彼女の夢
夢を見ていた。
私はオーロラを彼と見ていた。
そういえば、彼は常々オーロラを見たいって言っていたけ。
北欧のある地でテントを張って私たちは見ていたのだが、彼は地面を転げまわっていた。
彼は心の底からはしゃいでいた。楽しんでいた。
「すごい、すごい、すごい!!」
そう彼ははしゃいでいた。今まで見たことがないぐらいに。
私は、微笑ましい気持ちでそれを見ていた。
寒さなんて関係ない。
オーロラが私たちを包んでいた。
場面が変わった。
私はこたつで気づけば寝ていたようだ。
隣をみると君が
「起きたんだね」
と言ってココアを置いた。
その優しさに甘えて、私は自分の身を彼の肩に委ねた。彼は何も言わない。
そんな彼が私は大好きだった。
私はちびちびとココアを飲む。
十分ぐらいそうしていると彼は優しい声で言った。
「悪い夢でも見たのかい」
「ううん、とてもいい夢を見ていたの」
「そうか」
と彼は言うとまた黙った。ココアが私を溶かしていく。
ときが止まったようだった。
新緑彩る初夏の陽気がカーテン越しに私たちに伝わった。
また、場面が変わった。
私はまた家にいたが、そこには見知らぬ子犬がいた。
「君が好きそうだったから思わず」
そう彼は言った。
「もうっ」
何してるのよ。でも、そうは言わなかった。
実際その犬は私が買いたかった子犬だったから。
それは、こないだペットショップでみたときに私が指を指して
「かわいい」
と言った子犬だった。
そのときは、でも私たちはお金ないからペット買えないよねと言って諦めたはずだった。
でも、彼は
「今日は君の誕生日だから」
と言った。
彼は、自分の小遣いをいくらか削って買ったんだろう。
体の芯が暖かくなるのを感じた。
そしたら、その子犬が
「わん!」
と鳴いた。
私たちはくすりと笑った。
目を覚ました。
私は一人まだここにいる。
彼はもういない。もうここにはいない。
優しかった彼はもうここには……。
気づけば涙を流していた。
「やっぱ、悪い夢じゃん……」
この彼を感じるこの場所で今日も私は生きていく。
明日も、明後日も……。
「わん!」
何かが鳴いた。
鳴いたもの方に顔を向けた。
犬がいた。
あのときの子犬は大きくなって今や立派な犬になった。
心配そうな目で私を見る。
思わず、私は昔彼の肩を借りたように犬によりかった。
「ごめんね」
ぽつりと言った。
何かを塗りつぶすように犬をそっと撫でる。
そして、また少し泣いた。
窓の外では雪がしんしんと降っていた。今日は積もりそうだ。