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 リセルが息を一つ飲みます。


「うん。そうだね。本当に生きている人たちだってわかっているよ。絵本の出演者とは行動も考え方も違うもの。状況が変われば考え方も心も変わるのは出演者なわけない。

でもね、強制的に私の知っている出来事が起こることが多いのも事実なの」


「イベント………ですわね?」


 リセルは目を見開いて驚きます。


「うふふ。貴女はよくそう呟くのよ。気が付かなかった?」


「そっか……。ベティはずっと私のこと気にしてくれていたんだね」


「最初は入学式の翌日にダンティル様の馬に轢かれそうになったことかしら?」


「ベティってすごいなぁ。たったこれだけの情報でそれを導き出せるんだね」


 わたくしが本当に理解しつつあるとわかったからか、リセルの表情が和らぎました。


「その絵本はどのような内容なの?」


「主人公アンナリセルの学園恋愛ストーリーだよ」


 『主人公アンナリセル』と他人のように言うリセルは、彼女こそ出演者ではないと訴えているようですわ。


「あの馬事件はアンナリセルとダンティルの出会いイベントなんだ。

図書室ではマジラウルと、裏の林ではフロレントと、鍛錬場ではエリアウスと出会い恋をするの」


「よ、四人??」


「うん。四人と仲良くなっていって最終的に一人を選ぶ。選んだ人によってエンディングが変わるの。

でも、誰を選んでも四人とも自分の婚約を破棄してアンナリセルを見守ることを誓うんだよ」


「す………すごいお話なのね……」


「絵本だから楽しめたけど、現実になったらありえないでしょう? それに…………」


 リセルは眉を歪めます。


「わたくしのこと?」


 リセルがコクリと頷きました。


「ベティーネ・メルケルス公爵令嬢はその人たちの婚約者であるご令嬢たちを助けるために主人公アンナリセルに立ちはだかるの」


「そう………」


「絵本の時には『ダンティルを取られた嫉妬だよね』って思っていたんだけど、現実を見たら、ベティの責任感と優しさなんだよね」


「え? わたくし、何もしておりませんでしょう?」


 リセルが左右に首を振ります。


「イベントってね、男たちと婚約者を引き離すためのものと、アンナリセルと男たちを仲良くさせるためのものがあるの。

この三年間。沢山のイベントがあったんだよ。私が捻じ曲げてしまったからなのか、類似イベントが何度も出たりしてた。

でも、そのたびに、ベティはカップルの仲が悪くならないように、私が女の子たちから嫌われないようにって動いてくれたでしょう」


「それはリセルが態とやっているわけではないし、殿方たちに女性としての好意を持っていないことをわかっているからですわ」


「そっかぁ」


 リセルは本当に嬉しそうに微笑みました。


「信じてくれてありがとう」


「ふふふ。ところで、絵本の中でしたらリセルの狙いの方はどなたなの?」


「はへ?」


 リセルは顔を真っ赤にして口をパクパクとさせています。


『ダンティル様なのね……』


 わたくしは大丈夫と意味を込めて満面の笑みを浮かべました。


 でも、リセルの答えはわたくしの想像の上でしたの。


「私の推し……えっと好きな出演者は……ベティーネ・メルケルス公爵令嬢なの」


 リセルは耳まで赤くして手で顔を覆います。

 わたくしも思わず口を開けてしまいましたわ。

 リセルはそれを指の間からチラチラと見てきます。そして、意を決したように前のめりになりました。

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