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可愛いじゃないか

『呼んだか?』

『あれ、アール?』


 アールが俺の脳内で返事をしてくる。そういえばリリスの言葉を聞き返した時に俺はアールの名前を呼んでいた。

 丁度いい、とてつもなく聞きたい事がつい先ほど出来たのだった。

 アールにリリスの事を知っているかどうか描こうとした時、周囲が暗くなる。見上げると、骨の群衆となった大きなスケルトンがその腕を振り上げていた事に気づいた。

 すぐさま俺に向かって振り下ろされる骨の腕。


『っ、少し時間良いか!?』


 アールに返事をしつつも俺は横に飛ぶ。俺の真横では振り下ろされた骨の腕が長椅子や床に叩きつけられ、タイルや木片が宙を舞う。


 攻撃を外したことに気づいた巨大なスケルトンは顔の骨を動かして忌々しげな表情をつくる。

 どうやら俺に狙いを定めているようだ。アールとのんびり会話をさせてくれないらしい。


「先に冒険者の男から潰しなさい!」


 リリスがスケルトンに命じると、それに同意するように俺の両脇から迫り来る骨の手。

 転がるように前へ飛び出した直後、背後から骨が何本も折れる大きな音が響く。俺の後ろで拍手する羽目になったらしい。


 気にせず俺は正面へと駆け、向かって右の肩に蹴りを叩き込む。

 肩を構築していた骨は何本も折れて地に落ち、蹴り飛ばした部分にぽっかりと空きが出来る。

 しかしその直後だ。ガラガラと肩周辺の骨々が縦横無尽に動き回り、空いた空間が他部位の骨で埋めつくされていった。


 せっかく蹴飛ばして折ったのに他の骨で再生されてしまった。


「だろうと思ったよっ、ちくしょう!」


 着地した直後、俺の背後から僅かに骨のぶつかる音が耳に届く。嫌な予感がした俺は慌ててスケルトンの脇をくぐって距離を取る。先程までの場所を見ればスケルトンの握り拳が突き出していた。どうやら掴まれそうだったらしい。危ない危ない。


『試験中に悪いなっ!』

『問題ない、今は反省文書かされているだけだからな』


 アールの返事はとても怠そうだ。反省文って何だろう。ギルドの試験とは別なのだろうか?


『反省文って!? 試験はどうしたんだ!?』


 俺は教会の入り口へと駆け、扉部分を外へ蹴り飛ばして破壊する。外にはスケルトンは居ないようだ。急いでレナード達4人の服を引っ掴み、全員外に放り出す。


『試験は落ちた』

『落ちた!?』


 背後で屋根がガラガラと崩れ落ちた。スケルトンが足を作って立ち上がったようだ。屋根の高さは超えて頭で突き破ってしまっていた。


 崩れた屋根に埋まる前にと、俺も教会を出る。その間にもアールはやれやれと言葉を続けていた。


『面倒くさい奴に試験を不正しただのと難癖つけられたんだ。そいつの頭を弄ろうにも、流石に2度目は壊れそうでな。今回はボクが折れてやったんだ。で、折れた結果として反省文を書いている。本当ボクって良い奴だよなァ……それよりレストは何故そんな所に居る?』

『頭を弄るって?! 何してんだよお前っ、いやそれは後でいいや! この場所を知ってるのか!? リリスを知ってるんだな!?』


 俺は教会の上へと駆け上がる。動きづらそうなスケルトンが屋根を崩そうと挙げていた手。その骨の手を踏み台代わりにして飛び出し、骨の頭部に正面から蹴りを叩き込んだ。

 少し浅いか。頭でアールと会話しているせいかそこまで砕く事は出来ていなかった。


『知っているといえばそうだな』

『それならこのダンジョンの出口を教えてくれ!』


 飛び散る頭蓋骨のカケラを払い除けつつ、かろうじて残った屋根部分に着地する。


 教会の屋根は既に崩れかかって酷く脆い上に俺の体重と衝撃だ。バキリという音と僅かに屋根が沈み込む、その瞬間に再度力一杯踏み上げてスケルトンの頭へ飛ぶ。そのまま真っ直ぐ後頭部から大きな風穴を開けて突き抜ける。

 先ほどよりも砕けたが、やはり集中出来ていない。


『外の奴らが死んでから教える。レストは今からスケルトンを置いて何処かに隠れ……』

『っ今教えてくれよ!?』


 突き抜けた勢いのまま、辛うじて残る屋根に飛び乗る。しかし思ったよりも勢いが少し強く屋根から足を踏み外してしまった。

 何か掴めるものは無いかと横を向けば、見についたのは頑丈そうな十字架。足が屋根を滑り空を踏むその間、手を伸ばして掴んだ十字架は折れる事なく俺の体重を支える。

 ギリギリで落下を回避できたようだ。


 急いで屋根によじ登る。しかし良いものが近くにあったものだ。俺は手で掴んでいた頑丈そうな十字架を見る。中々使い勝手が良さそうだ。俺は十字架の根元を蹴り飛ばしてボッキリと折ってやった。折れて傾く十字架を前にスケルトンへと狙いを定め、思いっきり蹴り飛ばした。

 恐らく予想外の攻撃だったのだろう。スケルトンは十字棒をもろに頭から喰らい、たたらを踏んだ後、教会の床にガラガラと崩れ落ちた。


 教会の中を上から覗けば崩れ落ちたスケルトンの集団はまた集まり立ちあがろうとしている。


 教会の2階にいた筈のリリスを探しいるが、見当たらない。いつの間にか見失ってしまったようだ。建物が崩れて下敷きになってはいないだろうか。探しに行きたいが、そこでまたスケルトンに殺されてはたまらない。

 教会が全壊し、足場が無くなる前にと俺は地面へと戻る。崩れた教会からスケルトンがどう出てくるのか、目を離さないままアールに質問を重ねた。


『仕事は情報屋だって前に言ってたよな。叡智の亡霊ってお前か?』

『イエス』

『リリスを唆したのか?』

『唆すなんてとんでもない。か弱い生命が助けてくれって泣いて縋ってくるんだぜ? 可愛いじゃないか。手くらい貸すだろ』

『お前なぁ……それは後で良いや、どんな計画を立てたんだ?』

『守秘義務があるから言えんな。ボクは信頼を大事にしてるんだ』


 守秘義務ってなんだよ。

 でも俺が聞けばイエスかノーかは答えてくれるんだよな? それはいいのだろうか。

 いや、そもそもアールがこんな物騒なプランを作らなければこんなことにはなっていなかった筈だ。


『お前が駄目な方法をリリスに教えるから!』

『良い案じゃないか。殺せば直接リリスを害する事はなくなる。霊になっても彼女に好意を持つ。もし好意を持たずとも既に友好的な霊がリリスの周囲を固めている。殺すのがベストな選択だろ?』

『どこがベストだ! くそっ……そもそもスケルトン達がアールの事を知らなきゃこんな事にならなかったのに。何で死者がお前にツテ持ってんだよ』

『あぁそれな。ペンを遠隔で動かして情報屋をしていたせいか、いつの間にか叡智の亡霊なんて呼ばれてたんだよな。仲間意識を感じたゴーストやら死者達から依頼の声が激増して口コミが広がったんだ。認知度が上がるのはもちろん歓迎だが、死者からの報酬の回収は意外と大変でなぁ』


 その時の事を思い出しているのか、アールは疲れたように言葉を紡ぐ。


『依頼完了後、ボクを紹介する時はなるべく生者にしてくれと死者達には伝えている。今回はそのパターンだな』

『よし分かった! この件は全部お前のせいだな!』

『全部じゃない。最初の計画だけだ』

『余計に駄目じゃねぇの?!』


 アールにどのようにして出口を聞き出そうかと頭を悩ませていた時だ。地面に座り込んでいたレナードが崩落する教会を呆然と見ながらぽつりと呟いた。


「ここで死ぬの……か?」

「大丈夫だ! 絶対に出口を探し出しやるから!」


 俺はレナードを現実に引き戻そうと、肩を強く叩き目を合わせる。

 すると少し長い沈黙の後、俺に静かに問いかけるアール。


『……何故そいつまでここに居る?』


 先程までのやり取りとは違い、アールは非常に不機嫌そうな声であった。

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