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死を結ぶ光、ソル

 ソルが全て盗られた事について。

 アールの反応は非常に淡々としていた。


 なにせ——


『盗られた分は全部取り返せ。出来るだろう?』


 これである。

 あと『忙しいからそっちはレストに任せる』と一方的に告げられて終わった。


「信頼されてるのか、無茶振りなのかっ……!?」


 まんじゅうを目印に掲げて島の外側を駆ける。

 ——来た。グラフォだ。

 グラフォが上空から俺の元へ降りてくる。


 俺は燃え盛る炎の島から空へと飛び込む。

 直後、薬で縮む俺の下にグラフォが滑り込んだ。

 そのまま俺を乗せて上昇する。


「っし! 流石グラフォ!」


 タイミングばっちりだ。

 俺たちは空の先へ。


 目的地はソルを全て奪った選手、それにポイズンドラゴンの元へ。


 ***


 バーンラヴァ・アイルから少し進んだ辺りの空域で見つけた。


 遠目で毒らしき霧が溜まっているところがある。

 そこではドラゴンたちが五、六体ほど争い合っていた。


 予想以上に毒の霧が広がっているから、俺とグラフォではこのまま取りに行くのは厳しいだろう。


 それに争いはかなり激しい。


「あはははははは! 必死すぎ!」


 ポイズンドラゴンに乗る女性選手は高らかに嘲り笑う。


「これだけ囲んでるのに? ソルひとつ奪えないなんて、とんだ雑魚集団じゃない!」


 その瞬間、毒の霧が凍りついたかと思いきや、フロストドラゴンがポイズンドラゴンへ横から攻撃を仕掛けた。


「うるさい毒女、っ!?」

「おいっ!? どこに目ぇつけてる!?」


 しかしフロストドラゴンはワイバーンと衝突する。


 ワイバーンに乗るランス持ちの選手はフロストドラゴンと同時に同じ場所へと突進していたのだ。


「あはっ、ひっどい有様ねぇ!」


 まるで連携の取れていない周囲に向け、ポイズンドラゴンが毒の霧を吐きつける。


 霧に姿を隠して逃げようとしていたポイズンドラゴン。


 けれども、それを待ち構える選手が居た。


 淡い緑の大きな羽を持つ神秘的な巨大蛾——大水青幻蛾だ。その上にはボブヘアの少年がいた。


「笑っていられるのも今のうちだよ、リィン・レッドラム。星座が揃った」

「やん、あたしって有名人?」


 少年がポイズンドラゴンへと手を翳す。


 少年と巨大蛾の目の前、空に設置された複数の光の点がきらりと輝いた。


夜空の制約(アリエス)エンホーン・チャージ」


 その途端、魔術陣が浮かび上がり、光の点と重なる。

 光の点が脈打つように強く輝き、光の線が近くの点へと繋がった。

 ひとつの星座が形作られた途端、陣からツノを持つ灼熱の羊が炎を吹き出し現れる。


 紅蓮の炎に包まれる羊は空を踏み締める度、周囲を炎で焦がしていく。


「条件魔術ってやつ? こんな面倒くさいの、よくやるね、っと」


 ポイズンドラゴンへと突進せんとする灼熱の羊。リィン・レッドラムは針を素早く彼らに放つ。

 ひとつは魔術陣に突き刺さりヒビを入れ。

 ひとつは羊のツノに触れた途端暴風となり炎を散らす。

 ひとつは少年の眉間に向けて。


 しかし、大水青幻蛾が即座に体制を傾ける。少年へと向かった針はこめかみを擦り、空に血を撒くのみだった。


 レッドラムが針を放った直後だ。


 甲高い男性の声が空を貫く。


「こっちがガラ空き、よっ!」


 レッドラムの背後からスコリアドラゴンと男性騎士が現れ、チャクラムが空を斬り回る。


「っと、危なーい」


 レッドラムは手に持つ針でチャクラムをいなし、或いはポイズンドラゴンが羽で弾き飛ばす。


 間違いなく、レッドラムはチャクラムに気を取られていた。


 だから——、


夜空の制約(タウルス)グラビティ・クラッシュ」

「なっ!?」


 ——頭上からの魔術陣に不意を突かれたのも無理はない。


 頭上から半透明の牛の足がレッドラム達を踏み潰す。

 すると重力がそこだけ高くなったように動けなくなり、墜落する寸前のレッドラム。


「よし、トゥエイル! 今!」


 ひらりと大水青幻蛾がレッドラムに触れる。

 すると、くるくる回っていたソルがいくつも少年の方へと移動して回り始める。


「レッドラム、君はここまでだ。夜空の制約(リブラ)ジャッジメント・スケー……」


 俺は少し遠くから見ていたから違和感に気づいた。


 ソルが幾つか不自然な反応をした。


 条件魔術が発動した瞬間だった。


 魔術の誤作動にしてはおかしい。


 しかし、ぷつり、と糸が切れたように条件魔術の少年は前のめりに力無く倒れる。


 まるでそこだけ音が消えたように見えた。


 大水青幻蛾は羽の輝きが、空に溶けて消えてしまう様にふっと消え、重力に従って落ちていく。


「ゾラっち近づいて!」


 近くにいたスコリアドラゴンと甲高い声の男性騎士が落下する少年に近づき、非常用浮袋を付着させる。


 浮袋が風船の様に膨らみ少年を浮かせる。このあと、浮袋の信号を拾った運営側が救援にくるだろう。


 ほっとしたのも束の間、レッドラムは無常にも落下する少年達を跳ね飛ばしてソルを奪った。


「ぷぷ、自滅とかダッサ。じゃーねー」


 浮袋でゆっくりと落下していく少年はまるで眠るように微動だにしていなかった。


 近くにいた選手達は戸惑ってはいるものの、この異変には気づいていない様だ。

 恐らくレッドラムも気づいていない。


 彼らの争いがまた再開される。


「間違いない」


 アールが何に危険を感じていたのか分かった。


 不味いのは、ソルそのものだ。


「グラフォ、方針変更。先に二つ目のソルを全て回収する」

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