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飛行中の事故

 ずぶ濡れになった服を絞ると、海水がぼたぼたと滝のように流れ落ちてきた。泳いでいた時、重いとは思っていたが予想以上に絞れてびっくりだ。

 このまま木の枝に掛けて干せばすぐに乾くだろう。なんせ肌をジリジリと焼かれるかと思うくらい強い日差しなのだ。


 服の皺を伸ばしていると、背後から安堵したように息を吐く気配がした。


「来たのが人で良かったよ。また魔物がぶつかりに来たのかと思った」


 疲れた表情をしている男性はドラゴンにもたれ掛かる。彼はゴーランと名乗った。


 俺が猛スピードで泳いでこの島に上陸した直後、硬直した彼に「……魔物か?」と問われたのだ。島にいたゴーランから見れば、とんでもない速さの水飛沫がやって来たとしか見えなかったらしい。

 もちろん俺は魔物じゃないと答えた。


「"また"? って事は魔物にぶつかられたのか?」

「あぁ、とんでもなく硬い鳥の魔物がコイツの、ビルノアの翼を壊しやがったんだ」


 ゴーランは白いドラゴンを撫でる。

 この片翼の白いドラゴンはビルノア。ゴーランの騎竜らしい。


 ゴーランの労わるような手つきにドラゴンはか細い声で返事をする。

 痛みを堪える声なのは、ビルノアの右翼、機械の翼の骨部分が折れ曲がっているのである。それが体に深く突き刺さっているのだ。


「無理な体勢で落ちちまってな。……大丈夫だビルノア。俺が付いている」


 ビルノアは喜び、もっと撫でろというようにゴーランの手を鼻で押し上げる。

 一見元気そうな仕草だが、動くたびに痛むのか体はわずかに震えていた。


「強いドラゴンだな」

「当たり前だ。俺の自慢の相棒なんだ」

「いつからここに?」

「三日前だ」

「三日も!?」


 この島は本当に小さくて何もないのだ。


 島の大きさはドラゴン一頭と人がひとり居るだけでかなりぎゅうぎゅうだ。プラス俺が加われば更に狭い。


 しかも、ただ木が一本生えているだけの島である。食べれそうな実は実ってないし、水は海水しかないので飲めやしない。食べられるものは唯一泳いでいる魚が居れば良いだろう。


「水や食糧はどうしたんだ?」

「水は魔術で出せるんで問題ないんだ。食い物は、飛んでいた鳥の獣魔からバングルを借りたんだ。あぁ、まさに神の思し召しだ」

「このバングル……まさか」


 グラフォがくるりと飛んで、目の前に降りてきたかと思えば、干したばかりの俺の服に止まる。


「グラフォ」

「やはり君の獣魔だったのか」

「あぁ。海に落としてなくて良かった。今回は怪我の功名だけど、勝手に持っていかないでくれよ?」


 グラフォに目線を合わせる。バングルを持っていかれるのは困るが……にしてもグラフォは可愛いな。ホワイトドラゴンのビルノアにも負けない可愛さだ。


 ……いや、ビルノアは白いドラゴンだが、本当にホワイトドラゴンなのか?

 ホワイトドラゴンなら自分で回復出来る筈だよな?


「ゴーラン、ビルノアはホワイトドラゴンなのか?」

「いいや、違うんだ。よく間違えられるが、こいつは普通のレッドドラゴンなんだ」

「白いレッドドラゴンか。ひょっとしてかなり珍しいんじゃないか?」

「そりゃあもう、バレたら学者どもに奪われかねないくらいだな。……魔族にもホワイトドラゴンだと間違えられて、襲われていたんだ」

「もしかして羽が片方機械なのは、その襲われた時の?」

「あぁ。俺たちが初めて会った時でもあるな」


 ゴーランがビルノアの右翼の付け根を撫でて懐かしむ。


「ここまで翼が壊れたらテスさん……馴染みの技師に修理してもらわないとな」

「そうだな、まず陸地まで戻……ん?」


 ブルーローズの方から一隻の船がちゃぷちゃぷとこちらに向かってきていた。


「船だ! イースだな、おーい!」

「た、助かった……待て。あの船、無人じゃないか?」


 船が近づいて来るにつれ不思議な点が見えて来る。船には誰も乗っていないのだ。


 目を凝らせば、イースが良く使っている道具だけが船に乗っているようにも見える。


 船を迎えに行くか。


 海に入り、ぷかぷか浮いてやって来る船を掴み、島の砂まで引き上げる。


「……やっぱり道具だけだな。イースはどこだ?」

「ま、まさか……幽霊船……?」

「いや、この船はギルドの登録があるし——」

「ひっ、いいいいい! ま、魔物!?」

「へ?! 魔物!?」


 腰を抜かすゴーランの目線を急いで辿れば見覚えのあるシルエットの何かが立っていた。


 それは海から来たらしい。全身を海藻で巻いた人型の生命体だ。

 その生命体は体にこびりついた海藻をひっぺがし、えらく雑に海に放り投げる。


 そして肩を落としながら、歩いて島に上陸してくる。


「魔物……魔物て……」

「イース!」


 ゴーグルを目元につけたままで表情は読み取れないのだが、声色で凹んでいるのがよく分かる。


「え、え? 人? 人なのか?」

「あぁ、安心してくれ。俺の仲間だよ」

「そんな驚かんでええがな……」


 未だに混乱しているゴーラン。そしてゴーランを左翼で隠しつつも、怯えているビルノア。


 ゴーラン達はいきなり現れたイースに驚いているだけだろう。


「イースは船に乗らなかったのか?」

「重量オーバーやねん。……僕重すぎて沈むんや……」


 イースは海の底を歩いて来たのか。

 そりゃびっくりされるな。俺なら普通に溺れ死ぬ。


 それより、だ。


「イース、皆んな運べるか?」

「余裕や」


 心強い返事だ。流石イース。

 俺はゴーランへ振り返る。


「ゴーラン、バカンスは今日までで良いよな?」


 ゴーラン達の瞳に力がみなぎった。

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