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やだよ



最初に2杯飲んだきり、後は水ばかりにしていたせいだろうか。



思っていたよりも早く酔いが覚め、気が付いてみれば、いつの間にかダンがテーブルの向かい側で酔い潰れていた。



赤い顔でテーブルに突っ伏し、すうすうと寝息を立てている姿は無防備で何だか可愛らしい。



私の方はまだ少しふわふわした気分は残っているけれど、それもきっとすぐに失くなるだろう。



今はただ、彼のこの安らかな寝顔を静かに見ていたい。



「・・・」



そのつもりだった、のに。




「うぅ・・・どうしてこんな事に・・・」



今、私は酔い潰れて眠ってしまったダンを、あろうことか自分が泊まる予定のホテルの部屋に寝かせている。



断言する。

決してふしだらな目的で連れ込んだのではない。



そりゃあ私ももちろんいい大人だし、恋も男女の睦み合いのあれこれも経験済みだけれど。


好きになった男性の寝込みを襲おうなどとは決して考えていないのだ。



「だって、バーの閉店時間になっちゃったんだもの・・・」



眠ってしまったダンを道端に置いてはおけないし、泊まっているところを聞こうにも全然起きてくれないし。



仕方ないから店の人が気を利かせて呼んでくれたタクシーに乗って、私が確保したホテルの部屋へと運び込んだのだ。



一人で勝手に焦って、自分に向かって言い訳にもならない言い訳をぶつぶつと呟いている私をよそに、ダンは気持ちよさそうな寝息を立てていて。



その無防備な寝顔を見ると、まあいいか、という気になってしまうのは惚れた欲目というものか。



「だけど、私は、もうすぐダンとお別れなのよね・・・」



ダンだけが嵌り続けるループのせいで、明日を迎える私の前にダンはいない。



不思議すぎる話。

だけど、それは避けられない現実なのだ。



手を伸ばし、ダンの短く刈った前髪をさらりと梳いてみる。



「ふふ・・・思ってたよりも柔らかいんだ・・・」



今日、初めて会った人なのに。



こんなに懐かしく感じるのは、別の私が彼と出会い続けているせいなのだろうか。



「・・・大好きよ、ダン」



私は、眠っているダンの唇に、そっと自分の唇を重ねた。



「いつか、貴方のループの呪いが解けるといいね・・・」



祈るように、そう呟いて。



それから、色々と悩んだ挙句、同じベッドに潜り込むことにした。



はしたないとは思ったけれど、それでも。



「ソファはちょっと狭そうだし」



そんな言い訳を口にしながら、でも本当は、どこかの時点でいなくなってしまうであろうダンを、せめてそれまでの間だけでも一緒にいたいと、そう思ったから。



だって、今の私はもう二度と、永遠に、この人に会えない。



そう思うと悲しくなるのだ。



好きな人が消えてしまう明日なんて来なければいい、そう思うけど。



容赦なく時間は進むから。



「・・・お伽噺みたいにお姫さまのキスで呪いが解ければ、ダンも明日を迎えられるのにね」



そうだったら、さっきのキスをカウントしてもらえるのに。



「はあ・・・そんな事でこのループから抜け出せたらダンも苦労しないわよね」



そんな条件だったら、きっともっと早くにこのループが終わってる筈。


私以外の人とキスなんて考えたくもないけど、でも私とだってもう何千回と出会ってるんでしょ?



「まさか、まだ一回も私とキスしてないとか・・・? いやいや、ないない。あり得ない。こんなに好きなのに、そんな子どもみたいなお付き合いをずっとしてたなんて」



そうよね?と、隣ですうすうと寝息を立てるダンの顔を覗き込む。



「ふふ、可愛い・・・」



ああ、大好きだなぁ。


この人と、明日にはもう会えないのか。


本当なのかな、どうしてもその未来は変えられないのかな。


ダンがいない世界なんて、もう考えられないのにな。



ダンを抱きしめる腕に力がこもる。



どうか、神さま。


お願いだから、私からこの人を取らないでください。



腕の中で眠るダンの頭に顔を埋めた。



確かに今、ここにいるのに。



明日になったら、彼はきっと。


きっと、ここから。



そう思うだけで、みっともなく涙が溢れて。



やだ。やだよ、離れたくない。



私はその夜、ポロポロと泣きながら、ダンを抱きしめて眠ったのだった。


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