2人になった色なし
悲鳴を聞いて俺と朱莉ちゃんはすぐに悲鳴が聞こえた場所へ向かおうとするが、一刻を争う事態だ。普通に走るのでは間に合わない。
「朱莉ちゃん、ちょっとごめんね。」
「え、なんです‥きゃっ!?」
俺は朱莉ちゃんを抱え、スキル加速を発動させる。加速とは通常の速さとは比にならない速さを実現するスキルだ。速さは熟練度レベルによって異なる。熟練度レベルとは、使用するごとにあがるらしいが全然上がらないのが現実だ。
するとソニックウルフの群れに襲われている夫婦?らしき2人組を見つけた。
「くそ!なんで俺にはスキルがないんだ!妻さえ守れないなんて‥。」
スキルのこともよく知らないらしい。スキルはゲームのように元からあるものではない。それより、どうしてこんな素人が色の管轄内からでてきてるんだ?
それより、ソニックウルフ‥適性レベル11のモンスターがどうしてこんなところに?この辺りのボスの適性レベル20のレッドリザード以外は10にも満たないはずなのだが‥。だが、今はそれどころじゃない。
「朱莉ちゃん!今のレベルは?できれば教えてほしい」
「無色さんにならなんでも話します!レベルは11です!」
11か。予想よりはるかに高いな‥。どの色でも幹部になれるだろう。だが、1対1ならともかく群れで行動するソニックウルフの相手は少し厳しいな。この世界において適性レベルなんてあてにならないし正直、モンスターと戦うにあたって適性レベル+5は欲しいところだ。
「朱莉ちゃんは囲まれてる2人の保護を頼む、モンスターの相手は俺がする」
「え、5匹いますよ!?ここは戦わない方法を‥って無色さん!」
朱莉ちゃんが何か言ってた気がするが、ここはモンスターの討伐に集中する。
加速を使い、腰に携えた小刀を抜き構え最大加速で一気に接近する。一番近くのソニックウルフが気づいたようだがもう遅い。首の部分を小刀できりつけ首が飛ばす。他のウルフ達の注意が俺に向く。
だがそれでいい、俺は囲まれてる2人からウルフを引き離すよう少し距離を取りウルフを誘導する。
しかし、1匹のウルフが俺を無視し2人の方へ向かっていく。使用魔力が多いから使いたくなかったがやむを得ない。
「サンダー‥」
「ファイアアロー!」
ヒュン!
俺の横を火の矢が目で追えない速さで通り過ぎる。そして2人に襲いかかろうとしてるウルフの頭を貫く。そのままウルフは生き絶えたようだ。
「!?」
後ろを振り返るとスキルを発動した朱莉ちゃんがいた。
俺も驚いてしまったが他のウルフも驚いてる隙に一気にウルフ達を屠っていく。
「ふぅ、終わったか。」
「無色さん!怪我はしてませんか?」
この子スキルを持っているのか‥。それも結構強力なスキルだ。1人で生き抜いてこれたのも納得だ。これだけの実力があればここらへんのモンスターに遅れを取ることはそうないはずだ。
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう。」
心配されるのは灰さんと暮らしてた時以来だな。灰さんもこうして心配してくれたのを思い出す。
「あの‥助けてくださり本当にありがとうございます!」
そう言いながら男は深々と頭を下げる。それに続くように妻らしき女性も頭を下げる。
「気にしなくていい、たまたま居合わせただけだ。そんなことよりどうしてこんなところにいる?」
改めて2人を見ると、ろくな装備もしていないしモンスターと戦うには危なすぎる格好だ。
「娘が病気で苦しんでいるんです。その病気はここの近くにある病院にしか特効薬がないらしく‥。病院は完全にモンスターに占領されていて、支部に伝えても1人のためにまわす人員はないとのことで私たち2人で‥。」
泣きそうになりながら話す女性の話を聞くと娘さんはもう長く持たないのだろう。そこで命がけで回収にきたというわけか。よく見ると2人とも青のバンダナを身につけている。青か‥。まあどの色も人員不足な今確かに1人のために組織で動いたりはしないだろうな。
「力になりたいですが‥病院に入るのは危なすぎます‥。」
朱莉ちゃんも辛そうな顔をしている。彼女の言う通りこの世界で病院などの大きな建物はモンスターの巣窟となっている。
だが‥。
「俺が1人で取ってこよう、お前達は青の支部で少し待っていろ。」
今までろくに人のために行動してこなかったんだ。ここで少しくらい人のために行動するべきだろう。それに人の生死がかかってるとなれば協力する他ない。
「‥え、本当ですか!?ですがいくらあなたが強くても1人でなんて危なすぎる!俺もいきます!」
「1人の方がまだ安全だ。お前が死んでしまっては娘が治った時悲しむぞ。」
「‥。」
しばらく悩んだようだが‥。
「そうですね‥わかりました。本当に感謝します。」
「助けてくださった上に娘のことまで‥あなたのような人に会えてよかった‥。」
2人が感謝を伝えてくれる。やはり、感謝されるのは嬉しいもんだな。全力で応えなくてはと考えていると‥。
「私は反対です!無謀です!」
朱莉ちゃんが俺の服の裾を握る。
出会ったばかりなのに心配してくれるなんて優しい子だな‥だけど。
「大丈夫だ。俺はこの2年間ずっと1人で生き抜いてきたわけだし、今回だって無事にやり遂げるさ。」
「だけど‥!無色さんが死んじゃったら‥。」
思わず涙ぐむ朱莉ちゃんを見て俺は気がつけば俺は彼女に抱きついていた。
「大丈夫、もう君を1人にはしない。君が俺を必要としてくれるならずっとそばにいる。だから信じてくれないか?」
「‥わかりました‥。しん‥ます。」
「ん?まあとにかくいってくる。2人を支部まで届けて朱莉ちゃんも待機しててくれ。朱莉ちゃんの実力なら大丈夫だ。」
俺は病院へ向けて走り出す。すると後ろから。
「信じてますから!」
振り返ると、涙を堪えて笑顔で手を振っている朱莉ちゃんがいた。
どうして抱きつくなんてことをしてしまったのだろうか?あの時は無意識でしてしまったが、抱きついたことも言ったことも恥ずかしいな‥。まあいい、今は集中するんだ。
「‥すぐに終わらせてやる。」
集中しようとしても考えてしまう朱莉ちゃんのことを振り払うように魔力の消費も考えず最大の加速で病院へ向かった。