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生きて帰るまでが依頼

「飛ばせるんじゃないぞ!」

「足と羽をまず狙え!」

「魔法はまず拘束系だ!」

「正面には出るなよ!」


 『竜の足跡』のリーダーの指示が響き渡る。そしてそれに対応する様に個々が動いていた。


 ある戦士は大斧でドラゴンの足を斬りつけ、ドラゴンの体制を崩す。

 ある魔術師は幾つもの茨を生やし、ドラゴンを地に縛る。

 ある盗賊は爆弾を投げつけ、羽を負傷させる。


 そんな風に冒険者達が攻撃を加えていても、ドラゴンはただひとりを標的にしていた。

 その標的、それはハイドだった。

 斑らなレッドドラゴンはハイドからずっと目を離さない。俺と共にここに来てから常にだった。


「……ク、ソッ! やはり……俺を覚えてやがるな……!」


 何度も炎を吹きつけ、噛みつきに向かうドラゴン。それをハイドは回避に精一杯のようで息を切らしている。

 常に標的にされている事に疑問を持ったリーダーが声を張りあげた。


「おい、ハイド! お前何した!」

 

 俺はドラゴンの羽を斬りつけた後、リーダーの方まで後退する。そしてその理由をハイドの代わりに告げた。


「催涙弾を使ったんだ!」

「あぁ、一般人向けの奴か! なるほどな! 俺も使った経験あるがありゃかなり粘着されるんだよなぁ!」

「……っ! 笑ってねぇでさっさと倒せ!」

「安心しろ! すぐ終わる! なんせ戦闘向きの奴らをギルド経由で募集したからな!」


 『竜の足跡』の仲間のメンバーが俺と話すリーダーに向けて声を張る。


「リーダーがくっちゃべってんじゃねぇ!」

「悪りぃ悪りぃ!」


 ちぃと付与魔法つけてたんでな、と『竜の足跡』のリーダーが自慢げに大剣を周囲に見せつけた。


「————力こそ全てだ」


 ドンッ、と振るわれる一閃。直後、強い衝撃波が周囲に広がる。例えどんな物であろうと切り裂くような強い攻撃だった。しかしその刃が届く直前。レッドドラゴンを取り巻く黒蝶が更に量を増し、炎の渦に変化した。


「ドラゴンが魔法を暴発させたぞ!?」

「おい! 拘束魔法掛け直せ!」


 炎に巻かれて一瞬だけドラゴンは姿を隠した。そこに届くリーダーの一閃。

 辺りは静寂に包まれた。


「……やったか?」


 ハイドが気を抜いたような言葉をぽつりと呟く。今までずっと標的にされていたのだ。ようやく解放されたと思い、気を抜いていたのだろう。


 その直後だ。


 煙の中からドラゴンの首が勢いよく飛び出す。

 油断しきったハイドはドラゴンを目視し驚いている。恐らく回避が間に合わないだろう。

 

「ちっ!」


 俺は瞬時にレッドドラゴンの頭部へと駆く。

 真っ直ぐその開きかけた口の方へ。

 炎が漏れる、その顎を見据える。


「吐くんじゃ————」


 レッドドラゴンは俺には全く見向きもしない。確実に舐められているようだ。俺の攻撃など通用しないのだと。防ぐ事など出来ないだろうと。


 そんな暴れドラゴンにはとっても素敵なプレゼントをあげよう。


「————ねぇよ!」


 俺は全身全霊でレッドドラゴンの下顎を上へ蹴り飛ばす。吐き出される筈だった炎は飲み込まれ、ドラゴンの胴体を跳ねさせる。大きく見開かれた眼は怒りで染まり、瞬時に俺へと向ける。


 ようやく俺と眼が合った。標的は俺に変更されたようだ。しかし攻撃をさせる暇など与えたりはしない。


 すぐさま地を駆け身を捻り、ドラゴンの瞳へと剣を突き立てる。あまりの痛みの為か、大きく頭部を振り回すレッドドラゴン。


 俺まで大きく揺さぶられる。剣に骨がぶつかる感覚が手に伝わり、ばぎりと割れる音と共に俺は地面へ放り出された。地面を転がりながらそのままドラゴンから距離を取り、体勢を立て直す。そして恐る恐る手元に握る剣を確認した。


 それはまぁ見事に折れていた。


「う、嘘だ……また……折れた……」


 今回の依頼で剣を新調していたのだ。硬い鱗のドラゴンでもちゃんと切れるような鋭い物を選んだ。


「……無茶な使い方するからだろ。見てわかるんだよ」


 ハイドが呆れるように告げてくる。

 そんな酷い使い方をしていたのだろうか。


 まぁ助かったよとハイドが小さく呟く。俺がその言葉の返事をする前にハイドはさっさとドラゴンの元へ行く。

 素直じゃないなぁ。


 そうしているうちに暴れるドラゴンの足元を土が覆い、光の柱が突き刺さる。周囲の冒険者達の魔法によるものだった。


「良くやった! ————これで終わりだ」


 『竜の足跡』のリーダーが再度大剣を振りかぶる。先程と同じく大剣に付与魔法を掛けていたのだろう。

 今度の一閃はレッドドラゴンの首まで一直線に届き————驚くほど滑らかに断ち切ったのだった。












「にしても記憶を思い出す為なぁ。それにアールも片腕で冒険者だなんて無茶にも程があるだろう。それならいっそ、ふたりとも俺のパーティーに入らないか?」

「いや悪い。遠慮するよ。俺たちは少し別の目的があるんだ」


 俺は『竜の足跡』のメンバー勧誘を受けていた。まさか俺まで逆に勧誘されるとは思いもよらなかった。

 勧誘されるのは案外嬉しいのだが、俺たちのメンバー集めの主な目的は饅頭をどうにかする事だ。それに対して『竜の足跡』はドラゴンの調査や討伐を目的とするドラゴン好きのパーティーらしい。

 そのメンバー全員がドラゴンの素材やらでアイテムボックスを埋めているのは聞いた。もし饅頭に抵抗が無かったとて、饅頭をアイテムボックスに入れてもらう余裕は無さそうである。

 お互いの目的が合わないままパーティーに入って後々揉めるのは避けたい。なので勧誘は有難いが断るしかないのである。


「あんな細っこいのとふたりなんてなぁ。敵と戦う時にひとりだと対処出来んだろ?」

「いや、別にアールはそこまで弱く無いぞ」


 そんな風に話していると当の本人がいる場所が見えてくる。アールは何やら手元で作業をしているようだ。


「おーい、アール。待たせた……って何それ?」

「ミンチ。餌を作ってたんだヨ」


 そこのやつだ、とアールが示した目線の先。そこには見覚えのある動物の残骸が置いてあった。恐らくイワワニなのだろうが、夜に起きる動物が昼にいるなんて不思議だなぁ。

 ……なんだかものすごく心当たりがあるが。


 アールは餌やりを中断し、『竜の足跡』のリーダーへと何かを投げて寄越した。


「レストがドラゴンの巣で見つけた人の遺品ダ」

「あぁ、受け取った。……ところでそのイワワニはどうしたのかな?」


 投げられた遺品を難なく受け取ったリーダーはチラリとその残骸に目を向けてアールに問う。餌やりに戻ろうとしたアールは面倒臭そうな顔をしていた。


『アール?』

『……ハイヨ』


 俺が促し、ようやくアールはリーダーの方に顔を向ける。


「…………遺品の回収時にこの寝坊助が釣れてナ。ボクは持てないし、この残り要るカ?」

「君は荷物持ちじゃなかったか……?」


 思いっきり突っ込まれていた。リーダーの気持ちは分かるがこれには理由があるのだ。アイテムボックスに饅頭しか入ってませんなんてあまり大っぴらには言えない理由だ。アールはより一層顔を顰めていた。


 幸い他の冒険者が持てる余裕があった為、ミンチと皮のイワワニは彼に任せた。

 餌やりを終えたアールから俺は鳥の子を受け取る。その様子を見たリーダーはざりりと髭を撫で付け、怪我をした鳥の子を覗き込んだ。


「酷い怪我だな。羽も折れてもう飛べないんじゃないか? いっそ機械化したらどうだ」

「機械化?」

「生前の行動や脳の情報を全て抜き取ってから外側以外を全て機械に替えるんだよ。剥製みたいに」

「せ、生前……? ……剥製……?」

「半永久的に生き続けるんだ。生きる時代が違っても会えるなんて素晴らしいメリットじゃないか」


 何言ってんだこのおっさん。

 まるでこの鳥の子を殺すみたいな事を言ってないか?

 目の前の髭面のおっさんは徐々に早口になり、言葉に熱がこもっていく。


「機械化はここ最近の新しい分野だが、古い文献には人と武器の融合なんかも幾つかある。中でも一例だけ始祖竜グラフォリオンと人の死体を融合した戦争用兵器が造られたと記録にあるんだ! 始祖竜グラフォリオンだぞ!? そのたった一例は"人造ビースト"だとか変な名で呼ばれてたらしいが。もし本当なら神話の時代から稼働している兵器なんだぜ! あぁ……一度でもお目にかかりたいもんだぜ。始祖竜グラフォリオンはどんな姿なんだろうか。きっと守護竜なんかよりも神々しいに違いない! ……運良く会えねぇもんかねぇ」

「……機械化は賛否あるが、あんたの場合は只のドラゴン脳だろ」


 近くにいたハイドがリーダーを冷たくあしらっていた。どうやらリーダーはドラゴンについて調べていたらその始祖竜の文献を見つけたらしい。かなり古いもので不明な点は多々あるものの事実だと証明されているのだと。

 それはともかくだ。俺は怪我した鳥の子を抱え、取り敢えず危険人物ことリーダーと距離を取った。


「お、俺はコイツに機械化なんて絶対にしないぞ!」


 この鳥の子はきっと大丈夫だ。俺は怪我をした腕の中のコイツに安心させるように語りかける。


「おい! 横に気を————」

「絶対そんな事しなくてもお前はきっとまた飛べ————あてっ」


 ぺちりと頬に何か触れる。少し眼球にも触れたので俺は驚いた。何が触れたのだろうとそれを見る。何も無い————? 違う、俺の真横で木の枝がゆらゆら動いていた。


「あ、俺これ知ってる。触ると……死ぬ……や……つ……」


 ビリビリとした痛みが徐々に顔に広がる。そのまま視界がくるりと回る。そして景色の全てがぼやけ、黒く溶けていった。









 白い部屋だ。前に死んだ時と全く同じ。白い机を挟んで俺とヴェンジが座っている。


「完全に俺の不注意だった」

「…………」

「皆んなはよく死なずに森の中を歩けるよな。本当に尊敬するよ」

「…………」


 ヴェンジは俺と話す気など更々無いようだ。顔を背けたままでピクリとも動かない。


 せめて何かしらの反応をしろよ。


 俺は居ても立っても居られず、椅子から立ち上がって背後の白い壁へ向かう。この壁に穴が空いて落ちていった後にいつも目を覚ましていたのだ。触れると少しひんやりする。とても滑らかな壁だ。


 アールの近くで死んだのですぐには出れるとは思うのだが……


「何時ここから出られるか分からないのが困ぁるぅっ!」


 ペタペタと手に触れる感触を楽しんでいた時だ。

 ふっ、と急に目の前の壁が消えて俺は黒い空間へと吸い込まれるように落ちていく。


「こういう不意打ち何とかなんねぇかなあああああぁぁぁぁぁ…………」


 そしてまた漆黒の世界へと放り出されるのであった。

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