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斑らなレッドドラゴン

「対象を捜索し発見次第速やかに場所をデバイスで全員に伝えてくれ。何か不足の事態があればこの地点まで戻ってくるように」


 今回の依頼は『竜の足跡』パーティーの主導で行う討伐依頼だ。街の近くでレッドドラゴンが急に暴れ出したらしい。それによる被害が出る前に討伐を行うのが今回の目的だ。ブルーローズから近い街だったので俺とアールはその依頼に参加した。この依頼を選んだ理由のひとつに、生きているドラゴンを見れば記憶が戻るかもしれないと少し期待している所もある。


「また、ここで未帰還の冒険者が多発している。原因は恐らく今回のレッドドラゴンだろう。生存の確認もしくはタグ回収してくれ」


 レッドドラゴンが暴れる前後で未帰還の冒険者が増えているそうだ。その為『竜の足跡』パーティーからの討伐方針として、先ずはレッドドラゴンを二人一組となって探すらしい。今回は俺とアールは別行動をしようと思っている。俺たちはペアを組んだ相手に色々と話を聞き、勧誘出来るかを見るつもりだ。

 そしていざ声を掛けようかとしたその時、『竜の足跡』のリーダーがアールに声を掛けた。


「俺は一番ランクの低い……あぁ、そこの君。アールと組もうか」


 俺はアールを見る。アールは非常に嫌そうな顔をしていた。そういえば『竜の足跡』は三人のパーティーだった。パーティーのリーダーは流石に誘えないだろう。誘う以前にアールは先程からずっとやる気が無さそうであるが。……にしてもそんなに分かりやすく嫌がるんじゃない。


「依頼はちゃんとやれよ」

「……ハイハイ」


 アールはおざなりに返事をして俺に視線をひとつ寄越した。


「その場でボクを呼べばすぐに返事してやル 」


 じゃあ、とアールはひらりと手を振りながらリーダーの彼の方へ向かった。

 デバイスを紛失してもアールとは連絡がつくのか。……いや勿論もう失くす予定は無いが。

 俺も今回のペアを探そうと周囲の人物を観察する。すると各人の立ち位置から明らかにソロを貫いていそうな人物を見つけた。彼は随分と頑丈そうな頭部の装備をしている。軽い装備の人しか俺は見た事が無いから珍しいタイプだ。完全に顔が見えない。


「なぁあんた。俺とドラゴン探そうぜ」

「………………まぁいい」


 多分了承を得たのだろう。俺に返す声は重かった。彼は少々虫の居所が悪いのかもしれない。顔が見えないから分かりづらい。


「俺はレスト。よろしくな」

「…………ハイド」


 ぼそりと小さく低い声だった。さっきより聞き取りづらいな。俺の聴力が試されるようだ。














 俺はハイドの後ろで目を凝らし、木々の合間を見回していく。ふと視界の端に違和感を感じて一度立ち止まった。ちょうど目の高さ辺りだろうか木の枝が何か——


「……うわ!? 今この枝動いたぞ!?」

『おい、触るな。死ぬぞ』

「っうぇ!? 死ぬ!?」


 危うく触れかけた手を引っ込める。視界の端で感じた違和感は木の枝が動いていたからだった。アールに制止されなければ完全にもぎ取る気でいっぱいだったので間一髪だ。触れただけで死ぬ枝があるなんて……これから歩く時に気をつけねばならない。

 しかし俺はアールを呼んでないが、ずっと俺の事を見ていたのだろうか? いやまさかそんな暇な事する訳ないか。

 俺の様子に気付いたのだろうか。ハイドが背後を振り返ったので、俺は声を掛けてみた。


「これ触ると危ないってよ」

「…………」


 ハイドはそんな俺を一瞥くれたのみで、さっさと前へ進んで行った。何かしらリアクションをしてくれ。恥ずかしくなるだろ。少し反応が遅れた俺は慌ててその背を追った。



 暫く進めば切り立った崖が目前に現れた。その崖の手前には丸い岩がゴロゴロと落ちている。目の前にあるのは断崖絶壁なのに岩が妙に丸い。この岩は何処から来たのだろうか。


「この岩は崖から落ちて来たのか?」

『その岩ずらすなよ。地面の下から攻撃されるぞ』

「え? 岩の下に何か居るのか?」

『イワワニが居る。暗い日や夜になると出てくるぞ』

「へー。見てみたい気もするけど今は辞めとくか。ハイドは見た事あるか?」

「…………お前、誰と話している?」


 怪しんでいるようにハイドが俺に問いかけた。ペアになってようやく返答が来た。


「あぁ、知り合いと少し話をしてたんだ」

「……精霊と話せるからって見せつけているのか?」

「すまん、静かにドラゴンを探すよ」


 ただ怒られた。ハイドからはただの独り言に見えたのだろう。デバイスを持って会話していないため、精霊と話をしていると考えるのも無理はない。精霊が見える人の方が少ないようだから。にしてもハイドはいくら俺が話しかけても彼は反応が少ない。その代わりにアールが俺に返事をするといった具合だ。

 俺は小声でアールを呼んだ。


(アール、どうにか独り言にならない様に出来ないか?)

『脳内で言葉を思い浮かべてみろ。ボクがレストの思考を読み取る』

『脳内でってどうやるんだよ』

『それで良い』

『これで良いのか。……なぁ、ずっと思考を読み取るってのは無しだよな』

『そんな気にする事でも無いだろうに』

『俺は気にする』

『……そうか。ならボクを呼んだ時だけ思考を読み取るようにする』


 常に頭を覗かれるのは抵抗があるが、会話時だけならいいか。

 アールとそんな風に脳内で会話していると周囲の木々が途切れ始め、開けた場所に出た。目の前には切り立った崖がある。

 それを確認したハイドはぼそりと呟く。


「崖の上にドラゴンの巣がある事が多いが……かなり垂直だな。何処から登ったものか」

「俺ちょっと見てくるよ」


 少し高さがあるものの多分勢いで駆け上がれるだろう。俺は少し後ろに下がった。


「は!? おい待てまさ————」


 ハイドの声を置き去りに崖に向かって走った。ほぼ垂直状態の壁に足を掛けて上へ。そのまま難なく駆け上がり、崖の上に着地する。


「よし! いけ……た……」


 目の前に広がる光景に思わず俺は言葉を失った。レッドドラゴンが一体居たのだ。居たのだが既に息絶えている事が明らかであった。その鱗や皮は剥がされた跡があり、肉の腐った臭いが辺りに充満している。

 そしてレッドドラゴンの側には木の枝かお椀状に集められている。その中心、そこに大きな卵の殻が在った。卵では無い。ただの殻だった。けれども周囲に半透明な粘液が広がって殻が割れている。また、殻の近くに数匹ほど生き物が見える。小さくて羽のある生物だ。粘液で酷く濡れそぼっている。


「ドラゴン……?」


 ここは見た所ドラゴンの巣である事は間違いないだろう。そして割れた卵の近くにいるのはドラゴンの子か。ひとつの卵から数匹産まれるのか。ドラゴンの子供って不思議だ。毛まで生えているなんて、まるで鳥みたいだ。いずれ毛が抜けて鱗になるのだろうか。


「! 1匹生きてる」


 全て息絶えて居たと思ったが1匹だけ動き、這い出てくる。見る限り大きな怪我だ。血が出てふらついている。俺はすぐに近くに向かい、その消えそうな命をそっと腕に抱え込んだ。

 腕の中から俺をじっと見つめてくる。

 ぴぃひょろ鳴いている。とても小さい。寒いのだろうか、震えている。かわいそうに。

 …………可愛いなこいつ。


「なぁアール……ドラゴンの子供ってどうやって飼うんだ?」

『ドラゴンは保護対象に指定されている。一般人が飼うのは禁止されているぞ』

「え」


 つぶらな瞳が俺をじっと見つめている。


「……………………合法的にドラゴンの子供を飼う手段知ってないか? なんとか抜け道とかさ」


 アールはブルーローズの街に入る時に賄賂とか言ってたのだ。何かしら抜け道を知っているのではなかろうか。アールは情報屋をしているらしいのでそういった事は詳しいに違いない。


『飼うにしてもまずどのドラゴンを飼…………待て、まさか腕の中のそいつか?』

「いや、その…………怪我してるし……放っておけないだろ」


 それにしても何故このドラゴン達は全滅しているのだろうか。そんな事を考えていた時だ。


 ふ、と一瞬で空が暗くなった。


『!? 今すぐ逃げろ!』

「おい! お前すぐ崖から降りてこい!」


 アールとハイドの声を聞いた瞬間だ。俺の周囲に血と共に何かが振り注ぐ。見れば全て死体だった。大きい動物も居れば人の死体もあった。普通の人もあれは冒険者らしき人もいた。


「っ!?」


 ばっと上を見る。そこには赤い鱗のドラゴンが怒りの形相で俺を見ていた。その姿は異様であった。黒い蝶が飛び回り、蝶がドラゴンに触れた部分が黒く染まった。既にあちこちが黒く染まり全身が赤と黒の斑らになっている。


「斑らなレッドドラゴン……」


 俺たちが依頼で探していたドラゴン。暴れているレッドドラゴンが空に鎮座していたのだった。

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