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炎の性質

 着いたら着いたで作業台の上に私を横たえて犬に戻ろうとする。慌てたクラリッサが止めた。

〔待って犬に戻るのはまだよ。治療を手伝って!〕

 ちって顔したよね。絶対したよね今!

 そしたら男じゃなくて成人前の女性に変身した。器用だねぇ。

「何でぇ⁉」

「不満か?」

 ハスキーないい声じゃないですか。男の時も低くていい声でしたけど。

〔いいえ、ツチラトありがとう。そのままでお願いね〕

(これってあり?)

 咄嗟に言葉が出なくてクラリッサに目で問う。

〔驚かせちゃったかしら?ツチラトは神霊物質が意識を持った魔物だから性がないの〕

「何ですと⁉」

〔本人もどちらの姿も拘りがなくて、動き易いから男の形を取ることが多いだけ〕

 授業で習ったから知識ではあったけど、実際その手の生物を目の当たりにしたのは初めてだ。

「じゃあじゃあ、本来の姿ってどんなの何ですか?」

「人はみなそれを問うが、では女、()は己が産まれた時の姿を覚えておるか?」

「いいえ」

 そういや、家族に聞かされただけだ。

「それが答えだ」

「ほう」

 恍けた返事をしてしまった。

「!女性の時には何と呼べば?」

「……ハイディで良かろう」

「もしかしてアーデルハイトさんですか?」

 ハイディはアーデルハイトの愛称なのだ。

「この姿の…もう亡くなっているが、女はな。ハイディと呼ばれていた」

 答えてくれながらもクラリッサに指示された何やかやを用意してく。

「亡くなっていらっしゃる…」

(モデルになった人がいるんだ)

 〔実際にやってみたら一から自分で想像するなんて無理な話なのよ。大抵は自分の記憶に鮮明にある姿をとるものなの〕

「ほう」

 感心してまた恍けた返事をしてしまった。

(ほう、じゃないよ自分。授業でも習ったじゃん。何眠たい返事をしているかネーナ)

 変身魔法で動物になったり自分の姿形を変えられるけど、理想の女性だ男性だ、なんてのは抽象的過ぎて成功しない。細部まで立体的に想像出来るかどうかがこの魔法の肝なんだって。だから私が男に変身するなら、ハッキリと頭の中で姿を描ける兄ちゃんや父ちゃんなんかの方が成功し易いのだ。それに顔だけ美人とかにしても、肌色や肉体のバランスなんかで違和感を酷く感じるって習った。

 結構難しい魔法だから適性がないと実習させてもらえない魔法の一つだ。

「親しかったんですか?」

 直球で恋人だったんですか、とは訊ね難い。

「五百年程昔の召喚主の部下だった女だ。剣士でな。吾に興味を持って繁殖したがった」

「へぇー、…エエエエエエエッ最後になんてぇ!」

〔慣れることよネーナ。繁殖に羞恥心を持つのは人間だけなんだから〕

「は…繁殖…」

 頬が熱い、真っ赤になってるであろうことが自覚出来た。

「そそそ、そ、そ、それは、ははは繁殖したから…す、姿を模すことが、出来た、とかそういう」

 自分でもはしたないとは思うけど好奇心が勝ってしまった。訊きたいよねぇ!

 クラリッサが口を押えた。顔色や表情が変わらないから分かんなかったけど、あなたも説明しながら恥ずかしかったんだね。

「聞いておらなんだか?()に性はない。吾は吾だけの存在だ。繁殖欲もなく。従ってどの様な生物の姿を取ろうと繁殖はせん」

「迫られて、真似事とか…ほら召喚主に無茶振りされたり…なんて、こと…」

 ここまで聞いたらも一つ位恥の掻き捨てだわ。

〔まあネーナ。そこまで訊いてしまうの?私も訊きたいけど〕

 だよね。訊きたいよね。

「出来ない。形は真似られてもそもそもそういう感覚が持てないから、ピーーがピーーしない」

「のええええぇぇ」

 答えてもらえはしたが、私達の方が恥ずかしくてクラリッサと抱き合ってしまった。

 ピシャーッと思い切り横開きの扉が開かれて、ガブリエラが顔を真っ赤にしてる。

「何てことを訊いてるの⁉聞いてるだけでも恥ずかしくって顔から火が出てよ。耳が穢れてしまうかと思った!」

 私の服の焼け焦げが酷いから、代わりの服を調達しに途中で別れたんだ。

「だってだって、訊きたいじゃない。変身能力のある魔物さんに直に訊ける機会なんてもう絶対ないんだよ!」

「分かるけれども!女子なんだからそこは我慢すべきでしょう?」

「ごめんなさいガブリエラ。女子でも訊きたいことは訊きたい!で、何処から聞いてた?」

「五百年程昔…の辺りよ。な、な、何だか恥ずかしい単語があったから、戸が開けられなくて。もう恥ずかしい子なんだから」

 そしてハイディに恐る恐る目を向けてホントに感心してた。

「わあ、中身はツチラト氏だけれど外見は女性だわ」

 ガブリエラにはそういうことが解るんだ。流石にローブはだぶっとしてるけど谷間がセクシーだ。

 コホンと一つ咳払いすると「失礼」とつかつか近寄って、だらけたローブをきちんとワンピースに見える様に直した。ガブリエラ偉い!

〔ハイディ、風呂桶出して〕

 ぽん、と開いた空間に風呂桶が現れた。

「うっそう⁉」

 ガブリエラと二人信じられなくて叫んでしまった。

〔転送しただけよ。無から作ったんじゃないわ。ガブリエラ、湯石を出してくれる?〕

 言いつつ精製水を樽から注ぐ。

〔じゃあネーナ、服はそっと脱いでね。火傷に貼り付いてる部分もあると思うから〕

「え…と石は四つ?五つかしら?」

〔五つで、少し熱めにしたいから〕

 湯石がくべられる。

「もしかして…私そこに浸かるの?」

〔そうよ〕

「でも、だってツチラト氏、いえ、ハイディ女史が…」

〔さっきも言った通り彼女に性はないの。性欲もないから襲ってくるとしたら食欲でだから安心して〕

 それは安心…じゃない!人間食べますかハイディ女子は!

「人間の雌という奴は」

 面倒臭そうに呟いてハイディ女史は風呂桶周辺を黒の帳で隠してくれた。

「ありがとうハイディ女史。お気遣い凄く嬉しいです」

 だって性別がなくて姿形が女になったとしてもよ。さっきまで筋肉隆々のハンサム青年だった訳ですよ。そりゃ目の前で素っ裸にはなれませんって。

「脱ぐの手伝うわ。きっと一人じゃ辛いと思う」

 そうなの?と思ったけどそうだった。火傷に服が貼り付いちゃって、自分で剥がすのは辛かった。私が痛がるとガブリエラがまた涙目になっちゃってた。大丈夫だよ。ちょっと痛いだけだよガブリエラ。我慢強くなんなきゃ。

 手鍋に煎じられたきつい臭いの薬が風呂桶に注がれる。

「なんか黒っぽいんですけど…」

「匂いがきついのね」

〔これも入れてよく掻き混ぜて〕

 ピンク色のガラス玉は直ぐに溶けて湯が青黒く変わる。匂いも鼻を抓まないと耐えられなくなった。こういう場合って綺麗なピンクになるとかじゃないの?

「ごれにばいるんでずが?」

〔でないといくら獅子人でも火傷痕が残ってしまうの。この炎は多分痕を残したら後遺症が残る類のものだから、特定は後で出来るだろうけど、考えつく限りの物には効くはずだから我慢してね〕

 始末の悪い炎だったんだ。

「じゃあガブリエラや他の皆も…」

「私達は先生方が、手当てが済んだ順に浄化魔法をして下さるそうよ」

 消臭魔法の掛けられたハンカチを顔に当ててる。

「ガブリエラは済んでる?」

「ダンテさんがホイって済ませて下さったわ」

 ホイなんだ。そっか獅子人は魔法が効かないからな。

〔かなり沁みると思うから覚悟してね〕

「のぐおわああぁぁぁ」

 足を浸けると自然と口から洩れた。女子の上げる悲鳴じゃない。言葉に偽りなしで見えない場所の火傷もバッチリ判った。それだけ沁みた。

「大丈夫ネーナ?」

〔顔の傷にも頻繁に掛けてね。頭の先まで湯船に沈むのも有よ〕

「ぉぉぉぉぉぉぉ」

 頑張って言われた通りする。沁みて沁みて声を抑え様としても漏れまくった。

 そんな私を励ます為だろう、ガブリエラが手桶で優しく薬湯を掛けてくれる。

「後からしたらほんの束の間の出来事でしかなくなるから。終わったら経験になるだけだから。いつか終わるから。だから頑張ってネーナ。私が付いていてよ」

 どう励ましていいか分かんなくて手当たり次第に思い付く事を言葉にしてる感じがする。

〔お湯に触らない様に気を付けてガブリエラは。皮が剥けてしまうわ〕

「はい」

「ぉぉぉぉぉぉぉ」

(そんなのに私は入れられてるんですね)

「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 発声が抑えられない。身体が震える。

「何時間入ればよろしいの?」

〔湯が透明になるまで…。恐らく二時間位は〕

(拷問じゃ~。放火犯め許さんぞ!恨んでやる~~)

 口に出したかったけど、もはや「ぉぉぉぉぉぉぉ」しか出なかったし止められない。沁みる沁みるぅ!

 拷問は幸い二時間も受けずに済んだ。それでも三十分程は歯の根の合わない思いをさせられた。湯の色が深緑まで澄んで、どうにか耐えられる状態になった。

「ゆ~る~さ~ぬ~~~、放火犯め~~~」

「わたくしもよ!もう絶対赦しませんわ⁉大切な友達をこんな目に遭わせて、酷いわ」

 その言葉で心が癒された気がした。

「顔に痕が残ったらどうしましょうって不安だったのですけど、いつものぷくぷくのバインバインした肌に戻っているわ」

「感激してくれるのは嬉しいけどガブリエラ、それはどんな肌なの?普段の自分が心配だよ」

「け…健康的な肌だとお思いなさいな。ごめんなさい。わたくしったらもうもう!今日は何を考えてもダメですわ」

「私もだよ。もう望むのは家に帰って自分の布団に潜り込むことだけ…」

 気が抜けると反動からか一気に眠気が襲ってくる。

〔眠かったら眠ってくれていいわ。まだまだ掛かるから終わったら起こしてあげる〕

「は~い」

 気怠い気の抜けた返事で素直に眠気を迎えた。



 それは高台にある城だった。

 他より高い場所なのに更に石垣で土台を作った上に城が載ってる。

「父は苦しみ抜いて死にました」

 初等部にもまだ届かない位の少年が、感情を殺した声で告げた。私じゃない。少年の目の前に立ってるおじさんにだ。

「すまなかった…」

 誰もが二人の対面を見守ってる。私もその一人だ。

「もう父には届きません」

「陛下のお言葉に…」

 叱ろうとした側近の言葉をおじさんが手で制止した。陛下ってことは何処かの王様なの?

「止さぬか」

「父は…」

 一度言葉を切った。

 少年は不思議な瞳をしてる。青っぽい白で虹彩が大きい。髪は珍しい銀髪だ。

「父は人を呪い、貴方を呪い、貴方を信じた自分を呪いました」

「父を看取るのは辛かったろう」

 痛そうな表情だった。けど少年の表情は変わらない。

「ええ、父は僕を愛してくれませんでしたし、母もです。当然でしょう?望まぬ繁殖を強いられて出来た子です。貴方なら愛せますか?」

 繁殖?人間じゃないの君は?

「私は君を愛するぞ!」

 突然後ろ手に縛られた男が叫び出した。

「君こそ人と亜人を繋ぐ架け橋となれる存在なんだ。卑下してはいけない⁉」

 綱を引かれて動けない様に跪かされた。

「卑下はしていない」

 男に向いてるから表情は分からなかったけど、少年の声は子供とは思えない程冷たくなった。

「貴方はそうでしょうね。父を実験台に好き放題していた貴方を父は憎んでいました」

「最後まで理解してもらえなかったことは私も辛かった。けれど私がしたことの正しさはきっと歴史が証明してくれる。レオンハルト、君が架け橋になってくれれば」

「どうやって架け橋になれと?父の望まぬ子、父を殺した人間の子として僕は父方に憎まれている。母方からも獅子人の血を引く子、母を苦しめた子だから受け入れてはもらえない。僕の居場所は何処にもない」

 その歳でそれ言っちゃう?酷い境遇なんだ。

「人の無理解に挫けちゃいけない。理想を心に持って進むんだ」

 狂信者だ。いつか分かってもらえるって思い込むことにして、他者を理解することから逃げてる。

「その男を黙らせろ」

 王様が冷たく告げると跪いた男は蹴り上げられた。

「君の処遇には私が責任を持とう」

「結構です」

「そうさせてくれ」

「父の言葉通り僕も貴方を信じません」

「レオナルド、少年の君が独りでどう生きるという」

 そうだよ。辛くても好意には甘えた方がいいよ。

「貴方には関わりのない事です」

 少年は背を向けた。

「さようなら」

 泣いてないけど辛そうだな…。

 誰も動かない、私の視点は変わらなかった。誰なんだ私?

 何て夢だろう。




「ネーナ、ネーナ起きて」

 揺すられて起きたくなかったけど渋々起きる。お湯は冷めないで透明になってた。

「あ、ゾイゼ先生」

 もう一人の薬学の先生だ。

「お湯が透明になったから身体を濯いで薬湯を流しましょうか」

 湯が抜かれて排水溝にお湯が流れる仕組みになってた。

「ハイディ女史、お願いします」

 精製水樽を掴んだ腕が帳の上に伸びた。にょ~んと腕が。

(ゲッ!)

「樽が空になるまで頭の上から爪先まで全身をよく濯ぐのよ」

 薬湯のきつさが窺える。ほんのりぬるい精製水が気持ち良い。

 実験用のガウン・ワンピースが渡されて、髪をフカフカのタオルでガブリエラが拭いてくれる。瞬く間に髪が乾いた。

「よかったわ。探したのよ。あなたこそ真っ先に怪我の手当てして浄化して上げないと…って。でも他の先生方が…」

 はい、解ってます。獅子人は頑丈だから後回しにされたんですよね。頑丈頑丈!だからゾイゼ先生は申し訳なく思う必要はありませんよ。

「じゃあ他の生徒達は全員手当てを受けたんですね」

「もう終わる頃かしら。私は頃合いを見計らって抜けて来たの。あなたのお陰で軽症の人が多いのだし。生徒達から研究室に連れて行かれたって聞いて大丈夫だとは思っていたけど、実際にこの目で見ないと安心出来なくて」

「ありがとうございます」

「何言ってるの。それはこちらこそよ」

 先生の服も焼き焦げで一杯だ。

「講堂で焼け死んでしまうかと思ったわ。火事には備えてたんだけど、防災担当の数学の先生が消火しようとしたら余計に火が燃え盛って…本当に怖かった。もう家族に会えずに亡くなってしまうのかと…。ありがとうネーナ。帰ったらまた夫と息子に会える」

「いやいやいやいや、先生、あの…ダンテさんも居てくれたんで。窓が塞がってった時にはどうすればいいんだろう、って思っちゃいましたけど」

 もう、皆そんな涙目で見ないでよ~。私は自分に出来る事をしただけだよ。

 話によると校長が逸早く魔法の逆転に気付いて止め様としたけど、誰もが恐慌に陥って闇雲に魔法を使っちゃったんだって。

「そういえばクラリッサは?ダンテさんは戻った?」

 ゾイゼ先生とガブリエラが目を合わせた。

「ギッティ先生が戻って来ないの。連絡もつかなくて。けど出張予定の学校に問合せたら先生は来てないって返事があって」

 そんなバカな。

「向こうもそのことでこちらに問合せ様としたけど、ほら、講堂の火災でしょ?連絡が取れなかったの」

「それでダンテさんとクラリッサが直に行って捜されているのですわ」

 講堂の火災があったばかりだからか、なんだか嫌な予感がした。


 研究用のガウン・ワンピースだけじゃ心許なかったけど、保護者達に連絡が行って生徒は保護者に伴われて帰ることになった。父ちゃんと姉ちゃんが服を持って迎えに来てくれて、普段着だけど下着も一通りちゃんとある。

「よくやった!正直父ちゃんお前が誇らしいよ」

「そうよ。聞いた時は吃驚したけど、最後まで人を助ける為に頑張ったんだって」

 手放しで褒められるとむず痒い。

「ダ、ダンテさんも、薬学の先生の助手さんなんだけど、協力してくれたんだよ。私だけじゃダメだったって」

 頭を掻くしか出来る事がない。

「よくやったんだけどなぁ」

 父ちゃんは顔を曇らせた。「よくやった」で済ませられないんだ私の場合は。

「言いたくはないが、獅子人の力を発現させちまったからには、なぁ。可哀想だが覚悟しとかにゃならん」

「解ってる父ちゃん」

 もうその洗礼は受けてるよ。

「帰ろう、私休みたいよ」

「そうだな。三日間休校になるそうだ。捜査もあるからな」

 だけど情けないことに足がガクガクしたままでまともに歩けなかった。乗り物を拾おうにも他の保護者に我先に拾われちゃってて、当分ありつけそうにない。

「うちの馬車にお乗り下さいな」

 方向の違うガブリエラが申し出てくれた。

「しかしお嬢さん…」

「ありがとうございます。有難くお受けします」

 恐縮した父ちゃんが断ろうとしたけど姉ちゃんがすかさず受けた。

「エルヴィラ…」

「お父様、わたくしはネーナに命を救われました。遠慮なさらないでわたくしに送らせて下さいな」

 そう言われたら父ちゃんも断れない。

「正直有難いですお嬢さん」

 父ちゃんに背負われて馬車に向かう間も、驚いたことに相乗りの申し出が引きも切らずあった。

「ありがとうネーナ、心から感謝するわ」

「聞いたよ、うちの倅達が生きてるのはあんたのお陰だ。何かあったら頼ってくれよ」

「娘の命を救ってくれてありがとう。感謝します」

「凄く格好良かった!あの姿一生忘れないわ、ありがとう」

 いやいやいやいや、出来る事しただけだって。みんな口々に感謝してくれるんだけど、ありがとうって言われる度にくすぐったくて、どう返していいんだかホント迷った。

 ガブリエラの馬車に載せてもらってよかった。あんなのずっと続くのかと思うと精神が持たない。

「良かったねぇネーナ。皆さんお前に感謝してくれてたよ」

 冷たい反応を覚悟してたから姉ちゃんだけでなく私も父ちゃんもホッとしてた。

 それにしても眠たくて眠たくて、家まで我慢出来そうにない。

「学校から報せが来てさぞ驚かれたでしょうね」

 ガブリエラが訊いた。

「その前から大騒ぎだったよお嬢さん。ギムナジウムから煙が上がってるって、外で口々に叫んでてな」

 姉ちゃんも頷いた。

「それで外に出てみたら炎も見えてね」

 アマーリエ講堂は大きいから遠くからもよく見えたそうだ。本校舎や研究棟じゃないから、火事だけど全生徒に命の危険が迫ってたとは夢にも思わなかったらしい。怪我人が出なけりゃいいな、と近所の人と井戸端話ししてたんだと。

「だけどギムナジウムの方から騒ぎが段々伝わって来てね。ほら、炎が凄いね、消火魔法掛けてないの、何て話して見物してるうちに講堂が崩れて爆発したじゃない?」

 したね。怖かったよ。

「殿下方の歓迎式の為に全校生徒が講堂に集まってた、っていうのも伝わって来たし。兄ちゃんが取引先からの帰りに寄ってみたけど、見物人や保護者達で一杯だったって」

「兄ちゃんはどうしてる?」

「薬の注文が殺到して、母ちゃんと対応してる」

「じゃあ父ちゃんもいないと」

「急いだって直ぐに出来るもんじゃない。それに冷静に薬を調合出来る気分でもなかったしな」

「心配させてごめん。ありがとう父ちゃん」

「気にするなお前の所為じゃない」

 家に帰り着いた時には心の底からホッとした。

 表には人だかりが出来てるからって裏に馬車をつけてもらって、父ちゃんに背負われた。

 もう眠くて眠くて仕方なかった。

「父ちゃ~ん」

「何だ?」

「大好き~」

「はあ?お前…いきなり」

 父ちゃんが照れてたとこまでは覚えてるんだけど、眠気に逆らえなくて眠りに落ちてしまった。


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