規制の抜け道
地下工房にこもって数週間、ドワーフ達とあーでもないこーでもないと頭を捻らせようやく1丁の銃が完成し壁外の野原で試射を行う段階まで行き着いた。
(やっと完成した!動いてくれよ!)
そう祈る後から声が掛かる。
「これがその銃か、やけに軽いな」
エルフ族の副市長ポールが興味深そうに眺め持ち上げる。
壁の上には見物人が数多く並んでおり野原にも行商人が野次馬しに来ていた。
「長さ160センチ重さは3キロ弱。従来品より1キロ軽く40センチ短くそれに伴い口径を3センチから1センチに減らす事で威力は減りましたが規制対象の槍として使用出来るように先に剣を装着出来ます」
腰に差した腕一本分の長さはある細身の銃剣をガチンと銃口に嵌め込んだ。
「なるほどな、槍とクロスボウの両方の機能を持たせた訳だ」
「ご理解頂けたようで何よりです」
「新たな銃は3分の2を銃身が占めているがこれに理由は?」
「長くする事で射程を伸ばし最後端の木材部分を頬に当てて更に安定させます」
「なるほどなぁ、画期的だな」
いつしか副市長は目を輝かせていた。
「早速射撃試験を始めましょう、標的は前方にある人型標的です」
そう言って人の形に切り抜いた100m先の木の板を指差した。
夏の日差しが銃身を熱し野次馬達はざわめき立つ。
「それでは撃ちます、大きな音がするので気をつけてください」
黒い粉末状の火薬を銃口に注ぎ入れ棒で突き固めて鉛のパチンコ玉みたいなのを同じように押し込んだ。
銃を構えて引き金に指を掛ける。
ドン!
天地を揺るがすような大音量の銃声
「おぉ!」
その瞬間歓声が沸き近くに止めてあった馬は嘶き前脚を上げて暴れた。
標的は胴体から上が見事に吹き飛んでおり凄まじさが見てとれる。
「よくやった!」
「お褒めいただき光栄です」
微笑みながら安堵した。
おべっかは転移後に覚えた技の一つである。
「それでは更に遠距離を狙ってもらおうか」
ニコニコの笑顔である。
「この距離が限界です」
「なに?」
「矢のように安定翼が無いのでこれ以上を超えるとあらぬ方向へ飛んでしまいます」
「うーんそうか、採用結果は後ほど知らせる」
思いの外残念な顔をしていた。
―――
次の日、出勤すると自分の机の上に封筒が置かれていた、ふと手にとり開けた時。
「聞きました!?試験の結果!」
部下のドワーフが笑顔で声を掛けた。
封筒の中身を見ると(合格)とだけ書いてあった。
「書いてある通りです!ジョージ組合長からは増産の指示が市内の各工房にされたはずです」
「それは良かった!」
この街に来て1ヶ月以上が経つがようやく実績が出来たと心の底から安心て胸を撫で下ろした。
「あとそれから訓練の方もして欲しいそうですよ?」
―――
防衛局から最大限に人を集め三十人が野原の射撃場に1列に集合した、肩には新型銃改めブルーノ式銃が掛かっている。
「ではこれから基本的な射撃方法を教えます」
そう言って基礎訓練が始まった、教本は旧日本軍が発行してフリマに流れていた物を一部変更して行われた。
装填発砲はもちろん銃の整備などの細々としたものまでである、覚えの良かった者には教本の中に記してあった戦法を教える事にしたが、命中率を高める為に中世で採られた戦術である戦列歩兵を市長命令で採用された。
「こんな物役に立たないんじゃないのか?剣を使えば良いだろ」
「装填時間が長すぎる、まるで的じゃないか」
そんな不満が当然防衛局員の中から噴出したし参加は強制ではないので段々と人数が減ったが問題にはならなかった。
「課長殿、明日の訓練は何をしますか?」
そう聞いてきたのは門で大泣きしていた村人である、生き残った男達はいつか仇を討とうと自主的に参加したのだ。
「明日は駆け足と陣形転換です」
そう言うと駆け出して村人達と合流した。
最早我々より村人の兵士が大半を占めたが敵を倒すべく一致団結していた。
そしてその時は訪れる。
「敵襲!」
鐘が街中に鳴り響く。