EXスキルの代償
「ぐああ‥ぐ‥貴様‥。貴様もモンスターだったのか‥。」
朱莉が目を開けるとそこには両腕をだらんと垂らしたヴォルグがいた。間違いなく折れているだろう。
そして何より驚いたのは、遥の見た目がヴォルグと比べても遜色ないモンスターのような姿だったからだ。身長や体型は変わっていないが牙や尻尾が生えている。
「いいや違う。これは狂狼化だ。俺が持つ唯一のEXスキルだ。制御が難しいから使いたくなかったが‥。」
EXスキルとは俺も自分しか知らないから詳しくはわからない。他のスキルとは一線を画したものであるが代償も大きいと考えられる。
狂狼化は圧倒的な身体能力に加え氷魔法を扱う力を手に入れることができるが、代償として力を使用した分だけ殺人衝動が起こるというものだ。そして、一度発動してしまえば解除をすることはできない。このスキルを手にした時は制御できず暴れたが、灰さんがスキルを封印してくれていたのだ。
「‥もうなんでもいい。ぶっ殺してやる!」
ヴォルグがさっきより一段と早い速さで向かってくる。
「‥遅い。」
最小限の動きでヴォルグの攻撃をかわし、指先で触れる。これは魔法でもなんでもない。触れた対象を凍てつかせる狂気狼化の能力だ。相手のレベルによって効き目は違うのだが、この程度の相手では完全に凍るようだ。
パキィン!
すると一瞬にしてヴォルグが氷漬けになり、向かってきた勢いでそのまま倒れ砕けちる。
一瞬の出来事に朱莉は呆然としていることしかできなかったが、やっと気がつき。
「無色さん!やりましたね!怪我は‥」
と言いながら俺に歩み寄ろうとする。
「くるな‥!早く俺から離れろ‥!支部へ戻れ!」
「‥え、どうかしたんですか!」
「もう制御できそうにない‥!このままじゃ君を殺してしまう‥。早く離れろ‥!」
「‥そんな。でも‥私!」
「‥こうなってしまっては俺はもう戻れない‥。支部に戻って部隊を連れてこい。俺を討伐するよう伝えるんだ。」
「嫌です!こんなところでお別れだなんて絶対嫌です!私が助けます!」
そう言いながら朱莉ちゃんは、うずくまる俺を抱きしめる。
「やめろ!俺から‥。」
すると朱莉ちゃんから火の鳥が現れ俺と朱莉ちゃんを包み込む。少しも熱くない温かく優しい火だ。
すると不思議と殺人衝動は収まり、牙も尻尾も元に戻っていく。
「‥なにが起こってるんだ?」
俺は自分になにが起こったのか全くわからなかった。
「‥よかったです。無色さんが‥。」
朱莉ちゃんはそう言うと意識は失ってしまったようだ。
朱莉ちゃんが何かしたのは間違いないが狂狼化を解くなんてスキル聞いたことがない。しかもステータスは狂狼化した時のままだ。とにかく今は特効薬を回収して安全なところに朱莉ちゃんを連れていかないと‥。
俺は朱莉ちゃんを抱えて、ここ数日寝泊まりしていた廃墟へ向かう。
「‥ここは‥?」
目を覚ました朱莉は自分が今ベッドで寝ていたことを確認し周りを見渡すと、ベッドのそばの椅子に座ったまま寝ている遥がいた。眠っている遥を見ると安心した。
なんでこの人のことがこんなに心配なんだろう。そばにいるとどうしてこんなに安心するのだろう。と自分でも訳がわからないことを考えながら、遥を見る。
「ん、起きたか。体は大丈夫か?」
いきなり遥が起きて遥を見ていた朱莉と目が合う。
「え、えーと。はい!大丈夫です!」
「そうか。ならよかった。朱莉ちゃんのおかげで俺は暴走せずに済んだ。本当にありがとう。」
本当に朱莉ちゃんがいなかったらどうなっていたかわからない。
「いえ!無色さんが無事でよかったです!」
「目覚めてすぐで申し訳ないが、特効薬を届けにいきたい。大丈夫そうか?」
「はい!大丈夫です。」
「よし、じゃあ支部へ向かおう。よいしよっと。」
「え、どうして私を抱えるんですか!?」
「まだ走るのはきついだろ。それに抱えて走った方が早いだろうし。じゃあいこう。」
「は、はい‥。」
恥ずかしそうにしているがこれが1番走りやすいんだ。少し我慢してくれ。
なるべく朱莉ちゃんに振動が伝わらないように気をつけて走りながら青の支部へ向かう。