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第二話 カイコウ

「どうしたの。お化けでも見たような顔して」


「あぁ、いや」


 目を細めて聞いてくる彼女に、俺は何と返せばいいのかわからなかった。

 自分の意思で声を発したのはいつぶりだろう。それすらもわからない。


「その……人と、ちゃんと、会話したの、ひ、久しぶり……だったから」


「ふぅん」


 だから、か細い声で吃ってしまった。花宮さんも適当な相槌を返しているではないか。

 何か話題を。話題を作らなければ。


「何で、僕に、優しく、してくれるの」


 それで出てきたのが、これだった。


「え、優しく?」


「だって、こうして、普通に、話して」


「うーん……」


 答えに困っているようだった。そりゃそうだ、こんな変な質問に対して真面目に考えてくれるだけでも……


「自分の人生が一番不幸だって、思ってそうだったから」


「え、は?」


「だってほら、ブサイクで猫背で、それに声も弱い」


 いや確かにそうだけどさ。そんなガッツリと言う?

 そう呻き声を上げている俺を、彼女はクスクスと笑い。


「放っておけないんだ。そういう人」


「そんな、でも」


「申し訳なく思うくらいならさ。私の自己満足に付き合ってよ」


 ああ、ダメだ。

 窓から差し込む夕日をバックに、首を傾げて微笑んでくれる顔の良い同級生クラスメイト

 これを前にして、心惹かれないわけないだろうが。


「……もう、救われてんだよ。花宮さんが、俺に、話しかけて、くれた、時点で」


「少し柔らかくなってきたじゃん」


 なら少し聞かせてよ、と花宮さんが続ける。


「音無君はさ。どんな人生を送りたいの?」


「普通の人生」


「普通って、なに?」


「平凡な家庭に生まれて、そこそこな大学行って、友達作って、恋して、就職して、それから」


「結婚して、子供作って、孫に囲まれて死ぬ?」


「うん」


「ふぅん」


 前世は悲惨だったのだ。いまも後先を考えず、花宮さんに会えるかもしれないという理由で奨学金を借りてFラン高校へ通っている。


「私はツマラナイと思うな、それ」


「なっ」


 だけど彼女は俺の願いを一蹴した。

 これには俺も腹が立ち、ガタンと大きな音を立ててしまう。


「だってそうじゃん。音無君が好意を持ったってことは、それは世界一じゃなくて平均点ってことになる。相手が可哀想じゃん?」


「それはっ! 最初から色々持ってる人の、傲慢だ!」


「自分の人生、傲慢で何が悪いのかな」


「それはっ……」


「それは君も同じじゃないの?」


 図星だった。そりゃ俺だって、なるべく良い暮らしをしたい。

 だが思い浮かばないのだ。今までの人生が不遇すぎて、幸せとは何なのか。


「だから本当に人生でやりたいことを見つけるためにさ。いちど、これまでの人生を見つめ直してみない?」


「えっ」


 一瞬怪訝な顔を浮かべたのがバレたのか、花宮さんが詰め寄ってくる。

 逃げられないと思い、俺は今までの人生を。


「う、ぶぷぅ!!」


「少しずつでいい。でも、やらなきゃダメ」


 そして俺は一年近くかけて。

 思考や理性を手放したくなるほど悲惨な人生を、噛み砕くことになった。

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