猫はかわいいんです。
猫はとても繊細な生き物です。むやみやたらに興奮させることのないようお願いします。
下校中猫を見つけた。猫好きの私だ。構わないわけが無い。
一見すると黒っぽい毛並みだが目を凝らせば深い碧色の透き通る艶やかな光沢がある。種名は分からないが売りに出されれば高値で売買されることが容易に想像できる。
こちらが近づいても猫はなんの警戒もなしにこちらを目詰めるのみ。興味が無いのか、危険かどうか見極めているのかは分からないが近づくのにはありがたい。
ーーーじっとしていてくれよ。
いつの間にか心の中ではそんなことを呟いていた。もう手を伸ばせば触れられる距離だ。そこでひとつ思い出したことがある。それは猫を触る時は上から手を出すのではなく下から手を出さなくてはならないということだ。上から手を出されれば猫であっても私であっても警戒する。なので私は下から手を出した。こちらからはそれ以上手を出さず向こうから来るのをじっと待つ。
数分のようにも感じる静寂。多分数秒だろうけれど十分に長く感じた。しばらくして猫の方から近づいてきた。鼻先を手のひらに当てて匂いを確認している。特に美味しいものはないと思うが…。これは触ってもいいということだと判断し、頭を撫でさせてもらった。柔らかな毛の奥に小さな頭蓋骨を感じる。人間とは違う生命体に妙な儚さを感じる。
顎下を撫でとやればゴロゴロと可愛らしく喉を鳴らした。有頂天に気分のいい私は調子に乗ってお腹も撫でさせてもらった。二、三度撫でると何度か突起状のなにかに指が当たった気がした。よく見れば猫の乳首だ。そう女の子だったのだ。性別は確認していなかったがいきなりレディのお腹を触ったのは失敗したと思った。が猫はさほど嫌がっている感じはしなかった。むしろもっとやれといっといるようにもかんじた。わしゃわしゃわしゃと毛づくろいするかのような手遣いで撫でてやると、やはり気持ちよさそうに目を細め、喉を鳴らした。
しばらく私は猫と戯れていると、ふと自分が今帰宅中であることを思い出した。早く帰らないと母親に叱られてしまう。猫は名残惜しいがそろそろ帰路につかなければならない。猫の頭をもう一度軽くなでながら「またね」と一言添えて私はその場を離れた。後に残ったのは猫のどこか寂しげな鳴き声と私の少しばかりの後悔だけだった。