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俺という名の人類。俺という名のパンダ


高校二年の夏休みのくそ暑い中。


俺は小遣い稼ぎに日雇いバイトをすることにした。


選んだのはテーマパークでパンダの着ぐる姿で風船を配るバイト。


しかし、俺のこの決断が、人生を大きく変えることになるだなんて、当然あの時の俺は知る由もなかった。


あとひとつ言わせて欲しい。


これ、脱げなくね?



◆◆◆



いや、待って。


マジでなんで脱げないわけ?


今自分がいる世界(遠くにドラゴンが飛んでいる)が、夢かどうかを確かめるためには、まず頬をつねりたいところだ。


だが、着ぐるみのままだと不可能。


パンダの被りものは上に引っこ抜けばわりと簡単に脱げるーー


バイト開始前、優しい女の先輩・田中さんがそう教えてくれていた。


実際にバイト終わりに一人で脱げるようにと何回か練習もした。


「くっ……この……!」


なのに、なぜかまったく脱げる気配がしない。


「いや、待て。それよりなんだ、この感覚……?」


被り物に触れていて気づいた。


自分の体の一部じゃないはずなのに、パンダの毛並みに触れると、まるで自分の肌を直接触っているような感覚に見舞われる。


試しに他の部位も触ってみる。


「は?」


やっぱり、地肌を撫でているような感覚がある。


「……」


考えたくないが、これがもし、夢じゃないんだとしたら……。


嫌な思考が頭をよぎる。


「いやいやいやそんなはずない! ……あ、そうだ背中のチャック!」


背中に両腕を回してみる。


「うぉ〜! 届かない!」


しばらく試してみるもダメだった。


チャックさえ確認できれば、悪い考えがただの妄想だと証明できたのに……。


「はぁ、はぁ……鏡がいるな」


しかし、それが悪あがきなのはもうわかりつつあった。


着ぐるみの足はたわんだ部分で隠れていてわかりにくいが、ブーツのようになっているはずだった。


にもかかわらず、脱ごうとしてもやはり脱げない。


なんなら、足も直に草むらを踏んでいる感覚だった。


「……落ち着けー。すぅ……はぁ……。でもこれって、マジで異世界転生ってやつなのでは?」


赤ん坊に生まれ変わっているわけでもないので、本来なら転移が正解。


だけど、この状況は−–


「認めたくないが……もし、もしだ……俺の体がパンダになっている場合、生まれ変わっているに等しい……。それってもう、異世界転生、だよな……?」


誰に尋ねるわけでもなく、奇妙な色の木々や植物が群生している森の中でひとりごちる。


穏やかな風が吹き、緑が優しい音を奏でる。


「ーーはぁ……平和だねぇ〜」


俺は現実逃避に走っていた。


しかし、事実は小説より奇なり。


俺に向かって、徐々に咆哮を大きくしながら接近するものがあった。


この世界に来てから、空を飛び回っていたドラゴンだ。


どうやら俺を餌として捉えているらしい。


火炎を吹きながら一直線に俺に突進してくる。


「は? ちょ! いきなりピンチ到来か⁉︎ どうしたらいいんだこの状況! なんでもいい。何か道具やスキルは!」


言った途端、突如として眼前にホログラムが出現した。


道具と書かれた欄には、標準武器とある。


「ええい! この際なんでもいい!」


ゲーム感覚で標準武器をタップする。


俺の手元が輝くので両手を伸ばすと、とてもしっくりくるものが握られていた。


「そうそう待ってた! これだよこれ、勇者の剣ならぬ竹槍! …………って、竹槍?」


俺が握っているのは先の尖った紛うことなき原子武器だった。


ホログラムを再確認すると標準武器という名称の隣に注釈でこう書かれていた。


『パンダブレード(竹槍)』


「この時代に根性論でどうにかしろと!?」


しかし、言ってる暇はない。


ドラゴンがもう20メートルほどの距離に迫っていた。


「くそ、ええいもうやけだ! 夢かどうかもわかんないけど、とにかく死にたくはない!」


俺はパンダブレード(竹槍)を勇ましく構えた。


「いいかドラゴン! 俺という名の人類を……いや、俺という名のパンダをなめるなよー!!!」


突如として緑色に輝く竹槍がドラゴンに向かって振り下ろされた。


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