工業振興課
「ほう、これが鉄砲ですか」
エルフが興味深そうに火縄や引き金を触る。
「ワシにも見せてみろ」
ドワーフがエルフを急かして言う。
「すまないね、彼等は私の古い知り合いでな、会った当初から銃器の話はしてあったんだが、当の黒色火薬が最近完成したばかりなんだ」
「これなら作れそうだ、早速ワシの工房に行ってくるわい」
そう言うとドワーフは扉を蹴飛ばすように開けて慌ただしく出ていった。
「助かったよ、従来の弓なんかだと数年はかかるからね」
エルフはほっとしたような表情だ。
「そうそうワシの名は知っているか?」
市長だという老人が言う。
「いえ、まだ知らないです」
「ワシの名は若林銀次郎だ、これからよろしく頼む」
「こちらこそ」
恭しく頭を下げる。
「君、ちょっといいか?」
「何でしょう?」
エルフの問いかけに答える。
「私とあのドワーフの自己紹介がまだなんだよ、私の名はポールだこの街の副市長をしている、あの慌しく出て行ったのは工業組合長のジョージだ」
「という事だ、よろしく頼む、君には防衛局内に新設された火薬兵器開発部…秘匿名称で工業振興課に課長として配置する、この街の防衛は君に掛かっている!頼んだぞ」
その時部屋の扉が開いた。
「佐藤さんですね?振興課のリチャードです、課の方までご案内をしたいのですが、お話しはもう終わりましたか?」
申し訳なさそうな顔で若いドワーフが顔を出している。
「すまなかったね、いやー歳を重ねると話が長くなってしまうんだよ」
市長と副市長がへへっと笑った。
「では行きましょうか」
「ええ、ご案内しますね」
「頑張ってくれよ我が同胞よ」
「ええ、我々日本人同士頑張って生きましょう」
名残惜しく部屋から出た。
案内されたのは役所の地下三階。石造りで魔術のほんのりとした明かりが灯っている大部屋だ、鍛治に使う炉や本棚に錬金術の道具が多数置いてある。
「こんにちは、どうぞ課長殿」
案内され椅子に座る。
「我々ドワーフは今この町では希望の星です、そこに転移者の方がいれば百人力ですぞ!」
「話は聞きましたよ!異世界の道具を出せるとか!」
何処ぞで売ったテントを手にはしゃいでいる。
「見たところ研究施設のようですがここで銃を造るのですか?」
大はしゃぎのドワーフたちに圧倒された。
「ここで銃を作るのですよ、30年前から研究を行いハンドキャノンと言う紛い物の鉄砲を作ったのですがあまり良い出来ではなかったんですよ」
1人のドワーフが鉄の筒に箒の柄を付けたような物を持ってそう言った。
「出来たぞ!試作品だ!」
そう言って入ってきたのはジョージ工業組合長だ、火縄銃のばね仕掛けがついたハンドキャノンを持っている
「今までは火縄を手で直接点火口につけて撃っていたがこれなら指一本で撃てるんだ!すごいだろ!」
撃つ身振りをしながら説明をした。
「残念ながら凄さが分かりません僕は前の世界ではただの学生で兵器に関する知識も持ち合わせ居ませんでしたから」
「ならば覚えたらいい、書物の召喚も出来るのだろう?」
「無償ではありません、この世界の物を売って異世界の通貨を得てそれで買っているのです」
「なるほど、ならば」
そう言うと近場の箱をこじ開けて中から色々な物を出し始めた。
「これなんかどうだ?この前手慰みに作った木彫りの人形なんだが」
「売れそうですね」
「そうか!だろ?やっぱ上手いんだよ俺は!」
子どものように目を輝かせはしゃぐ組合長。
一つ500円ほどで売りに出した。