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ちょっとやる事



図々しい願いだと分かっていても、もう少し一緒にいたいという気持ちがあったから。



--- 途中まで一緒に乗っていきませんか? ---



そうロクサーヌから誘われて、飛び上がるほど嬉しかった。


多少の好意は得られたのかなって、そう思えたから。



まあ、断るしかなかったけど。



まだここでやる事があったから。



それもあって、海の近くまで来たんだよな。


結果、見失ったと思っていたロクサーヌを浜辺で見つける事が出来て、そのあまりの偶然に喜んだ。



ちらりと時計を確認する。



・・・あと30分くらいか。



ロイと砂の城を作った砂浜から歩いて5分。



急に水深が深くなる場所がある。


大はしゃぎで母親に砂城を見せているロイを遠目に見ながら、俺はその場所へと移動。



落ちている流木を拾い、鞄の中からロープを取り出しその流木に結ぶ。



もう片方の端を近くの木の幹に結びつければ準備完了だ。



そう。


もう少しすると、夕食の材料にと素潜りで貝を獲りに来ていた少年が、足をつって溺れてしまうのだ。



件の少年は、現在ダンの見ている先で元気に素潜り中である。


ぶくぶくと潜っては浮き上がり、用意したバケツの中に獲ってきた貝をぽいぽいと放り込んでいく。



おお、随分と獲れてるな。


もうそろそろかな?



時計と獲物の獲れ具合でタイミングを見計らっていたダンは、先ほど用意した流木付きロープを手に持ち、その瞬間に向けて準備した。



そしてそれから約3分後。


それまで元気に潜っていた少年の周辺で大きな波しぶきが上がる。


足がつって慌てているのだ。



「これに掴まれ!」



すかさず少年に向かって流木ロープを投げる。



焦ってはいたものの、まだパニックにはなっていなかった少年が流木に掴まったのを確認してから、ダンはゆっくりとロープを引き寄せた。



波打ち際まで引き寄せれば、ミッション完了だ。



「あ、ありがとうございます」


「無事で良かった。何かあったらお母さんが泣くぞ。次に潜る時は気をつけろよ」



そう言ってその場を後にした。



話した言葉は嘘ではない。


実際に、彼のお母さんは大泣きするのだ。

彼が溺れて意識を失っているのを見た時に。



今日も助けられて良かった。



密かに自己満足と達成感を味わいながら、足取りも軽く町の中心地へと戻る。



ロクサーヌはどうしてるだろう。


またどこかでひょっこり会えるだろうか。



--- リセットされた後の私にも、また出会って下さいね ---



そう言われたのを真に受けて、なるべく彼女の近くをウロチョロしてはいるけれど。



この小さな漁師町では、そもそも出会わない方が難しい。


今日みたいに何かの偶然で出会い損ねる事があったとしても、大抵はどこか他の時に彼女の姿を見かける事になる。


今までもずっとそうだった。



「もうホテルには着いてるよな。もしかしたらレストランに行ってるかも」



ロクサーヌに渡したメモには、以前に彼女が気に入っていたレストランの名前を三つほど書いておいた。


どれを選んだとしても、大喜びすることは間違いない。



「今日のうちにもう一回会いたいな」



浜辺で偶然、彼女の姿を目にした時の、あの驚きと喜びを思い出す。



思いがけない出来事に、思わず顔が綻ぶのを自覚した。



大好きな、大好きなロクサーヌ。


この後もまたどこかで会えるだろうか。



今日のうちに、また会えたら嬉しい。


そして、それはさっきみたいに意図せぬ出会いならば、運命のようでなお嬉しいけれど。



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