来るのが遅い
いつもより短いです。
地下遺跡は住む人を重視した構造をしている。
人が生活するにあたって、階層毎に役割が分けられている地下遺跡は様々な部屋の広さがある。それらの大小様々な部屋を合間を縫うようにして、ライフラインが縦横無尽に張り巡らされている。この壁や床の中に張り巡らされるライフラインは全ての部屋を通っている。具体的にいえば上下水道や空調、ガスや電気、運輸や魔力の流れなど、生活するにあたり必須のものだ。
これらは上下水道なら水だけを、通風管なら空気だけを運ぶ管であるが、それだけではない。
緊急事態が発生した際には別のモノも通る時があるのだ。
例えば地下遺跡に敵の侵入を許した場合、機械で出来たコウモリが遺跡内に張り巡らされた管を通り、敵を排除する。
「そこは行けないゾ」
アールは遺跡内にある通風管の壁をバキバキと隙間を埋めるように壊して、コウモリが進んでいた道を塞ぐ。向かう先を阻まれたコウモリは何度か電撃や体当たりを繰り返すものの塞がれた道はびくともしない。
何度か同じ事を繰り返したコウモリ達は無駄だと分かった後、来た道を逆戻りしてから別のルートへ向かった。
それがアールによって誘導されている事にも気付かずに。
たどり着いたコウモリ達に感情があれば不思議に思った事だろう。一向に目的地に辿り着けず、付近のエリアのコウモリ全てが1箇所に集まってしまったのだから。
後から後からコウモリ型が狭い管の行き止まりへと続々とやって来る。行き場のなくなった小型の機械達は羽ばたきすらもままならない状態だ。
「ここダ」
突如としてコウモリ型達の密集地点で一斉に爆発が起こる。爆発は連鎖して発生し、密集していたコウモリ型が次々と巻き込まれる。
「ちまちま一体ずつ壊してられン」
コウモリ型の警備が全て破壊された後、アールによりあちこちの破損した通風管が直される。
アールにとってはコウモリ型の道を塞ぐ為だけに壊していただけで、最下層までの空気の流れはいくつか確保しておく必要があるのだ。全て壊してしまえば空気の循環が全く無くなってしまう。
「これでコウモリ型は全部潰したナ」
遺跡内には合計するとかなりの数のコウモリがいたのだ。地下遺跡の全階層にわたってコウモリ型の警備が設置されていたのである。この遺跡では外部からの侵入者を非常に警戒していたが、内部の揉め事も少なくはなかった。その為、外部の出入り口付近だけに設置するのではなく、各階層にもコウモリ達が設置されていたのだ。
もしも地下遺跡内全域の警備システムが一気に集まってしまえば、レストとイースはひとたまりもないだろう。
それに地下遺跡の内部で複数体設置されているのはなんせコウモリだけでは無い。
シロイノも同様にして各エリアに設置されているのだ。
アールは遠くから地下遺跡の全域を再度見通す。
「あいつら、何を遊んでいるんダ」
他の階層のシロイノは防火扉で封鎖し、あるいは天井や壁を壊して上手く閉じ込めてあった。
後はレストとイースが交戦中の個体だけであった。
けれど2人と交戦中の個体は下手に手を出せばレストとイースを一緒に閉じ込めかねない。
それにシロイノは2人の脱出ルートにばかり移動しているのだ。ふらふらと邪魔な位置にいるシロイノはレスト達に任せる方が良いとアールは判断した。
2人が対応するのはそのたった一個体だけなのだ。
すぐに地上までやって来るとアールは思っていたのだが。
「……来るのが遅イ」
こんな事なら前もって遺跡を埋めちまえば良かっタ、とアールは吐き捨てる。
立ち上がって街灯を手に取り、角灯から漏れる炎に向かってアールは告げた。
「イノ」
『ええ参りましょう、アール様』
炎の精霊イノは非常に好意的な声でアールへと返答する。あちこちで炎が小さく噴出し、照れるように炎がうねる。
アールはそんなイノの様子に満足そうに口角を少し上げ、地面に寛いでいた一羽の鳥を呼び寄せる。
「グラフォ」
呼ばれたグラフォは食べかけていた饅頭を丸呑みした後、翼をばさりと羽ばたかせてアールの肩へと舞い降りる。
「あいつらを回収しに行くゾ」
苔むした石の床を強引に吹っ飛ばし、ぽっかり空いた穴には地下遺跡の内部へと繋がっていたのだった。




