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戦場を抜けた先

 グラフォと飛び立ち始めてすぐの事だ。

 ドラゴン同士の乱闘が、ちょうど真上で勃発した。


「今日こそぶっ潰してやらぁ!!」

「やれるもんならやってみろゴルァ!!」


 あの風貌、そして口の悪さは、きっと冒険者だな。


「避けるぞグラフォ!」


 冒険者の荒くれ具合は十分に知っている。

 巻き込まれないよう、なるべく空いている空間へ向かおうとするが……今この空ではそんなものは無いか。

 向かうなら比較的荒れてない選手の近くだ。


「騎士ならっ、冒険者よりはまだ問題ないだろ!」


 騎士は町の人々を日々守っている。だから、仲間たちで乱闘騒ぎにはきっとならない。


 目の前を飛ぶ騎士ふたりだって……


「おいおい、途中で逃げた腰抜けがよくまた顔出せたなぁ!」

「相棒を第一に考えてのリタイアだ。それより、祈りの準備は済ませたか?」


 上品な罵倒がおっ始まった。

 いやそんな上品でもないか。


 直後にブレスが轟々と飛び交い、ぶつかり合う。

 俺の真横を炎が掠めた。


「熱っう!? くそっ、そういやパージュの口の悪さも大概だったか、っ!?」


 遅れて突風が吹き荒れ、俺とグラフォを包んでひっくり返す。


「……上っ、どこだっ……!?」


 回る視界の中、大きなドラゴンの羽ばたきが視界を何度も横切る。風の渦が吹き荒れる。視界を何度も揺らした。


 グラフォに進む先をどうやって示す?

 飛び立つドラゴンを追う?

 何もかもがぶつかり入り乱れ、選手たちが四方に飛んでいるように見える。


 こういった場合はどうすれば良いんだ?揺れる頭でゴーラン先生のアドバイスを思い出した。


『飛び方はこの子が一番良く分かっているんだよ』


 ……そうだ。飛び方はグラフォがよく知っている。


 グラフォを見れば、視線は前だけを向いていた。俺みたいに視線をきょろきょろしていなかった。


「グラフォ」


 グラフォに体を沿わせる。少しでも飛びやすいように。


「もっと上まで行こう」


 グラフォは短く鳴き、螺旋を描くようにくるりと飛行する。

 周りは既に戦場にかと思うほどの乱闘騒ぎだ。そんな中で突風が横へ上へと何度も吹き荒れる。それらの突風をグラフォは翼で捉え、一気に空を突き抜ける。


 他の選手たちの隙間をすり抜け、あるいは素通りする。右へ左へと旋回し、ただ強い追い風を受けて舞い上がり——いつしか周囲は大空が広がっていた。


「抜けっ……た!」


 眼下にはさらに争いが激化し、数多くの選手たちが墜落していた。


「先を急ぐぞ!」


 俺とグラフォは先に抜けた選手たちの背を追っていった。


 ***


 初めの浮島まで半分くらい飛んだだろうか。

 そろそろ薬の効果が切れる頃だった。


 ポーチから小瓶を取り出そうとして、眼下の巨大なドラゴンが目についた。


 冷気を発しながら優雅に飛行していたのはフロストドラゴンだ。

 息を吹けば空が白く染まり、羽ばたく度に霜が発生する。陽の光が反射してキラキラと虹の粒が発生しているようだ。


「おおぉ……随分と目立つな」


 ドラゴンの背には煌びやかな装飾があちこちに飾られ、遠目からでも非常に目につく。


 というか、絨毯まで乗っけてるのは絶対重いだろ。背中に住めるんじゃないだろうか。


 その背に乗る選手も寒さ対策の防寒具にしては質が良く高価な装いだ。

 しかも今はレース中にも関わらず、くつろいで淹れたてのお茶を飲んでいる。フロストドラゴンの背でお茶だなんて羨ましい。


 そして、油断しすぎだ。


「………………なぁグラフォ。俺たちも氷の上に乗ってみたくないか?」


 逸る心を抑えつつ、俺は小瓶をポーチに仕舞った。

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