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迎えに来た

 フィーサとディカはレストと別れた後、息を切らしながら出口に向かっていた。既に疲労が激しかったにも関わらず、彼らの足は鈍ることはない。それどころか2人の表情は生きる気力で満ち、前へ前へと進み行く。


 フィーサがディカを先導して進み、十字路へと辿り着く。ディカは初めに連れてこられた時の方向、左へと視線を向ける。しかしフィーサは彼の視線とは真逆である右を指し示していた。


「こちらです!」

「待ってくれ、出口は反対だ! けれど扉の開錠をどうするかが問題で……」

「いいえ、こちらが正解の未来です!」


 この短い会話の間、間の悪い事に2人の向かう先の角から1人の騎士が駆けてくる。

 騎士はフィーサとディカを見つけた途端、腰に刺した剣を引き抜くと、表情ひとつ変えず闘志を剥き出しにして加速してきた。


「止まって下さい」

「——逃亡者を見逃すとでも?」

「あなたに言っているのではありません。ディカさん、動かないで。私たちはこの位置です」

「……僕に?」

「この女、何を言って、っ!?」


 突然、壁が外から破壊された。

 瓦礫があちこちに飛散する。


 幸いにもフィーサとディカの立つ位置には瓦礫は何ひとつ飛んできては居なかったが、騎士のいた場所はそうでは無かった。


 壁だった物は轟音を立てながら直線を描き、運悪く騎士の元へと飛んでいく。騎士は咄嗟に防御魔術を展開したものの、飛んできた瓦礫によって防御魔術は砕けて塵となった。大小様々な防御魔術の欠片たちは大気に溶けて消えていく。


 騎士は防御魔術が壊れる事を確認せずにすぐさま転がって回避を行なった。


 そんな今の現象を作ったのはひとりの人物だ。壁を壊して塔の中に飛び込んで来ていたのだった。


 粉塵がもうもうと立ち込める中、影がゆらりと動いて立ち上がる。


 彼女は咳き込みながら、背中の羽を大きく仰ぎ、濁った空気を振り払う。


「っ、すまんな!? レスト、無……事、か?」


 碌に制御が出来んくて、とイースは周囲を見渡し徐々に困惑の表情を浮かべる。目的の人物が探せなかったからだろう。


 イースは背中から出していた羽をバキバキと音を鳴らしてしまいながら、フィーサとディカ、そして騎士を何度も見渡す。


「…………ど、どちらさんで……?」


 イースはレストがいない事を悟ると、戸惑いを滲ませながらこの場にいる人物へ問いかける。


「私はあなたを待っていました」


 見知らぬ人物の乱入に混乱と警戒が混じる中、フィーサだけはその瞳に希望を宿したのだった。






















 俺の目の前スレスレに炎が横切る。漏れ出る炎は俺の服を舐めて焦がしていた。


 仰向けとなった視界の端では、さっき俺が蹴飛ばした騎士が氷の剣を苛立ち混じりに突き立てる。


 不恰好な体制のまま突き立てられた氷の剣からは、まるで水をぶちまけたかのように氷が伝播する。それは目に見えるもの全てを凍りつくす勢いだった。


 俺は足元の地面が凍りつく直前、仰向けのまま倒れ込むようにして地に手をついた。定める狙いは俺を切ろうとした炎の剣。振り上げた足で騎士の腕ごと燃え盛る剣を絡めとってやる。そのまま襲い来る氷の波へとぶつけて叩き割った。


 ドゴンと鈍い音と割れる床。


 氷のカケラがきらりと宙を舞う。


 しかし、氷に叩きつける事ができたのは炎の剣だけだった。


 騎士は腕を折られまいと炎の剣を手放す事を選んだのだ。

 彼は俺と氷のエリアからすぐさま距離をとった。


 炎の剣は持ち主の手を離れた後も轟々と燃え盛り、氷の侵食を難なく阻んでいた。


 塵をも焦がす炎によって、空間に舞い散る氷片は溶けて消え去る。


 水が一滴も残っていない床へと一歩二歩下がり、焦げつきかけた足を休める。


「あっぶね!」


 もし足元が凍りつけば不味かった事は明らかだ。なんせ相手は騎士2人。少しの判断ミスが命取りになるだろう。


 けれど先ほどの氷による範囲攻撃は炎の剣によって溶かされ、周囲の足場を保つことができた。

 更には1人は武器を失わせる事に成功したのだ。


 ここで畳み掛ければ勝てる。


 しかしそう思えたのも束の間だった。

 炎の騎士はいつの間にか薄らと赤く半透明の剣を握り締めていた。


 あんな剣など、今の今までどこにも持っていなかった。それは確実にわかった。


 炎の騎士は今ここで、この場で創ったのだ、とすぐに理解出来た。


「……魔術で剣を創れるのか」


 どうやらその予想は正しかったようだ。

 何を当たり前な事を言っているのかと、2人の騎士は表情ひとつ変えずにそれぞれが再度武器を構える。


「随分と大口を叩いたものだ」

「お前程度、過去にいくらでも相手をしている」

「……これまでの勝率はどのくらいだ?」


 騎士は2人同時に俺を鼻で笑った後、真剣な顔つきとなる。


「騎士とは魔術に秀でた者でなければなれない」

「騎士とは武術に秀でた者でなければなれない」

「「理解しろ。お前に勝ち目など万に一つも存在しない」」

「へぇ、そうか。でも」


 俺は床を踏み締めて構える2人を見据える。


「俺は誰よりも速い」


 俺の言葉に対しても、騎士達は警戒を怠るそぶりひとつ見せやしなかった。

 俺は足元の炎の剣を蹴り飛ばす。炎の剣がくるりと回転しながら向かう先は氷の騎士だ。


 氷の騎士は手に持つ氷剣で飛んできた炎の剣を弾く。

 弾いたその瞬間、炎と氷が交わり、水が宙を舞う。

 それら一瞬だけの出来事が氷の騎士の視界を少しだけ防ぐ。


 その一瞬の隙の刹那、俺は氷の騎士へと駆け出し目の前へ。


「ほら遅い」

「っ!?」


 ようやく驚きの表情を見せた氷の騎士の胴体に軽めで蹴りを叩き込む。

 騎士は咄嗟に氷の剣を盾にして防ぎ、防御魔術を発動させた。


 しかし間に合わせた筈の防御方法など少しも役に立たない。役になど立つはずがない。


 バリンと勢いよく割れる防御魔術。

 そのまま叩き込んだ足は氷の剣を真っ二つに折ってしまう。氷の剣は途端に色を失った。


 そのまま蹴り飛ばした騎士の胴体からメキメキと体内が損傷する感触が足に伝わってくる。俺はその感覚ごと騎士を蹴り飛ばす。


 勢いそのまま、蹴り飛ばしたその先は炎の騎士の方へ。


 炎の騎士は少し目を見開き半身で氷の騎士とのぶつかり合いを避けようとする。

 俺はその瞬間を狙って駆ける。


 蹴飛ばして飛んで行く氷の騎士。

 ぶつかる直前に回避しようと炎の騎士は氷の騎士に気を取られている。


 その隙に瞬時に2人の騎士の元へ。


 炎の騎士は遅れて気づき、咄嗟に防御魔術を何重にもはったようだ。

 何度やったところで破れるというのに。

 防御魔術をそのままにして重い足の一撃を食らわせる。


 薄い板が割れる感触と音が周囲に溢れ、2人の騎士が吹き飛んでゆく。


 壁に叩きつけられた2人へ追撃を行おうとした瞬間だ。


 2人の騎士の前に誰かがひとり立ち塞がった。


 俺には目の前に立ちはだかる人物に見覚えがあった。


「スワン!?」

「良かった。ここにいると聞いて来たんだ」

「その手足は……治った、のか?」


 しかし俺と別れた時とは違う。

 砂となって溢れていた筈の彼女の手足は今や怪我ひとつ無い。それは良い事なのだ。


 良いことではあるのだが……


「あぁ、何一つ問題ないよ。何一つね」

「……スワン?」


 少しだけだった。ほんの少しだけだったのだが、彼女の様子に違和感を抱く。


 今までのスワンと何ら変わりは無いのだが、別の何かの意思を感じた。


 スワンは俺に両手を広げて歓迎する。


 けれど、彼女と目があった瞬間から、どうしてか心がざわついて仕方がない。


「迎えに来たんだよ、レスト」

「迎えにって……」


 スワンの後ろで炎の騎士と氷の騎士が顔を歪めて立ち上がる。


「離れろスワン。あいつらは敵だ」

「そこまでする必要はないよ。ひとまずお互いに矛を納めてくれないか?」


 穏やかにスワンは告げる。

 そして出入り口の方向からはオリヴィエと名乗った騎士が遅れてこちらへやってきた。2人相手なら何とかなるが、3人相手は少しばかり時間が掛かる。


「…………あぁ、分かった」

「気づいたんだよ。私たちは分かり合えるんだって。レスト、私について来てくれないか?」


 スワンの綺麗な瞳が一瞬だけ濁ったように見えたのだった。

次回本編 3567字 11/25 7:00予約投稿完了!


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