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知られた上で

 オリヴィエは俺の一挙一動を逃すまいと鋭い眼差しで睨んでいる。


 彼が先ほど言ったこと。

 "勝って正しさを証明する"


 ……非常に単純かつ簡単な証明方法だ。


「それなら俺が正しい」

「ぬかせ、青二才」


 きらりと剣に太陽が反射する。

 次の瞬間、目の前に現れる剣先が俺の頬を掠めた。

 オリヴィエが動くのは分かっていた。


 だから俺自ら突っ込んでいた。


 驚きに目を見開くオリヴィエの胴体めがけ、蹴りを叩き込む。

 しかしミシリと音を立てて砕けたのは木だった。突如現れた木により蹴りが防がれる。


「いつの間にっ?!」


 間違いなくオリヴィエの魔術だろう。


 地面から細い樹木が数多く生えていたのだ。

 それもただ生えているのではない。

 生えたそれらは幾つも複雑に絡まり、頑丈な盾となっていた。


 奇妙な盾が俺の足を受け止めるその一瞬、オリヴィエの剣筋が進路を急に変える。


 突きから振り下ろしへの急な動きだ。


 しかし俺を切り裂こうと振り下ろされた剣筋は俺に届く事は無かった。盾となっていた木をオリヴィエ自身が2つにする。


 切られた木々がゴトリと落ちる。

 そこから覗けた断面は鏡のようにつるりと光っている。

 鋭い剣筋でなければこういった風には見えないのだろう。


 オリヴィエは苦い顔で舌打ちをした。


 急に剣筋を変えた攻撃だったのだ。

 避けられるとは思っていなかったのだろう。


「ちっ、お前本当にCランクかっ……!」

「おうっ、合ってるぞっ!」


 オリヴィエは突然何も無い地面に向かって刃を振り下ろし、ピタリと動きを止める。


 そして何かを小さく呟いてた。呟く言葉は長いが、意味は読み取れない。いや、恐らく読み取らせなかったのだろう。


 すると木々が再度、あちらこちらで現れ始める。

 現れた木からは花が咲き、そして萎れて膨らむ。


 そして花だった膨らみから何かが弾け飛んだ。


 その何かは小さな種だった。

 ありとあらゆる方向へと小さな種が飛び交う。


 視界を広げ、種が空気を割いて飛ぶ音を捉える。それは飛び交うそれらの合間を縫って回避する。


 種同士がぶつかれば雷がはしり、炎が噴出し、蔦が絡まる。

 地面に埋まった種からも同じように木々になり、魔術を発動したかのような現象が発生した。


 小さな種を視界に捉え、または空気を割く音を拾い全てをかわす。

 種がどこにあるかさえ分かれば回避は簡単だ。


「当ててみろ、よっ!」

「大口を叩くだけはある——だが」


 全て芽吹くのだ、とオリヴィエは剣を足元に突き立て、どっしりと構える。


 その瞬間に飛び交った種からまた木が現れて花開き、萎んでは膨らむ。


 随分とまた木の数が多い。

 饅頭ほど多くはないが。

 いつ弾けても良いように木の場所を観察しながら饅頭を食う。


「次はかわせまい」

「お前を倒せば全部一気に解決する」

「そんな簡単にいくとでも?」

「倒れるさ」

「何処からその自信がくるの、か!」


 種が弾け飛んだその瞬間だ。

 オリヴィエが俺と距離を詰める。


 動くつもりがない、と見せかけて俺を斬るつもりだったようだ。


 俺の方もオリヴィエへ向かわない理由は余計に無い。

 少しだけだが空腹も満たせた。


 接近するオリヴィエに俺から目の前へ。俺の速さなら、一瞬で辿り着ける。


「なっ……!」

「遅い」


 オリヴィエは突然現れた俺に反応しきれなかったようだ。

 振り抜かれる一閃にキレが無い。


 しかしそんなものは俺に関係ない。

 横薙ぎにされようと振られた剣は俺の足で完全に真っ二つ叩き折る。


 オリヴィエは驚きで目を丸くしていた。


 輝く足をオリヴィエへと叩きつける。


 その時、体の泥が弾け、オリヴィエは崩れ落ちた。

 スワンの時と同じだ。


 しばらくこれで動けないだろう。


「俺が勝ったぞ」

「…………知られた上で生きろと?」

「おう」

「……」


 少しの沈黙の後、オリヴィエは空を見つめながら俺に問いかけた。


「お前は俺を、俺たちをどう思う」

「……お前が泥であろうが無かろうが関係ない。邪魔するなら当然ぶっ飛ばしてた。それにスワンは俺の大事な仲間だ」


 そうか、とオリヴィエは一言だけ呟いて倒れ込む。


 もう戦意は無いようだ。


 俺は最後の装置を破壊しようとして周囲を見渡す。


「あれ……誰か叫んでる?」


 ディカとフィーサが火の手が上がる塔の上で俺に向かって叫んでいた。

 何を言っているのか聞き取れなかったが、必死になって地上を指差している。


 塔や建物が所々不自然に崩れて燃えていた。何か巨大なものがぶつかった跡のようだ。


 丁度、壁に中途半端に壁にめり込んでいたイースが地上に落下していった所だった。


「イース? …………落ちてないか?」


 羽ばたくドラゴンの大きな羽がイースに着いた火をかき消そうとばたつかせている。


「おいっ、後ろだ!」

「?!」


 魔族は水を大量に含んだ泥を滴らせていた。


「この裏切り者」

「お前……何でここにいる?」

「何でって答えは簡単でしょうに。鬱陶しい女だったわ」

「待て、それじゃスワンは」

「さぁ? 今頃消えてるんじゃない? 信じられないなら、見に行ってみたら? 砂になったか、もしくは氷の標本ね!」


 あの騎士の男に任せて正解だったわ、と魔族が笑った。


「最後の魔力を振り絞って出した水は外れてっ! あははは! 氷魔術を直撃していたの! あれは愉快だったわ!!」

「っ!?」


 魔族の笑い声に反して、遠くから2人の男女の悲鳴が上がった。

 隣の塔では一層炎が膨らんだ。

 何があったのかと見れば見覚えのある騎士がひとりボロボロの状態でフィーサ達に刃を向けている。


「フィーサ!? 炎の騎士か!?」

「っ、あいつ……まだ……」


 地上に居るイースは建物にぶつかりながら上へと飛んできているが、確実に間に合わない。


「あはははははは、忠実な騎士は彼の事……っな!」


 笑って油断をしている魔族の真横を通り抜ける。


 オリヴィエの上を飛び越えて飛びあがった。


 あの時、スワンは任せろと言ったのだ。


 だから、俺が今する事は。


「信じてるんだっ!」


 立ち止まる暇なんてない。

 空に飛び出して浮く体。


 塔より高い建物はない。短い助走で届くかどうか怪しい距離だ。どうにか崩れた場所に着地を、と考えていた時だ。


 突然背中に何かがぶつかり、体勢が崩れる。

 ひりつく背中と周囲に飛び散る泥。


「っぐ!」


 逆さの視界の中、見えたのは魔族が自身の体を崩している姿だ。


「体を削って投げた……!?」


 まずい、このまま落下する。

 下ではイースがぶつかりながらも近づいていた。

 いや、俺が落ちているのだった。


 イースが落下している俺に気づき、俺の方へと向かってくる。


「レストっ、来いっ!」

「っ、悪い!」


 イースの握られた拳で俺は理解した。


 飛んで上がってくるイースの拳を踏みつける。


「っ!」


 俺が飛び上がった事による反動で、さっきまで俺がいた場所へとイースは奇妙な悲鳴と共に逆方向へと吹っ飛んでいく。


「なっ!?」


 魔族の彼女は体が崩れるのを気にも止めず、一心不乱にその場から逃れようとする。

 その様子を見たオリヴィエは逃げようとしていた彼女を捕まえて抱く。


「サラ」

「何っ! 自滅でもするつもり!? あんたは消えても私はまた蘇るわよ!」

「俺もお前も、頼る奴を間違えた」

「なっ! う、うるさい!?」


 魔族が吹っ飛ばされて飛んでくるイースに気づき、目を見開いた。


「っ!? ——待っ!?」


 ドラゴンを羽を持つ物が塔に追突する。人の姿ではあったが、見た目にはそぐわない程の重量であると分かるほどに大きく建物が崩れる。

 それにより、魔族とオリヴィエを巻き込んで塔が崩れていった。


 炎の騎士は怒りを露わにして、それに呼応するかのように剣に宿る炎が膨らんだ。


「そんな……何、と……何と言う事をっ! 貴様だけは許さぬ!!」

「相手してくれるって? ——でもごめんな」


 俺は信じている。

 でも同じくらい心配もしているんだ。

 だからすぐに行かないと。


「待ってる人がいるんだ」


 膨らむ炎の影に隠れ、するりと騎士の真横を通り抜ける。

 騎士は攻撃されると思ったのか、全くの見当違いの場所へと剣が振り下ろされる。


 俺の目の前では装置が稼働している。

 装置の上空には小さな太陽が出来始めていた。


 俺は装置目掛けて上から脚を振り下ろす。


「——太陽は落ちるモノじゃない」


 装置は壊れ、出来始めていた擬似太陽はただの炎となる。その炎は装置を巻き込んで爆発し、最後の装置は完全に機能停止したのだった。

次回本編 3007字(ヒュー!!!)

12/30 7:00予約投稿完了!!


(時間あったら見直しします! 元気だったら手動投稿しますねー!! では……カクヨムコン9のケルちゃん投稿千本ノックしてきます……!! ストックゼロのアホだから頑張らんとですね……お、おおお、お肉……肉!!!!!!)

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