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さっさと吐き出せ

 明るくなった遺跡の風景は一度見た場所でさえ、初めて見たかのように新鮮だった。

 壁は剥がれてボロボロな箇所が所々あるが、剥がれていない壁は艶やかで光を反射している。床や壁と並行して模様が彫られており、たまに落書きされた跡も見える。

 別の場所に来たみたいだ。


 なんせ地下深くの光が届かない建物の中を歩いていたのだ。それもスクロールを燃やす炎だけで。どこもかしこも広い空間では壁や天井の模様なんて近づいてまじまじと見なければ分からなかった。


 俺はイースの元へ、走るというより飛ぶように駆ける。素足が床を蹴るのは加速するだけ。

 イースの場所は事前にアールから聞いていた。いつも生き返った時は酷い空腹に襲われるので、饅頭を食べながら状況と向かう先を頭に叩き込んでおいた。

 そこまで長い時間死にっぱなしだった訳じゃないから、距離はそう離れていない。俺の足なら瞬きの間にイースの元へと辿り着ける。


 次は2つ目の区画を右へ。


 視界に見えた十字路の左角に飛び込み、壁を踏みつけて右へ飛ぶ。曲がる為の台にした壁は俺の勢いに耐えきれずに瓦礫と化して宙を舞う。

 大きく瓦礫が崩れる音を置き去りに進む、進む。


 イースがいる場所へと近づけば近づく程、周囲の破壊が酷く増えていく。

 床や壁があちこちが大きく抉れ破壊され、さらに巨大な爪痕で引き裂かれた跡もある。爪痕の大きさからしてイースが腕をドラゴンに変化させた時のものだ。きっとイースとシロイノの戦闘跡なのだろう。


 走る間際に横目で見えた大きな戦闘跡のその中央に壊れた機械があった。大きさはにぎり拳ふたつ分くらいだろうか。


「小型の飛行する機械か」


 完全にぺしゃんこになっていた機械に対して、警戒心が湧き上がる。走る最中に散在する壊れた機械も散らばっている数が増えていく。


 俺の速さならすぐにたどり着けるが、死んでいた間の時間ロスが痛い。イースは頑丈だから、やられる事はないだろうが。


「無事でいてくれよ」


 再度勢いつけての方向転換を左へ。反対側の壁を踏みつけて向かう。あとはまっすぐ向かうだけだ。


 見えた目的地に赤い人の形をしたシロイノが立っている。しかしシロイノの手前の通路には道いっぱいにコウモリが埋め尽くすように塞がっていた。


「っ!? なんて数してんだよっ」

『そいつに触れて電撃を喰らうなよ』


 俺の目に飛び込んで来たのは通路を埋めるように何体も飛び交う小さなコウモリ型の機械だった。ひとつひとつをよく見れば、時々バチバチと電撃を纏わせている。


 このコウモリもシロイノと共に侵入者を撃退する為、集まったようだ。


 近くに落ちていた瓦礫をコウモリに向かって蹴りつける。割れないように加減して蹴った瓦礫は風を切り、一体のコウモリを直撃し破壊する。壊れた機械は小さな部品を飛び散らせながらグシャリと音を立てて地面に落下する。


 一体が破壊された事によって、コウモリ達は俺の存在に気づいた。バラバラに飛び交っていたはずのコウモリ達は一斉に羽ばたき音を強めて、ひとつのうねりとなり襲いかかってくる。


 俺はボロボロになっていた服を破く。破けて穴だらけの布となった服は向かってきたコウモリに広げ、飛んできたタイミングに合わせて絡めとる。服に絡め取られたコウモリはそれぞれが羽ばたきを強めたせいで、ガチャガチャと音を立ててこんがらがり一塊となった。布と一塊となったそれを遅れてやってくるコウモリ達に向かってぶち当ててやる。布と共に振り回されるコウモリの塊はグシャリと潰れながら、空飛ぶコウモリを唯の壊れた機械に変えていく。

 未だに残るコウモリは奇妙な動きで他のコウモリを巻き込み破損させている。アールが動かしているようだ。しかし壊せど壊せどどこからともなくコウモリがやってきてキリがない。


「イース! どこにいる!」


 コウモリ達を壁や床に叩きつけ、視界を晴らしていくものの、彼女の姿はどこにも見えない。離れた場所のシロイノは体を赤くしたまま、俺に反応せず棒立ちの状態で微動だにしない。


『丁度さっき呑まれたぞ』

「呑まれたって、まさか?!」

『ああ、レストが到着する直前にな』


 棒立ちのままのシロイノは俺を殺した時よりも胴体が大きく見える。間違いない。


「っ、シロイノの中か!」

『今の奴はかなり粘性がある状態だ。頻繁に硬さや粘度が変化するから注意しろ』


 アールが話し始めてすぐだ。俺はボロ服とコウモリの塊を適当な床に放り投げ、足を動かしていた。頭で考えるよりも先にシロイノへと駆ける。


「さっさと! 吐き出せ!!」


 足からシロイノの胴体をぶち破る速度で飛び込む。しかし素足で捉えたシロイノの体はぬるりと滑る。


「っ!?」


 シロイノは俺の蹴りが直撃したと同時に体を傾かせ、俺の攻撃を受け流す。傾けられたシロイノの体は俺の蹴りで弾かれるように吹っ飛んで壁にめり込んだ。

 俺は走った勢いを殺しつつもシロイノから目を離さない。


「駄目だ滑った!」


 シロイノはめり込んだ壁からゆっくりと這い出て俺にゆっくりと向かってくる。見た目に変化は無さそうだ。ダメージが入っているか怪しい。


「表面だけ滑って、中は硬かった。どうなってるんだ?」

『攻撃時に内部だけを硬化して表面を滑らせて受け流していたな。あと硬化した中心にあいつが居るぞ』

「あの中か。蹴った感覚からして硬化を割るのは厳しいな。それじゃあさ……」


 俺は壁を蹴り、飛び上がる。そしてアールが操作している空に飛ぶコウモリをシロイノ目掛けて蹴り飛ばす。


「電撃はどうだっ!?」


 コウモリが壊れない程度に蹴り飛ばす。蹴る直前は電撃を纏っていなかったコウモリはシロイノにぶち当たる直前に微量な電撃を纏った。

 纏った微量の電撃でシロイノに何か反応があるかどうかを見たかったのだ。

 そしてコウモリはシロイノの体を大きく波うたせ、地面に落下する事なく、壊れる事なくシロイノの中心で停止した。


「受け止めた……?」

『警備システム同士での損傷を避けているようだな』


 シロイノが受け止めたコウモリを地面へ置き、こちらへとやってくる。


 これならいける。


「アール」

『任せろ』


 端的に作戦をアールへと告げる。急いでイースを出さないときっと息が出来ない。


 俺はシロイノへと駆け出す。シロイノは拳を固めて俺に叩き潰そうと振り上げる。

 このまま俺がシロイノに攻撃するとでも思ったのだろう。俺はシロイノの正面から少しずれる。


 そしてシロイノの脇を通り抜ける。


 空振りで床の揺れを足の裏で感じつつ、目的のものを拾い上げる。拾い上げたものはシロイノへと叩きつけるようにぶん投げる。


「これでもっ、食らえっ!!」


 投げられたコウモリの塊は途中でアールがバラけさせることで広がり、シロイノの視界を埋めながら真っ赤な体にぶつかった。

 それと同時に飛んでいたコウモリもシロイノの全方向から囲むようにして突撃していく。


 シロイノにコウモリがぶつかるその直前だ。俺はシロイノの体の中央へと飛び込んでいた。


「ちゃんと受け止めろよ!」


 とぷり、とシロイノに足から飛び込む。

 シロイノがコウモリを受け止めたら全身を柔らかくする。その瞬間にイースを出す作戦だ。

 俺は勢いそのままに固くて重い何かを蹴飛ばして地面に転がった。


「っがはっ!?」


 俺と同時に出てきた彼女は息を荒げて地面に転がっていた。良かったと胸を撫で下ろした瞬間に、俺の肩にべちゃりと何かが乗っかってきた。

 目で確認する事なく手で振り払おうとするが、触れた手すら真っ赤なモノに取り込まれていく。


「くそっ!」


 形が崩れた赤い存在は徐々に身体中にくっついて引き剥がせない。


「レストっ!」


 俺はイースから強引に足を引っ張られる。引っ張られるというより、俺を振り回すことでシロイノを振り落としたのだ。俺は眩暈を感じながらもシロイノから抜け出し外へと投げ飛ばされる。


「ぉえっ……イース助かった」

「荒っぽくてすまんな」

「お互い様だろ。それより早く戻ってシロイノを停止させよう」

「そりゃキツないか?」

「俺がシロイノを足止めしている間、イースがメインコントロールでシロイノの運転機能だけを止めるとかは?」

「あいつ分裂しよんねん」

「分裂?」

「しかも結構細かく分かれてな」


 あんな風に、と彼女が指差す先には振り払われたシロイノが丸い形をとってうねうねと動いていた。それも爪程の小さいものまで動いていたのだ。


「な、なんとか一塊のままで足止め出来ないか?」


 小さなシロイノが大量に群がってくるのは流石に嫌だ。


 せやなぁとイースが頭を捻り、何か思いついたとばかりに俺へと振り向いた。


「区画の障壁下ろしてシロイノを閉じ込める。それならこの端末で遠隔で出来るわ」

「それでいこう! じゃあ、あまり壊れていない区画まで誘導する必要があるな」


 この地下遺跡は大分と崩れてる場所が多い。まずは障壁を下ろせる場所の確認が必要なのだ。


「アール、どこか良い場所あるか?」

『少し離れるが、2階層上がって中央付近だな。そこなら壁に破損は無い上、障壁の操作も出来る』


 そうこうしていらうちに、小さなシロイノの塊が集まり、不気味にゆらりと立ち上がって俺たちの方へと向いたのだった。

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