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クリスマス防衛機関エクスレイ  作者: 佐武ろく
序章:クリスマスの秘密
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4

 サンタさんと雪舟を挟んだ向こう側には得体の知れない――そう、化物と呼ぶに相応しい容貌の何かがいた。嘴のように先へ僅かに伸びた口と頭には山羊角。人型ではあったが両手は位置がズレ、背中からは尖鋭なの触手が数本生えている。全体的に不気味な外見だ。

 しかもそれは一体だけではなく囲うようにいた。


「なにあれ……」

「あれはランプスじゃ。一言で説明するなら化物が分かり易いかもしれないな」


 ランプス、聞いた事もない名称はもはや理解の手助けにすらならない。

 一方であの時のサンタさんは片足を踏み出しそのまま雪舟を跳び越えた。でも着地したサンタさんはランプスに囲まれ、側から見れば絶体絶命。


『儂が良いと言うまで開けちゃ駄目じゃよ』


 すると聞き覚えのある言葉が聞こえそれに対し幼い私が答えると、正面の一体が口火を切りサンタさんへ向け四つん這いで駆け出した。瞬く間に接近すると最後は跳躍し、花咲くように開いた口。無数の小さな牙の羅列を剥き出しにランプスはサンタさんへと襲い掛かった。

 だがその口がサンタさんの顔を喰らうより先に、手袋越しの左手がランプスの喉元を掴んだ。そしてそのまま横の方へ引っ張っては死角を突いて飛び掛かってきていたもう一体の盾にし、開いた口へ捩じ込むように体をぶつける。

 一方その時には反対側からも別のランプスが二体、地を蹴り襲い掛かって来ていた。それを横目で確認したサンタさんは右足を踵は着けたまま上げ、地面へ叩くように振り下ろした。足音に呼ばれサンタさんとランプスの間へ一瞬にして現れたのは、煌びやかなクリスマスツリー。ベストタイミングで出現したツリーは飾り付けと枝や葉を揺らしながら盾となりランプスを防いだ。

 とは言え一息つく暇も無く、更に正面から五体のランプスが。だがサンタさんは動じる事なく両方の手銃を二丁拳銃のように構えた。それに合わせ周りには幾つもの雪玉が現れている。ふわり浮かんだ雪玉はサンタさんの撃つ動作を合図に弾丸の如く発射されていった。それがランプスに触れると雪玉が砕け散るように小さな爆発が咲き、奇怪な体は辺りへ黯い鮮血を飛び散らせながら雪のクッションへと落ちていった。

 すると今度は何やら隣のクリスマスツリーから雪結晶の飾り付けを手に取り始めるサンタさん。どうするのかと思えば、それをツリー目掛け投げ飛ばした。その寸前、手元で三枚へと増えていた雪結晶は手裏剣のように回転しながらツリーを切り裂き、更にそのままツリーの背後から接近しようとしていたランプスまでも切り刻んだ。

 しかしそんなサンタさん上空には既に他のランプスの触手が伸び包囲網を生み出していた。先端はサンタさんを睨み付けており――そして無数の触手が雨の如く一斉に降り注ぐ。瞬く間にサンタさんは雪煙に呑まれてしまった。


「サンタさん!」


 私は思わず叫んでいた。そんな私を隣で今のサンタさんがどう見てたのかは分からない。だけど少なくとも視線先のサンタさんにはこの想いが届いたのかも。

 風に流され段々と雪煙が晴れていくと――そこには身を寄せ合い地面に突き刺さる触手の群れがあるだけで、サンタさんの姿はどこにも無かった。一瞬、不覚にもランプスと私の思考は全く同じ道を辿ったと思う。サンタさんが消えた事に対しての吃驚とどこへ消えたかの疑問に辺りを見回した。

 そんな中、サンタさんの姿はランプスを見下ろす屋根の上に。私より僅かに遅れ、雪を踏み締める音にランプスは一斉に屋根を見上げた。それを見下ろしながらサンタさんは掌を空へ向けた右手を下から何を持ち上げるように上へ。

 すると、それぞれのランプスの足元からプレゼント匣が現れた。かと思うと弾指の間にその奇怪な姿を呑み込んでしまった。丁寧に上から蓋とリボンまでされて。

 そして眼下のランプスがプレゼント匣へと変わると――サンタさんはその片手を絞る様に閉じた。それに合わせプレゼント匣は一斉に時空へ吸い込まれるように跡形も無く消えてしまった。

 サンタさんはそれを確認すると屋根から下り雪舟へと近づいてゆく。

 その時、ふと立ち止まったサンタさんは視線を右手の方へ向けた。私も釣られ同じ方へ視線をやってみると、そこに広がっていた光景に思わず声を漏らしてしまった。


「嘘……」


 そこには先程とは比べ物にならない数のランプスが道と屋根を埋め尽くしていたのだ。触手を畝らせるランプス。口を大きく開き唾を飛ばすランプス。それは今にも襲い掛かってきそうだった。

 しかしサンタさんは落ち着き払った様子でランプスの群れへ体を向けると、そのまま視線を星空へと向けた。


『今夜も星が綺麗じゃな』


 悠長にそんな事を呟きながら白い手が空へと伸びる。星空を掴もうと伸びた手に余り力は込められておらず少し握った状態。

 すると指先は星へ反応するように小さな光を放ち始めた。煌めく希望の光、そう表現したくなるような綺麗な輝き。


『うん! キラキラしてて凄かったよ!』


 そんな中、私の興奮気味の返事が空気を読まず聞こえる。

 一方でサンタさんはその手を、星空を撫でるようにそっと下ろした。指先の光が微かに尾を引きながら――でも手が下りても世界は微動だにしない。それとは相反し、ランプスの群れは先頭部分が動き始め大きな波としてサンタさんへ襲い掛かろうとしていた。

 だがその時――私は確かに見た。星空を駆ける流星群を。競争でもしているように尾を伸ばし流れていく星の群れは、戦争でさえ止めてしまいそうな程に美しく、物足りない程にあっという間。こんな状況だというのに私はもっと見たいとさえ思ってしまっていた。

 すると次の瞬間。星空からはそんな私の期待に応えるかのように、無数の光が降り注ぎ始めた。光は先頭からなぞるようにランプスの群れを包み込んでいき、辺り一帯を昼間のように照らした。

 空から雨のように線を描く光。それは正に星空から振ってきた流星のようで、視界一杯に広がる光の柱はとても美しい光景だった。これがランプスへ向けられたモノだという事をすっかり忘れてしまう程にとても美しく。

 でも直ぐに尾も地面へと降り、先程の光は幻想のように消え去った。花火みたいにあっという間の出来事が過ぎ去ると、そこには何事もなかったと言わんばかりにただのホワイトクリスマスに染まった街並みが広がっているだけ。


『開けてごらん』


 それからプレゼントを取り出したサンタさんが幼い私の前へ行くとその後は私も知ってる光景だった。

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