表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/145

入場チケット

少し追記しました。

 俺が騎士から解放されたのは翌日の朝だった。

 透き通って清々しい空気だ。少しの肌寒さと静けさで満ちている。

 俺は詰め所から外へ一歩踏み出し、手で日差しを遮りながら空を仰ぐ。


「外が眩しいなぁ……」


 俺は眩しさに目を細めつつ、外の空気に刺激され、取り出したまんじゅうを齧る。

 ようやく一息つく事が出来た。俺は疲れて体が怠くなるのを感じながら、忙しかった昨日を思い耽る。


 昨日、俺はパーティーメンバー募集をする為のツテを作ろうと依頼を探していたのだ。

 ……それももう随分前のように感じる。


 探して見つけた依頼は学園での前夜祭の代理人をするという内容。しかしその依頼は代理ではなく依頼人トレヴァーの替え玉であった。

 それでも俺は最後まで依頼人に成り切るつもりだったのだ。しかし俺がトレヴァーでは無いとすぐにバレた上、何故か学園のダンジョン内でスケルトンと殺し合いをする羽目になったりと、散々な目に合ったのである。


 これは後で知ったのだが、前夜祭のイベントが開始してすぐ、ダンジョンで異変が起こっている事に運営側が気付いたらしい。しかも異変のあったダンジョンは俺たちの居た所だけではなく別グループで複数あったそうだ。

 何故すぐに分かったのかと言えば、脱出した生徒からの救援要請で発覚したのだそう。


 ダンジョン内に魔物なんて用意していない筈なのに何故か大量にいたり、命の危険が非常に高い罠ばかりでギブアップする生徒が数多く居たのだ。


 救援要請をきっかけに、学園関係者がこれは只事では無いと調査していた所、簡単な筈のダンジョンで1人も出て来ないグループに気が付いた。

 つまり俺たちの事だ。

 その為、外から助けようと騎士を呼んだりして何かしらの手立てを考えていたらしい。

 そうして騎士達や学園関係者が手立てを考えていた所に丁度レナード達が放り出され、続けてリリスと俺が入り口から出て来たと知ったそうだ。


 そりゃあすぐに駆けつけるだろう。

 既に何か起こっていたのだと知っていたのだからな。


 駆けつけた場で騎士達が目にしたものが、気絶する4人の生徒と泣いている女の子。

 そしてどう見ても学生では無い俺。

 俺はまさしく学園という場に全くそぐわない怪しい人物だったろう。なにせズタズタで血濡れの布切れを体に巻き付けている男だったからな。

 それを見た騎士達はどう思うか。


 そりゃあ捕まえるだろう。

 かなり怪しい奴だからな。


 で、実際そうなった。


 俺は騎士達に乱暴に捕まえられた後、詰め所に連れて行かれた。

 この時点で既に俺は事件の犯人扱いだった。


 俺は一晩中、何度も同じ質問をされた。

 俺は繰り返し何回も同じ回答を返した。


 俺は最初から最後までずっと犯人などでは無いと主張していたのだ。騎士達には信じてもらえなかったが。無実を証明しようと、依頼主のトレヴァーに連絡しても俺なんか知らない関係ないの一点張り。

 けれどもトレヴァーからギルドへと、俺が依頼中に行方不明という連絡が入っていたそうだ。思いっきり知ってるじゃねぇか。どこが何も知りませんだよ、ちくしょう。


 そこでアールからのアドバイスをもとに、ギルドからの依頼を受けていた事を証明してもらった。そして報酬として小型の記録装置を強引に貰い、俺の無実を証明した。コレを見れば犯人では無いと分かるから、と何度も騎士に主張して。


 こうして外に出てくるまで一晩まるまる時間がかかった。いや、それ以上時間が掛かっているな。


 外は既に日が昇っていたなんて、出るまで全く気づかなかったのだ。


 一睡もしていない頭はぼんやりとして、なんだか目はしょぼしょぼしている。一気に疲れが出てきたようだ。


「今思えば、スワンは優しかったんだな……」


 初めてブルーローズの町に行った時の事だ。全裸で金がない俺に色々と心を尽くしてくれたのだ。なんと優しい対応だったのだろうか。その時も俺はかなり怪しい人物だったのに。


 まんじゅう片手に遠い目をしていた時だ。

 誰が遠くで俺を呼ぶ声がした。


 意識を現実に引き戻し、声の主へと目を向けると俺の元へ駆け寄る人物が1人いた。


「あぁ、良かった! 出られたんですね」


 レナードが俺を見て安心した顔をする。


「レナード……? 体調はもう平気なのか?」

「ええ。おかげさまで助かりました」


 体内の魔力が枯渇しても、体力のように一晩寝れば大抵回復するそうだ。そしてもし魔力が空っぽのままでダンジョン内に長居していた場合はかなり危険だったらしい。命の恩人だ、とレナードは俺に言った。


「まだ詰め所に居ると聞いたもので。もしかしたら力になれるかと思って来ましたが、無事に出られたようで安心しました」


 彼は目覚めてすぐにここへ来たらしい。めちゃくちゃ良い奴だな。

 そうだ、とレナードは何か思い出したかのような声を上げ、俺に1枚の紙を手渡してくる。分厚く高級感溢れる紙には"学園祭入場チケット"という文字が刻まれていた。


「もしご興味が有れば是非お立ち寄りください。学園都市で毎年最も人気で規模の大きいイベントなんです」


 聞けば、この学園祭は都市内外からの人気を誇るイベントのようである。学園と商会が協力して新規開発した発明品や新しい技術や研究の発表の場でもあるらしい。入場する機会を得るだけでも抽選があり、とても高い倍率なのだという。チケットを裏で高額転売されているなどの噂もあるとか。


「そんな貴重なものを貰って良いのか?」

「是非受け取って下さい。折角来て頂いたのに、この学園を嫌な思い出だけにして欲しくはないので」


 申し訳なさそうに眉を下げながらチケットを差し出してくる。俺は礼を言いながらそれを受け取った。


「本日は丸一日開催されていますので、時間があれば是非。私も運営側として会場におります。もし見かけたらお声かけ下さい」


 案内しますから、とレナードは朗らかに伝えてくる。そして、これから準備があるからと彼は去っていった。


 暫くしてレナードの姿が見えなくなった後、俺はまんじゅうを食べながらチケットをまじまじと観察してみた。チケットには複雑な模様が文字の背景に薄らと見え、とても手が込んでいるようだ。かなり作り込まれているようだ。


 俺はチケットの作りに感心しながら、何処か近くへ向けて声を掛けた。


「なぁ、アール」

「どうしタ」


 建物の影から声と共にアールが姿を見せる。

 やっぱり近くに居たようだ。実は詰め所から出た時にアールが近くに居るように感じていたのだ。具体的に言うとまんじゅうの香りがした。


「別に隠れてなくても良かったんじゃないか?」

「……面倒は御免ダ」


 あんなに心配していたのだし、言ってしまっても良いような気もしているのだ。俺がバラす前に。

 しかし、アールはレナードが去って行った方向を見ながら顰めっ面をしている。もそもそとまんじゅうを食べながら。

 アールにとってレナードとの遭遇はかなり嫌そうだが、一応聞いてみたい事があるのだ。


「アールもここに行かないか?」


 俺は手に持つチケットをひらりとアールに見せてみる。


「1枚で3人まで入場可能だって書いてあるしさ」


 チケットの注意書きを見てみると、入場は3人までの1グループにつき可能と記載されていたのだ。アールが行った事があるのかどうかは不明だが、折角の珍しい参加チケットなので一緒にどうかと思ったのである。

 しかし、アールにとってはレナードと遭遇する可能性があるから難しいだろうか。


「行っても良イ」


 アールは少し思案したのちに承諾した。


「鉢合わせしそうになったらその時は別行動にするゾ」

「おう、分かった」


 レナードとの遭遇は嫌そうだが、アールも学園祭自体に興味はありそうであった。

 一睡もしておらず疲れていたものの、俺は今や逆に元気になってきた。せっかく貰ったチケットだ。俺とアールは学園祭に行ってみる事にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ