病院に巣食う狼
「ハァハァ、さすがにこの数はきついな‥。」
病院に入った俺は既に40体以上モンスターを倒している。いくらレベル10前後の雑魚モンスターばかりとはいえ、こうも連戦では体がもたない。
聞いた話によると特効薬は最上階の奥の保管庫にあるらしい。よりによって1番面倒なところに‥。と愚痴を言いたくなるが、俺がやらなきゃ死んでしまう人がいるんだ。やるしかない。
今1番大切なのは特効薬を早く手に入れることだ。モンスターを無視して加速で一気に切り抜ける方がいいな。
「はぁ!」
俺は加速を使いつつモンスターを最低限倒して進んでいく。
やたら狼系のモンスターが多いな‥。それに明らかにこの辺りのモンスターのレベルを超えている。
ついに最上階の一階下についたが、加速を使用し続けたため魔力があまり残っていない。魔力は時間が経てばで回復するため少し隠れて回復をはかろうとしたその時。
「!?」
誰もいないはずの病室に潜んでいたのに今までに感じたことないほどの不気味な気配を感じる。
「‥居場所がばれている?」
だが、ばれていようが関係ない。いくら強いモンスターがいようと特効薬さえ回収できればいいのだ。病院に潜んでいる時点で大型である可能性はないと考えていい。大型でないなら倒せなくとも回収できる自信はある。
勝てなくていい。目的を果たすんだ。
昔、先輩達から教わったことを思い出す。
「‥いくぞ」
一気に階段を上がり辺りを見渡す。だが‥。
「‥モンスターがいないだと?」
少し驚いたが、いないならこのまま進むだけだ。
1番奥の扉の前についた。扉の向こうに先ほど感じた不気味な気配が漂っている。開けるとそこには1人の男が座っていた。
「まさかここまでくる人間がいようとは。俺の名は、ヴォルグ」
「‥どうしてこんなところにいる?」
「おいおい、思ってもないこと聞くなよ。薄々気付いてるんだろ?俺が"モンスター"だって。それをわかった上で聞いてるなら、この辺の弱いモンスターを狩にくる弱い人間を食べるためだ。」
「人間を食っていいことでもあるのか?腹が空いてるなら共食いでもしてりゃいいだろ。」
「ははっ。教えてやる義理はねえが俺にびびらねえやつは初めて見た。面白えから教えてやる。人間がモンスターを倒せばレベルが上がるようにモンスターも人間を殺せばレベルがあがるのさ。」
「!?‥なら食べるのはなぜだ?」
「人間の肉は美味えってのもあるが、1番の理由は大量に人間を食うと人型になれるのさ。人型になれりゃ、ただのモンスターと違ってステータスを伸ばすことごできる。」
「なんだと‥。」
「もう話は終わりだ。さあ、もう始めようぜ!」
そう言うとだんだん男の体が膨れ上がり狼のような尻尾が生え牙も鋭くなっていく。
だが、こいつの準備が整うのを待ってやる必要はない。特効薬を確認した俺は最大の加速で回収に向かう。
「待てよ」
「!?」
ヴォルグはあろうことか最大加速を使っている俺の腕を掴んだのである。
「速いな。動きも状況判断も今までの人間じゃお前が1番だ。だが、遅い。」
腕を振り払い距離をとる。
「ざっと速さは90くらいか?人間にしちゃ速い方か。お前は俺と同じ速さで翻弄する戦闘スタイルだろ?かかってこいよ。」
おそらく今までのモンスターの中でもダントツで強い上に賢いだろう。人間の言葉を理解し話すとは。その上、ステータスのことも理解している。人間を食うと知能も上がるのか?
だが、俺はこの2年間強くなるためだけに生きてきたんだ。中でも速さ勝負の戦闘は俺が最も得意とするところ。絶対に負けない‥!
「いくぞ!!」
「いいぜ。ぶっ殺してやるよ!」
ガキィン!
俺の加速を使いながらの小刀での連続攻撃をヴォルグは余裕そうに爪で受け止める。
チュイン!
不意を突きスキルサンダーバレットを指先から放つが、ことごとく避けられる。
サンダーバレットとは発動までの時間が短く、連射性能の高い雷を纏った球のようなスキルである。朱莉のファイアアローに速さで負けたが、あれは朱莉とファイアアローの相性が良すぎるだけだ。
‥くそっ!さっきから傷を負っているのは俺だけだ。ヴォルグの拳の突きの速さについていけず、かすりながら回避するので精一杯だ。
「俺のレベルは45だ。速さも120を超えている。お前とは格が違うんだよぉ!」
‥やりづらい。人と戦うのともモンスターと戦うのとも違う。だが、ステータスの差は頭脳で補うだけだ。
チュイン!
サンダーバレットを放つ。ヴォルグは最低限の動きで避けようとする。だが、それは予想通りだ。
ヴォルグを通り過ぎる直前にサンダーバレットが分散したのだ。分散したスパークがヴォルグに伝わる。
「グァッ!?」
ヴォルグがモンスターらしいうめき声をあげる。スパークをくらったヴォルグは痺れている。数秒しかもたないだろうが十分だ。
「はぁ!」
ブスッ!
ヴォルグの胸に小刀を突き刺す。
「ガハッ‥。この‥雑魚が‥。」
このまま押し切る!
俺は小刀を構え突っ込もうとする。
「スキル肉体強化‥!」
ヴォルグの筋肉が盛り上がり、傷口から出ていた血が止まる。
「‥決めた。お前はなぶり殺しだ!」
ヴォルグが一瞬で俺との距離を詰める。
「なっ!?」
「オラァ!」
ヴォルグの蹴りが直撃し、俺は壁まで吹き飛ぶ。
「‥ごふっ。」
肋骨が数本折れたな‥。
「うーん。お前との殺し合いも悪くねえが、なんか女がこっちに向かってるようだし終わらせるぜ。人間の女の体は好物なんだ。」
‥人間の女?
まさか‥!だが、いるはずない‥。
足音が近づいてくる‥。くるな‥。
バタン!扉を開く音が響き渡る。
「無色さん!大丈夫ですか!?」
最悪の予想が当たってしまった。どうしてこんなところに‥。
「お〜。かわいいじゃん。ちょっと幼いけど全然許容範囲だ。」
俺の頭を鷲掴みにし壁に叩きつけ朱莉ちゃんのもとへ向かうヴォルグ。
「無色さん!!!」
自分がもう殺されるかもしれないっていうのにまた俺の心配をしているのか‥。
「お前はすぐには殺さねえよ。たっぷり愛でてから殺してやるから安心しろ!」
ヴォルグは今にも朱莉ちゃんに襲いかかろうとしている。
‥迷っている暇はない。灰さんが託してくれたものを絶対守るんだ‥!
「強制封印解除」
力を貸してくれ。フェンリル。
「!?」
ヴォルグが何かを察知し腕でガードする体勢にはいる。
ボギィ!と鈍い音が鳴った。
「‥え?」
今にも襲われそうだった朱莉が目を開けると信じられないことが起こっていた。