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全く同じモノ

 カリカリと何かを齧る小さな音に耳を立て、音の発生源に近づく。歩みを進めると視界に入って来たのは白い骨の山だ。数は十数人ほどだろうか。無造作に積まれていてどう見てもお墓って訳ではなさそうだ。


 しゃがみ込んで骨の合間に見えた小動物を手で追い払う。ついでに積もる埃も息を吹きかけ、手で払っておいた。

 墓地でも無い普通の部屋の中にある違和感を骨が無造作に転がっている事が不思議だ。後ろにいたイースは息をのんで驚き、俺の真横に並んでゆっくりとしゃがみ、積まれた骨の山をくまなく観察をしている。

 知り合いだったりするのだろうか。


 俺は目の前の骨をぼんやりと眺める。殆どが割れて砕けてしまい、粉になっているものが多い。


 俺が考えていたのは勇者パーティーが倒した魔王の事。そして呪術師と呼ばれた2人のパンドラの事だ。何故2人いるのか。果たして兄弟なのか、あるいはそっくりな赤の他人か。片方が倒されたのに何故いまだに1人は隠れているのか。それに何故アールは隠していたのか。

 ぼうっと眺めながら出ない答えを考える。

 視線の先の骨の山は何だかどれも全く同じに見えるなとふと思い。閃いた。


『分かったぞアール!』

『……さっさと明かりをつけに行け』


 道草食ってないで早くしろ、とアールからはうんざりするような反応をしている。俺が何度か答え合わせをしているからだろう。

 さっきから何度も悪いとは思うのだが、アールにはあとほんの少しだけ聞いて欲しい。

 きっとこれこそが真実だ。


『これで最後だから。パンドラは2人が入れ替わりで魔王を務めていたんだ』

『……』


 俺はアールに語りかける。アールはなんだかんだ言いつつも聞いてはくれるようだ。


『けど、魔王達の二人の間には色々あったんだろう。片方の呪術師パンドラが魔王パンドラを嫉妬した』


 魔王が何をしているのか俺には全く分からない。けれど、もし入れ替わって魔王をしていれば良い出来事や悪い出来事のバランスは同じではないだろう。きっと人間関係もだ。


『それで魔王を勇者に討伐させ、呪術師パンドラは隠れて逃げた。そうだろ?』

『全部違う。無駄なこと考えてないでさっさと出てこい』

『違うのか!? えっと、それじゃあ……』

『いいから、さっさと足を動かせ』


 さっきの話でどこが間違っているのかを聞いてみた。

 パンドラが2人居た事しか合ってないらしい。アールの言う通り全然違っていた。今度こそ合っていると思ったんだが、当てずっぽうで答えに辿り着くには難しいな。


 いっその事、全部教えて欲しいものだ。

 俺に全部教えたとしても、何も不都合はないだろうに。


『何で俺に隠そうとするんだよ』

『お前の頭の容量を余計な事で埋めたくなかっただけだ』


 お前は呑気に饅頭だけ食っていれば良いんだ、とアールは非常にやる気なさげに言った。呑気にってなんだ、適当だな。


『俺の頭の中は饅頭を詰めてないからな?』


 まるで脳みその中にまで饅頭を詰めているかのような言いようをアールがしている。

 俺が饅頭の事しか頭にないみたいじゃないか。空腹時は饅頭の事しか考えられないが、流石にそればかりをずっと考えているわけではない。


 アールが俺に饅頭を食べさせておきたい気持ちは分かった。けれど、俺以外の人物にも隠しておかなくても良いだろう。


『せめて勇者パーティーの皆んなにはパンドラが生きているって伝えておいてくれよ』

『面倒だったから隠してた』

『お前なぁ……』


 予想は出来ていた。アールの性格なら言わないだろうな。非常に納得出来る。

 待て、ひょっとしたらパンドラが悪いやつだと勘違いされるから言わなかっただけなのだろうか。


『……もしかして呪術師パンドラって良い奴なのか?』

『ノー』

『……呪術師パンドラは何か企んでる?』

『イエス』

『隠してちゃ駄目じゃねぇか』


 全然違った。アールはただ面倒くさがって言わなかっただけだった。


『俺にバレなくてもさ。きっとノエルたちが俺より先に気づくだろ』

『そうだな』


 呪術師パンドラが何か企んでいるのならばいずれ何か行動するだろう。その時にはパンドラの存在を隠しきれない。

 問題を少しばかり先送りにしただけ、という事にはアールも気づいていたようだ。


『例えばさ、勇者パーティーの中でも、俺だけがずっと知らないままだったら。アールはそれで良かったのか?』

『レストが知らなければ、ボクはそれで良かった』


 俺の問いに即答だ。ノエルやバンダーが知っていても俺が知らなければ良いと。それだけでは無く、もうひとりのパンドラが生存しているのだと世間が知っていたとしても、俺だけが知らないで居てくれたら良かったとアールは言っている。


『でもアールはそこまで俺に隠そうとしてなかっただろ?』


 知らないで欲しい思惑の割にはそこまで妨害をされた記憶は俺に無いのである。


 せいぜい"そこには何も無い"だの"早く地上に来い"だの気を逸らそうとする程度だった。

 アールが俺に対して本気の妨害するなら、幻を見せていたりすれば良いのだ。けれどアールはそこまでしなかった。何か理由があるのだろうか。


『……伝える必要がある事だからな』


 本当は隠していてはいけないのだと。

 本当は伝えるべき事なのだと。


『ずっと知らないままでいて欲しかったよ』


 パンドラがもうひとり居た事。

 本来ならば俺に伝えるべき情報だったが、アールは言わなかった。星を救う為にアールはここにいるのだ。協力者として俺と契約したなら俺に伝えた方が良い筈だ。一人で全てこなすよりも、人手はあった方が良いに決まってる。


 でもアールが言わなかったのは何故か。

 俺が知ってしまっては不味い事。もしくは、知られても良いが今のタイミングでは早すぎるという事なのだろうか。

 どちらにせよ、そのふたつには共通点がある。


 俺に知って欲しく無かった、という事だ。


 つまり俺が記憶を失った事にも関係してくるんじゃないだろうか。


『記憶を失う前の……俺が叶えた願いと関係しているんだな』


 そうだ、とアールが肯定した。

 救世主としての任務。そして協力者ヴェンジの願い。

 そのふたつが相容れないモノだったのだろう。


『呪術師パンドラの事は外に出たらノエルには伝えるぞ』

『好きにしていい』


 少し不貞腐れた返答だ。

 静かになったアールとは別に、イースはずっとぶつぶつと何かを呟いている。


「何でこんな所に骨が野晒しなんや……」

「知り合いだったのか?」

「全然心当たりあらへん。誰やこれ」

「そうか」


 知らない人が迷い込んで来たのだろうか。可能性は低そうだけれども。ひょっとしたら迷い込んだんじゃなくて誰かが持って来た骨なのか?


「呪術の研究には人骨を使ったりするのか?」

「状態からして違うで」


 どちらかといえば、生きた人間だった痕跡なのだそうだ。けれども生きていた人間にしては違和感を覚える。俺にとっては作り物にしか見えないのだ。


「でも同じような骨ばっかりだよな」

「そら骨だけなら見分け出来へんやろ」

「あぁ、そうじゃなくてさ」


 割れ方は違うものの、頭蓋骨の形が全く同じに見えるのだと告げた。

 俺の言葉にイースが硬直する。何か心当たりでもあるのだろうか。

 俺は彼女に説明を続けた。


「スケルトンと戦った事あるけどさ。確かにぱっと見は本当に見分け付かなかったんだよ」


 初めて見た時は全く違いなど分からなかった。でも、俺を斧でズタズタにしたスケルトンを血眼になって探すときに違いがだんだん分かって来たのだ。例えば、立って並んでる所を見れば身長とかバラバラだったりなど、よくよく見比べれば少しずつ違いが分かるのだ。


 イースは再度頭蓋骨を手に取り見比べる。


「あぁ、歯並びそっくりやな」

「なぁひょっとしてさ。同じ骨を作るために何かしてたのか?」


 ネズミに齧られていた骨以外は本当に同じ骨ばかりなのだ。ふたつやみっつ程度なら双子や三つ子かと思うが、同じ骨の数が多すぎる。


「この施設は全部屋に記録装置が付いててな。……何しとったか全部記録されてる筈や」

「あ、ひょっとしてメインコントロール室で見れる?」

「当たり」

「よし、じゃあ行こうぜ」


 イースは表情をこわばらせて頷きを返した。俺は足早に進む彼女に背を押されて歩みを進めたのだった。

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