何気ない風を装って
この後もずっと一緒ーーー。
なぜかそう思っていたから、びっくりした。
大きな通りに出てタクシーを拾った後、ダンがその場に残ったことに。
彼に気安く感じる理由が自分でもよく分からず、何て言葉を返していいのか一瞬迷って。
「そうだ、これ」
そんな私の戸惑いに気づくこともなく、ダンは胸元のポケットから紙片とペンを取り出すと、サラサラと何かを書きつけた。
はい、と渡されたその紙には、レストランとおぼしき名前が三つほど書いてある。
「さっき言ってたおススメのレストラン。よかったら試してみて。すごく美味しいから」
「あ、ありがとう」
紙片を受け取りながら、どうしてか後ろ髪を引かれる思いが否めない。
私は、どうしてこの人のことが気になるんだろう。
どうして、まだ話していたいと思うんだろう。
「・・・あの、途中まで一緒に乗っていきませんか?」
寂しくて、そんな言葉を口にしてみたけれど。
「ありがとう。でも、この後もちょっとやる事があるから」
その返事に、ふと疑問を覚えた。
行きずりの子どもと砂遊びする時間はあるのに?
だけど、流石にそれを口にはしない。
もしかしたら私と一緒にいるのが嫌なのかな。
そう思って、でもその不安はすぐに打ち消した。
彼はそんな人じゃないわ。
まだ会って間もない人だけど、でも彼が優しい人だってことくらい私にも分かるもの。
受け取った紙片をポケットにしまう。
「・・・また会えるといいわね」
そう言って笑うと、ダンは右手を上げ、軽く左右に振った。
私を乗せたタクシーが走り出す。
頭を巡らし、手を振るダンを見つめる。
彼の姿がどんどん小さくなっていく。
どこまでも不思議な人。
初めて会うのに。
その筈なのに。
側にいるのがどこか自然で心地よくて。
自然に右手で胸を抑え、きゅっとシャツを握った。
--- また会えるといいわね ---
やんわりと、何気ない風を装って言ってはみたけれど。
ダン。
もしかして貴方には分かっちゃったかな。
本当に、心から、私がそう思っていることを。
私はそっと目を閉じた。
ダン、本当に。
貴方にまた会えるかな。
会えるといいな。
不思議なほど強く、そう願った。




