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似ても似つかない

「"儂"? ……っ!」


 疑問を持つその一瞬すら、油断そのものだった。まるで雨のように雷が降り注ぐ。雷撃を真横に感じながら、即座に転がって離れ、建物の影に身を隠す。


 薄暗く、細い通路で木の壁を背に預け、つめていた息を吐く。


「……ノヴァ、じゃない……?」


 背の高さ、長い髪、装いはノヴァそのものだった。けれども言動は違和感しかなかったのだ。

 脳裏に次々と浮かんでは焼き付いていく。ノヴァのふとした仕草が、言動が。そして目の前の奴のこれまでの言葉が。


 そんな時だ。目の前の何もない空間で小さい電気がパチリと弾けた。


 背筋が凍る。予感に体が突き動かされた。


「不味いっ!」


 今いる場所は身を隠したばかりだったが、すぐに飛び出す。

 その瞬間、世界が揺れているような震えを全身の肌で感じた。キーンと耳鳴りが耳に張り付いたようだ。


 頭がぐらりと揺れる。焦げた匂いが辺りを漂った。振り返れば細い通路は消え去り、建物が黒焦げに消し飛んでおり、そこだけ何もない空間がぽっかりと出来上がっていた。


「ふむ、これは強すぎたか……加減がわからぬ。動かぬ的なら簡単であるが」

「動かない、的って……?」


 何ひとつ感じていないかのように、淡々と周囲の空間に残る雷を黒く汚れた手で操る。血が乾いて黒くなった色だ。


 それは一体、誰の血だ。


 ……動かない的というのは、時間が止まった世界で怪我をした人の事じゃないのか?


「お前っ! どれだけっ、無抵抗な人をどれだけ傷つけた……!」


 思考がたどり着いた予想に怒りが溢れ出てくる。世界を止めて、人を傷つけたこと。

 それに加えて——


「その声で、その仕草で……似ても似つかないその姿で悪事を働くんじゃねぇよ!」

「……似ても……似つかぬ……?」

「ノヴァの偽物だろ! お前が行った全ての罪を被せるつもりか!」

「っ……」


 こいつは、このノヴァの偽物だけは放って置けない。俺の仲間の姿を真似て好き勝手させてたまるものか。


 奴の雷撃は非常に強力な攻撃だが、来る方向が分かっていれば防ぐ事はどうにでもなる。


 先ほどの建物を消し飛ばした攻撃だって放たれる方向さえ見極めれればなんて事はない。


「……黙れ! 黙れ黙れ黙れ、黙れ!」


 狂ったような叫びだった。奴は声を荒げ、雷撃を四方八方に無茶苦茶に繰り出す。


「な、ぁ!」


 まるでコントロールが出来ていないように、奴を中心に放たれる雷撃。威力がバラバラであったのが救いだった。


 どこに向かってくるか分からない雷撃をいくつかくらうものの、少し痺れる程度だ。


 奴に近づくには何かを盾にするか、雷撃が少し収まった瞬間に接近するか。

 しかしそう簡単にはいかなかった。


 遮蔽物にしていた柱の旗に雷撃が触れる。旗の模様に雷撃か放たれた瞬間だ。普通は焦げて吹き飛ぶと思うだろう。けれども雷撃は旗に吸収され、消えてしまった。


「消えた? ……っぐ!?」


 次の瞬間、俺の背に雷撃が掠め、動けずに膝をつく。

 背後からだった。放たれたのは別の旗からだった。


「……っ、なんだこの旗!? 模様の色が変わってないか?!」


 町の中の旗はひとつだけ千切られて無くなっている旗もあるが、そもそも町にある数が非常に多い。あちこちの旗から雷撃が飛び交い、町中が雷で満たされていく。


 本気で不味い。


 膝をついたまま、何度も直撃し動けずに地に倒れ込むと、下から聞き覚えのある声が聞こえた。


「……その魔石を砕かれちゃ困るんだ」


 そして、俺は開いた地の蓋から地下へ引きずり込まれた。

















 酒瓶を片手にしゃがみ込んだスワンは目の前の人物に首を傾げている。


「大丈夫れふか〜……ふむ、おかひいね。回復魔術が効からいなんて。うぅん……わたしが酔いすぎ?」


 肩と足から血を流している人対し、回復魔術をかけても何ひとつ変化が無いことにスワンは疑問を持っていた。


 そもそも、スワンは時間が止まっている事に気づいてはいなかった。


 そんなスワンの元へ、ふらりと幽霊の様にひとりの男が近づいてきた。


「うぅ〜ん。のゔぁ、いいろころに!」

「……」

「みんら凍ってしまったみらいにカチカチなんら。さっきは大きな雷もあっらし、なにかおかしいんらよ」

「……」

「それに回復魔術の効「治せるのか」果……ん、あぁ」

「……来い」

「んん? なんら? 黙り込むなんて、何か嫌な事れもあったのか?」


 あぁとても、と仮面の男は小さく呟いた。


「来い」

「……急ぎだね」


 スワンは裾を翻した仮面の男の後を追った。

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