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外れた仮面

 仮面の男が放った雷撃は町全体を網羅する規模だ。それはまるで雷で出来た巨大な樹木のようだった。


 町の端に届くまでの雷撃は細く、鋭い。

 男の中心に近いほど雷が太く、更に威力が増していた。


 仮面の男は地面に落ちる旗を踏みにじり歩みを進める。スワンが持っていた旗。旗の柄部分以外はただの布だ。柄に触れさえしなければ移動はしない。


 男の視線の先は崩れかかった壁。レストとスワンが隠れた先だ。けれど、二人の姿は男から見えない。


「儂の前で壁など、なんの意味も無い」


 砂埃が舞い。周囲の視界は悪い。

 仮面の男は壁の方へと手をかざす。


 男の手から溢れるように小さな雷撃が発生し、徐々に光と音が大きくなっていく。


「消えろ」


 一際大きな雷撃が放たれた。

 砂埃は消え失せ、音と光で満たされる。


「……む?」


 男は想像していただろう。男の雷撃でレストとスワンが倒れ伏す様を。


 けれども破壊された壁の向こうには人影が立って見えた。立つ人物からハラリと旗がはためく。体に旗を巻きつけていたようだ。


「防いだか。だが、いつまでそうしていられる?」


 男は再び雷撃を放つ。

 目の前に立つ者たちへと向かって。


 男にとって雷撃を放つのは息を放つのと同じ。ごくごく自然の事だ。だからこれ程までに容易な事に対し、仰々しい反応で防ぐヒトを見て早々に理解していた。


「ヒトは、脆い」


 侮蔑の言葉のはずだったのだろう。

 けれども、男の語尾は弱かった。


「弱きモノがいくら防いだとて、いずれは耐えられずに「きみは、狩る側らと?」っ!」


 男の背後で砂が舞い踊った。


 水気を含んだその砂はスワンの腕と顔を形作る。しかし完全に完成しないままで、スワンは水のような刃を手に男へと一閃する。上からの振り下ろしで男の周りを取り巻く雷を水のような刃で切りつけた。


「ちっ!」

「ふふ、アルコールさいきょう」


 スワンは反撃をくらう前にするりと旗に入り込む。仮面の男は苛立ち手に雷撃を纏った。


「無駄な事をっ! 二人まとめてっ……」


 男はスワンが旗を通じて戻った先へ、レストの方へと振り返るが、既にそこには誰も居なかった。


 けれども近くにレストとスワンは確実に居る。

 どこからかレストの叫びが男の耳に届いた。


「無駄じゃない! 無駄になんかさせない!」


 ふわり、男の目の前に生花が降ってきた。


 倒れ伏すエクリプスの周りに散っていた花だ。

 仮面の男は花に目を奪われ、動きが止まる。


 故に、スワンに気が付かなかった。


「こっちらよ、雷獣」


 花が散る中、するりと差し込まれたのは水の刀だった。刀の切先が男の顔を隠していた仮面を跳ね飛ばす。


 露わになるのはノヴァと酷く瓜二つの顔だ。けれどただ一点、ノヴァとの違いがあった。そんな些細な違いだが、すぐに分かる程に大きな違い。


 その瞳は深い悲しみと絶望の色を抱いていた。


「今を見ろ! お前は分かってるんだろ!? 目を背けるな!」


 仮面の男は——雷獣は落下する仮面越しに見えた。

 膝立ちのレストと、その側で血溜まりの中に沈む瓜二つの存在に。


「儂は——」


 仮面がカラリと音を立てて落ちた。

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