6.Listen(吸収) Pt.3
翌日、俺は目覚まし時計で目覚めた。
普通に音よりも起きやすかった。
俺は一度寝たら、タイミングよく眠りが浅い時以外は起きれないのだ。
俺には生前の修学旅行で、先生に水かけられても起きなかったという伝説がある。
それぐらい酷いので、前世の目覚まし時計は全く無意味だった。
しかし、それを解決してくれるこの時計は凄いと思った。
俺は彼の住んでる家に泊めさせてもらっていた。
オッドの一家はどうやら有名な一家らしく、空きの部屋がいっぱいあるそうだ。
俺はその家に雑魚寝(?)させてもらった。
「ふあー、眠い。」
寝たのは30分ぐらいか。まあ仕方ない。
むしろ異世界で同じ趣味を持つのにこれくらいの疲れで済むんだったら安いもん、なのかな。
部屋に誰か入ってきた。
オッドだった。
彼も寝不足の様だ。
「おはようー」
「おっす。」
「と、そういえば学校問題があるのか。」
「あ、そうだね。どうするんだろ。」
「大丈夫。こっちで全部手を回しといた。」
「うわぁ、優秀。」
「それよりもいう事あるやろ。」
「あぁ、ありがとう!」
オッドが溜息をつく。
しかしながら凄くタフだな、彼は。
俺だったら既にキャパオーバーだ。
「そういえばオッドの家族ってなんでそんな有名なの?」
「あー、これいっていいのかな。」
「まあいいっていいって、俺口堅いから。」
「えー」
「音楽教えてやったろ?」
「しゃあないなあ。」
よし、勝った。
こういう交渉ごとは意外にも得意なのだ。
「よしゃ」
「あー、まず俺の一家のことプロフェットっていうのは知ってるよね?」
「うん。」
「何故プロフェットかわかる?」
「プロフェットってどいう意味?」
「どうやら古代α式文字で“預言者”って意味なんだ。」
「へー、それで?」
「何故預言者の意味がつくプロフェットが一家の苗字になってるかわかる?」
「え、しらんてw」
なんでこいつ今にやけたんだろうか。
あ、これがお得意モードか。
オタクっぽさが、全開だ。
改めて思う。
「実は僕らの遠い祖先にある能力みたいなのがあってね、それが知能指数、身体能力と言ったスペックが全体的に高いんだ。」
「何故にそうわかった?」
「趣味の研究で、興味あったし。」
「まあ趣味でそこまでできるんだから相当な頭なのは確かだね。」
「まあ、でも実際はあんま使えない。月に1度、一時的に1日後の未来が見えるってやつ。」
「へー。いいやん!」
「月一ですべての感覚が現実と混ざるカオス。死ぬほどつらいけど味わいたいかい?」
「え、いや、やっぱいいです」
「はあ。そういえば、魔法使える?」
あ、そういえば。
確かこの世界には魔法があるようだ。
「わからない、魔力がどうなってるかわからないし…」
「じゃあ、測ろう。」
「お、おう。」
「ちょい待ってて。」
彼は転移みたいな魔法を使った。
触れている物自体を転移させる魔法はマイロの記憶でちらっと見た事がある。
しかし、別の場所から引き寄せる型の転移は初めて見た。
「おー、すっげ〜!」
「流石に君だって原理を理解すればこれくらいの芸当はできるよ。」
素っ気なくオッドは言った。
そして彼が手に持っていたのは、魔力測定器である。
見るのは2度目だ。
握力計みたいな形をしている。
「えっと、こうだっよね。」
俺は握力計のグリップを握ってそう言った。
「ちょいと待って。」
オッドはコードを持ってきて、魔力測定器の真ん中の穴にさす。
もしも魔力が魔力測定器で測れない程の量の場合、魔力測定器は小爆発を起こす。
それが引火して火事になったり、散らばった破片で怪我する可能性がある。
それを防止する為と、測定器で測れない量をコードの先にある、魔力操作装置で測れるのだ。
この装置、限界になっても絶対に壊れない仕組みになっていてさらに魔力調査装置が大体の魔力量を予測してくれるそうだ。
終いには属性がわかるという優れもの。
オッドがそう説明した。
「はぇーすっげ。」
「君驚きすぎ。」
「いや、こんなん見せられたら誰だっていうでしょ」
「君の前の人はそんな事で驚かないんだけどなあ。」
「あ、そういえば」
俺はマイロのことで質問があるんだった。
俺が目覚めた瞬間彼女がいて、何か口で言おうとしていた事。
そして俺が今世の転生をした時、何か入れ代わった感じがした事。
まあ、魔力測定終わったら聞くことにしよう。
「…やっぱ、なんでもない」
「おい。」
「悪りぃね」
「じゃあ、始めるか。」
俺はマイロの時の記憶を思い出して魔力を手からグリップに送る。
徐々に上げてく感じで、ゆっくりと。
4秒で既に魔力測定器が限界になって、魔力調査装置に魔力が送りこまれて来ている様だった。
10秒経つとなんと装置からも魔力が限界値に達したというアラームが鳴った。
ぐう、そろそろ俺も限界かな。
俺は送ってた魔力を切った。
「はあ、はあ、、きつ。」
「…おまえは何者なんだ、この魔力量ってグレイ族の1000倍ぐらいだぞ…」
「へ?誰だっけそれ。」
「あれ、マイロの時に話さなかったっけ。」
あれ、ってあった。思い出した。
しかしどうしてこうにもマイロの時の記憶は思い出しにくいんだ。
「思い出した、ってかまじかそれってヤバいやん!」
「うん、もうそろそろ僕も頭が現実に追いつかなくて限界何だが。」
グレイ族…最近世の中に台頭してきたアルビノ人種の一族である。
その力はプロフェット族に比べて、少し強い。必筆すべきなのは自然治癒力である。
彼らは部位欠損もすぐ治る、チート級の治癒力を持っているのである。
これが凄いのが、大きい病気まで治せる事だ。
普通、大きい病気は治癒力だけで治すのは不可能だ。怪我を治すのと病気の治すのとは訳が違う。
しかし知力だけはプロフェット族は圧倒的に強い。故にオッド族はある意味最強なのである。
これがグレイ族である。
その種族の単体での魔力量は、エネルギーに換算すると核の10分の1である。
なんとこの世界におっかない武器は存在しない様だが、とてつもない魔法は存在する様だった。
「そういえば君魔力が何か説明できる?」
「?マイロの記憶の中だとこの世界に干渉できる謎の力、としか捉えてなかったけど。」
「今、謎を解明した気がする。魔力ってなんなのか。」
なんやこいつ、さっきから頭いい。
人が体力測定しただけでこの世の謎を解く。
言葉が出ない。
「っ………」
「…?」
「おまえ、何者だよ。」
「さっき僕が言ったセリフだね。」
「そうだよ、」
「まあ、それより説明を……」
「あ、そうだな」
彼は、まず次元について説明した。
次元の上昇、その条件。
そして、魂で感覚を保持したままの俺がこの世界により来た事により次元上昇の可能性が出来た事。
そして、今俺たちがすべき事。
「なるほど。要は俺が誰か会うと生物の感覚の増加が可能であると。」
「そういう事。まあ、あくまでも推測だけどね。」
「それ以外に考えられる可能性は?」
「うーむ、感覚を手に入れた人が会えばいいだけかもしれないというのと、もしかしたら魔力量によるのかなあと。」
「まあ、今はどう俺がこの世界に生きていけばいいかなんだよね。」
「まあ、ここもまた一族の意地見せたるで!」
うわぁおナイスガイ。ハンサムジェントルマン。
女子がイケメンに恋に堕ちる時ってこんな感覚なんだと思った。
「まじか!ありがとうな、ほんまに」
「いいって事!」
「あ、あぶね。マイロについて聞きたいことがあるんだけど、」
途端に彼がものすごく驚いた顔をした。
「…聞こう。」
うわぁ、いきなり真面目になった。研究者の目だ。
想像以上に食いついた。まあいいっか。
俺が目覚めた瞬間彼女がいて、何か口で言っていた事。
そして俺が現世へ転生した時、何か入れ代わった感じがした事。
マイロの記憶が前世の記憶よりも若干思い出しにくい事。
俺が喋った後の彼の顔は、泣きそうになってた。
なんて反応したらいいかわからない。
彼の心が落ち着くまで待つか。
「…………」
「…んで、どう思う?」
「統矢くん、マイロはまだ生きてる可能性が高いと思う。」
「…へ?マジ?」
なんとなく予感はしてたが、まじか。
なんか凄い嬉しい。
また会えるのかな。
「うん」
「何故?」
「まあ、マイロの記憶が思いだしにくい。これが一番に引っかかった。
重要な記憶って魂に繋がれてるっていうでしょ?それ以外は忘却されるんだ。
実は記憶の忘却には2種類ある。一つは魂の消失。もう一つは魂による干渉。」
「え、じゃあなんで人間そんなに忘れるの?」
「まあ単純に言えば記憶っていうのはなくなる訳じゃなくて、見つけにくくなるだけなんだよ。要は魂が消えない限り記憶はなくならない、しかし見つけにくくなっていくため次第にみつけられなくなるんだ。」
「うーむ、なんかちょっとよくわからない。」
「例えるとクレーターみたいな感じかな。クレーターって風化していって見えなくなるじゃん?」
「うん、ちょっと理解できた。」
「まあ厳密に言えば違うけどね。」
「なるほど…?でも、それとどう繋がるの?」
「大事なのは、2つ目の魂による干渉、これだ。おそらく、記憶があるのはおかしくはない。
何故ならこの世界だけの空間なら物理的に記憶保持が成り立つから事ができるからね。」
「うん、まあ理解はできる。」
「しかしだ。これに魂の干渉が入ってくるとそうはいかない可能性がある。
魂で直接魂は食えないからね。ちなみに魂は呪いや悪魔との交渉がなければ食えない。
これも僕の研究した結果だぜ! 」
…こういう所俺の心に似てる気がする。
ナルシ、カッコつけ、イキり、心の中での話だが。
「まあ、つまりは君の証言を元に考えてみると、君の中にもう一つの魂があると考えると辻褄があう訳。」
「なるほど、とりあえずポジティブに考えた方が良さそうだね。」
「うん、どちらにしろね。」
俺たちはこの日から、魂の研究をより加速させる事を決めた。
マイロを救うために。
そして、彼が初めて学校をサボった一日は、夜を迎えた。
魔法がどういうものなのか、結局聞けなかった。
今はマイロ用の個室にお邪魔している。
プロフェット族、神かよ。
「明日はどうしよう。」
「君の戸籍表とか色々登録したし、大丈夫だよ。明日から君は違う人として生きるんだ、戸籍上はね。」
「そうだけど、マイロは?」
「なんとか、とりあえず行方不明という事になった。」
「うん、なるほど…。」
「それより姉を、紹介しよう。」
オッドはそういうと自分の隣の机からこの家の設計図らしき図面(?)を取り出し、指をさした。
10分後、綺麗なオネーサンが来た。
隣から「うぽっ」って聞こえた。確実に。
大人っぽいしスタイルもいい。けどやっぱマイロは譲れない!
俺はマイロ一途なのである。
「初めまして?まあ、私はディープって言います。」
「いっとくけど、統矢くんはディープのこと知ってるよ。」
「いいじゃないの。気持ちだけでも!」
こいつ、シスコンってやつかな。
いや、まだ確定ではないが。
「あ、初めまして、統矢っていいます。よろしくです。」
「あら、敬語。ちょっとお姉さん嬉しい。」
あれ、やっぱオッドが敬語苦手なだけか。
ん?待った、何かおかしい。
「ってか、おまえら何故気づいてないんだ。」
「ああ、俺もおまえが言いたい事はわかるぞ。オッドくん。」
「え?私?あ…」
どうやら気づいた様だ。
彼女は話していた、まるでいつも通りの様に。
そう、口でだ。
意味がわからない。
「うわあ、すごい!私口から喋ってる!」
ディープもかなり驚いている様だ。
「ってか、どういう事だよ。」
「知らないうちにみんな使い始めてるんじゃ…」
「それはなさそうね。」
「え?なんで?」
「単純に混乱が起きてないんだよ。まあただの予想だけど。」
「そうなると可能性が絞られてきたね。」
「冴えてるじゃないか統矢!」
「あ、ああ。まあね。」
インキャの秘技、作り笑いをぶちかます。
「考えられる可能性が、感覚を知っている人間が口で喋るのをほかの感覚で感知すると、できるってことなのかな。」
「やはりまだわからないな。少し実験をしてみよう」
「でも明日は学校なんだよなぁ。」
「あ、そっか…でも大丈夫!自動実験機を使えばなんとかなる!」
うわぁ、もういう事ないなこれは。
「なんかヤバいね、君が仲間でよかった。」
「いや、そうでもない。種族闘争は大変なんだよ?」
「え、そんなのあるの。」
「うん、人が死ぬとかは一度もないけどとりあえずあるよ。表沙汰には出ないけどね」
「まじか。」
意外にもこの世界の生物達は純粋だ。
確かに、マイロの記憶の中でもかなり平和な感じだったなあと、納得した。
前世の世界は、汚れすぎてるのかな。
うっ、
頭が回らなくなってきた。
その様子を察してディープが話しかけて今日はお疲れ、あしたは学校だからお休み。と言ってくれた。
わあ、姉弟そろって完璧だなぁ。
とりあえず、マイロが住んでいたというオッドの近くの別荘で止まることにした。
いい匂いがする家にあったパジャマに着替えて、いい匂いがするベッドで寝転がった。
そして、ここから俺の周りがうるさいスローライフ(?)が始まろうとしていた。
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EP 1 End.....
Thank U