで三百年前から法霊雅学(ほうれいががく)が開かれている。

「私は特別に参加させてもらうから、みんなよりも一つか二つ年齢が下だけど、兄と弟とは五歳離れているし、会話するぶんには問題なさそう。瑞雲(ルイユン)とも楽しく話せているものね」

「私は特別だろう?」

「それはそう」

 杏花(シンファ)の言葉に満足そうに頷く瑞雲(ルイユン)は子供のようだ。

「問題は仙力(せんりょく)と陰陽術だなぁ。仙力(せんりょく)は霊力と比べて強すぎるし、陰陽術は法霊武林(ほうれいぶりん)の人達からすれば邪術で幻術で呪術。それに、大秦国(だいしんこく)の剣や刀とは形の違う蓬莱刀(ほうらいとう)も。変に目立たないようにしないと」

「心配ない。私が」

「そこまで守ろうとしなくていいよ。自分のことは自分で守れる」

 瑞雲(ルイユン)の厚意は嬉しいが、その程度のことを自分で掻い潜れないようでは、任務なんてこなせない。

「応援する」

「うん。それが一番嬉しい」

 二人は立ち上がり東屋を出ると、武闘場へ手合わせをしに向かった。

 雅学は座学だけではなく、各武門(ぶもん)の伝統武器を用いた実技や、基本となる武道を一通り演習する。

 七大法霊武門(ほうれいぶもん)にとってそれは、お互いの家の力を示すいい機会とも言える。

 門弟たちにその気はなくとも。


 翌日、昼を過ぎた頃から続々と集まってきた。

 その様子はまさに圧巻。

 雅学の正装である黒い校服の波。

 校服の背と左胸に入っている各法霊武門(ほうれいぶもん)の家紋は個性的で目に楽しくはあるが、たった一人で参加する杏花(シンファ)にとっては威圧されているようにも感じてしまう。

 法霊武門(ほうれいぶもん)の七大武門(ぶもん)は、百以上ある武門(ぶもん)の中でも桁違いに優秀な名家だ。

 欒山(らんざん) (ニー)氏、氷妃河(ひょうひが) (シュェ)氏、夜湖(やこ) (ジン)氏、煌風(こうふう) (イン)氏、綺雨(きう) (リン)氏、藤陵(とうりょう) (フォン)氏、そして紅葉山荘(こうようさんそう) (レイ)氏。

 各法霊武門(ほうれいぶもん)から参加する門下生は、後継である世子(せし)やその兄弟姉妹とは別に、十人ほどが帯同している。

 身の回りの世話をする侍従や侍女を連れてくることはもちろん不可。

杏花(シンファ)の校服には……」

 杏花(シンファ)瑞雲(ルイユン)は屋根の上に座り、続々と集まってくる参加者を眺めていた。

「ああ、私のは星辰薬舗(せいしんやくほ)の看板に描いてあるやつだよ」

 上に羽織っている白い杏花紋の衣を脱ぎ、背中を見せた。

桃花(とうか)を纏った星辰(せいしん)か」

「なんか、両親の仲の良さを宣伝しているみたいで少し恥ずかしい。(リン)氏のは素敵だよね」

 綺雨(きう) (リン)氏の家紋は、水面に雨粒が落ちた時に広がる水紋に金盞花(キンセンカ)が添えられたもの。

 雨は火炎を弱め、金盞花には火傷を治す効果がある。

 そして、花言葉は『慈愛』。

「すぐに杏花(シンファ)も纏うようになる」

「確かに。あの家紋はどこの家?」

 数珠のような円の中に、鬼灯に似た植物が描かれている。

「あれは…」

 瑞雲(ルイユン)の言葉よりも先に、どこかの門下生が噂話をしている声が聞こえてきた。

「見ろよ。欒山(らんざん)(ニー)氏だ」

「うわ。あそこって嫡子よりも養子の方が優秀って有名な……」

「ほら、来たぞ。(ニー)公子(若君)(ニー)公子(若君)だ。嫡子の若蓉(ルォロン)よりも義弟の扶光(フーグゥァン)の方が存在感あるな」

「霊力の強さも全然違うんだろ?」

「そうそう。霊力の量こそ若蓉(ルォロン)の方が多いらしいが、それ以外は何もかも扶光(フーグゥァン)が優っているとか。(ニー)宗主も扶光(フーグゥァン)を世子に立てるかもって噂だぜ。可哀想だよな」

 彼らの嘲笑と不快な物言いに顔を顰めながら、杏花(シンファ)(ニー)氏の二人を目で追った。

(可愛らしい顔立ちで小柄なのが若蓉(ルォロン)で、背が高くて色っぽい方が扶光(フーグゥァン)か)

杏花(シンファ)、瞳が光っている」

「さっきの人達の言葉が許せなくて」

 杏花(シンファ)の瞳は杏色に発光している。これは父方の遺伝で、精神的に何らかの揺らぎがあると霊力の光が瞳に現れてしまうのだ。

 色は個人によって違うが、発光する理由は主に怒り。あまりいいものではない。

「もういいや。瑞雲(ルイユン)、武闘場へ行こう」

 瑞雲(ルイユン)は頷き、二人は飛んで向かった。

「それ、格好いいよね」

風火輪(ふうかりん)か」

「うん。くるぶしのところで高速回転しているそれ」

「私は医仙(いせん)の特徴の一つ、杏花(シンファ)の翡翠色の羽衣も好きだ」

「お母さんもお兄ちゃんも朱蓮(ヂュリィェン)も同じ色だよ」

 医仙(いせん)や仙人、仙女と呼ばれる種族は、空中へ浮かぶときにその背に羽衣が出現する。

 その色は遺伝によって受け継がれる。

 二人は武闘場へ着くと、それぞれ左手に剣と蓬莱刀を出現させ、鞘から抜いた。

「よろしくお願いします」

 互いに一礼し、間合いを図ることもせず床を蹴って刃を重ねた。

 火花が散る。

 十合、二十合と、次々に斬り結んでいく。

「おい、なんか始まってるぞ!」

「こっち来てみろよ!」

 二人の激しくも流麗な手合わせを見ようと、各武門(ぶもん)の門下生達が集まってきた。

(リン)公子(若君)だぞ! 戦っているのは誰だ……?」

「お、女子(おなご)⁉︎」

(リン)公子(若君)天宮閣(てんきゅうかく)が出している天宮(てんきゅう)達人(格付)で第二位だぞ!」

「あの家紋、初めて見る紋だ……」

 どよめきが津波のように広がっていく。

 百合目を斬り結んだところで、二人は最初の位置へ戻り、鞘に納めてまた互いに一礼した。

「さすがは(リン)公子(若君)

 拍手をしながら近付いてきたのは紅葉山荘(こうようさんそう) (レイ)氏の世子、如昴(ルーマオ)

 紅葉山荘(こうようさんそう)天宮(てんきゅう)富豪榜で第一位の大富豪武門(ぶもん)というだけあって、周囲のどよめきが一層大きくなった。

「もっとすごいのは、そんな(リン)公子(若君)と対等に渡り合ったそちらのお嬢さんですね」

 如昴(ルーマオ)はまるで値踏みでもするように杏花(シンファ)を見つめた。

 間に入ろうとする瑞雲(ルイユン)に手で近づかないよう合図し、杏花(シンファ)は相手の出方を伺った。

 ここで間違えれば、変な注目を浴びてしまう。それは避けたい。

「初めて見る刀に、刀術。そして家紋……。使っていたのも霊力とは違う力。お嬢さんはどちらの武門(ぶもん)に師事を?」

 杏花(シンファ)作揖(さくゆう)し、答えた。

「お初にお目にかかります、(レイ)公子(若君)。私は扶桑(ふそう)星辰薬舗(せいしんやくほ)の娘、(シン) 杏花(シンファ)と申します」

 如昴(ルーマオ)をはじめとして周囲の人々が「え? 薬舗の娘……?」と訝しげな表情をするのが感じ取れた。

「えっと……、それはどういう……」

 如昴(ルーマオ)がさらに質問をしようと口を開いたその時、「皆さん、顔合わせは明日ですよぉ!」と叫ぶ声が聞こえた。

(シュェ)公子(若君)

 瑞雲(ルイユン)杏花(シンファ)作揖(さくゆう)すると、それに続いてみんなも同じく作揖(さくゆう)した。

「どうもどうもぉ! 皆さん、長旅でお疲れでしょうから、宿舎でゆっくりしてください」

 まるで少女のような可憐さを持った菫鸞(ジンラン)の笑顔に、皆つられたようだ。

 「お言葉に甘えて」と、次々にその場から立ち去っていった。

 如昴(ルーマオ)だけは後ろ髪を引かれていたようだが、菫鸞(ジンラン)が「如昴(ルーマオ)もほら、どうぞどうぞ」と促すと、渋々武闘場を後にした。

「ありがとう、菫鸞(ジンラン)

 杏花(シンファ)菫鸞(ジンラン)へ駆け寄り、両手を握った。

「人望だけはあるからね、私」

 菫鸞(ジンラン)は桜色の唇の口角をあげ、悪戯をする子供のように微笑んだ。

如昴(ルーマオ)は自尊心が蒼天に届くほど高いけど、良い子だから仲良くしてあげてね」

「わかった」

瑞雲(ルイユン)もだよ」

 菫鸞(ジンラン)杏花(シンファ)からそっと手を離し、その手を顎の下でぎゅっと握った。

 瑞雲(ルイユン)は頷き、二人の元へ。

 杏花(シンファ)にとっても、瑞雲(ルイユン)にとっても、菫鸞(ジンラン)はこの一週間ほどで急激に仲良くなった『杏花(シンファ)の女友達』という位置付けのため、杏花(シンファ)菫鸞(ジンラン)が手を握り合おうが二人だけでお茶をしようが、瑞雲(ルイユン)は気にならないのだ。

「二人はどうする? 私は兄上の手伝いで書房に行くけれど」

「私達も手伝う。ね?」

 瑞雲(ルイユン)も頷いたため、三人で書房へと向かうことに。

「女性門下生の皆さんの視線が少し鋭利だったのは、瑞雲(ルイユン)のせい?」

「だと思うよぉ。(リン)養花天(ようかてん)は人気あるから」

 琅雲(ランユン)瑞雲(ルイユン)はその眉目秀麗、品行方正、文武両道なことから、『(リン)養花天(ようかてん)』と呼ばれている。

 二人を見習い修練を続ければ必ず花開くと言われているほど優秀な兄弟だと有名で、琅雲(ランユン)天宮閣(てんきゅうかく)天宮(てんきゅう)才子(さいし)榜第一位に輝くほどの実力者だ。

「でも、心配することないんじゃない? 杏花(シンファ)は女の子落とすの上手でしょう」

「落とすって言い方は語弊があると思うのだけれど」

「だって、不凍航路(ふとうこうろ)の侍女で杏花(シンファ)を慕わない女子(おなご)はいないよ?」

 瑞雲(ルイユン)も同じ意見なのか、深く頷いた。

「で、でもさ、ほら、あの、武門(ぶもん)の女性にも有効なのかはわからないし」

「明日にはわかるんじゃない?」

 菫鸞(ジンラン)は美少女かと思うほどの華やかな笑みを浮かべた。

「そうかなぁ……」

 杏花(シンファ)扶桑(ふそう)の妓楼、芍薬楼で、百花王のお姉様方に教えてもらった世渡りの方法を頭の中で必死に思い出そうと試みた。

 異性から恋愛感情をもたれず、同性から支持を得やすくなる紳士的振る舞い。

 そんなことが息をするようにできれば、こんなに悩むことはない。

 杏花(シンファ)はお気楽な友人の言葉に苦笑しつつ、明日からの身の振り方を思い、小さくため息をついた。


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