5.Listen(吸収) Pt.2
さっきからガバガバじゃないか!
なんなんだ、こんなん信じられるか!
自分がさっきまで美女だったなんて信じられるか!
しかもなんなんだ、みんな音楽知らないじゃんか!
まあむしろ俺はそっちの方が信じられないけど。
いや、確かに記憶に音に関する記憶が一切なかったけど、本当にそうなのか!
もうわかんなくなってきた。
音楽がみんなわからないのは結構ショックだった。
さらに記憶を辿ると、これはこれは。
盛大に耳の意味がないじゃないか!
どうやらこの世界では、聴覚がない世界なのかな?
でも代わりにテレパシーを使えるって感じか。
人間の五感。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚。
これが前世の世界の五感だったが、どうやらこの世界の五感は、
視覚、思念覚、触覚、嗅覚、味覚。
俺が前世の世界で培った、魂に刻まれてる感覚っていうのが、
この世界にないはずの感覚、聴覚って事か。
でもなんでオッドは喋れてるのかな。
彼にもその感覚を理解できたという事かな。
記憶のアップデートで色々な事がわかってきたな。
そういえば、さっきの美女は俺だったのか。
って、ええぇええ?!
マジで?俺が俺に一目惚れってこと?!
まてよ、セーフだセーフ!
さっきの美人は俺の中にいる別人だ。だからセーフ。
そうだ落ち着け、俺。
ん、まてよなんでそんな断言できるのだろう?
根拠のないはずなのになぜかそんな気がした。
確かにすり替わった瞬間はあった様だった、断言もできないしな。
そう言えば、そもそも依り代ならあんな表情はしない筈である。
感情は全て魂の中にしかないのだから。
まあいいや。
あとでオッドに聞こう。
「おまたせぃ!」
オッドがなんか持ってる。
ボタンたいのがいっぱいついてる腕時計みたいなやつだ。
「思考プロジェクター。これを使うと、イメージを共有できるんだ。例えば、言葉とかでは伝えられない内容とか、会話が出来ない状態の場合の時とかに使えるやつなんだ。より具体的にね。」
「おー!すげえ」
「そうかい?たしかに前世にはなかった技術だからね。必要なかったし。」
「ってか、オッドってどういう世界から転生したの?」
「うーむ、いまいちわからない。でも酷いのは確かだった。知ってるのは親父の顔とお酒の事と如何に殴られた時の衝撃を抑えるぐらいかな。」
「おい、今のでちょっと予想ついたけどまじかよ」
「ちなみに死んだのは確か10歳の誕生日の3日前だったよ。」
「うわぁ、悲しい。お気の毒に。」
「まあ、仕方ないよ。だから現世でこうなるように…」
「それはきいたので大丈夫です。」
「はあ、そうだった。」
思い出した様に溜息をつくオッド。
何処か憂鬱そうな顔をしてる。
「まあ、いいや。それよりこれを使って音楽を説明してもらいたい。」
「わかった。けど、どうやって使うんだ?」
「ああ、そう言えばこれは国家機密レベルの代物だ。だから決して誰にも喋らない様に。」
ああ、だからか。
マイロが見た記憶がない訳だ。
ってかもう俺下の名前で言ってる。
本当に一目惚れってこわいな。
「わかった。から説明を、」
「ごめんごめんw、じゃあこれをはめて。」
「腕時計みたいに?」
「うん。」
「つけたど。」
「じゃあ、真ん中にある小さいボタンを押してみて。」
押した瞬間、目の前が真っ暗になった。
そして目の前には、オッドがいた。
「うまくいったっぽいな。」
「そうみたいだったね。」
「よし、じゃあ説明してみてくれ。」
いいよ、説明してやろうじゃねえか。
音楽とはどういうものか。
俺は得意げモードに入る。
「さあ、まずは。音楽といえば、ピアノ!」
そうして、ピアノの姿が映る。
始まりの音がオッドに衝撃を与える。
ピアノの旋律が美しく響き渡る。
交響曲第5番、[運命]。
その扉は運命によって、今開かれた。
オッドは目をキラキラさせていた。
こんな感覚はおそらく初めてなんだろう。
「凄いだろ?」
「うん!凄い!」
「じゃあこっちは?」
オーケストラが突如入ってきた。
オッドは子供のような表情でオーケストラを見つめている。
「おおぉ!優雅だ!美しい!」
「まだまだこんなもんじゃないぞ!」
オーケストラがふっと音とともに消え去り、ギターリストがいた。
……
ギターがなった。
アコースティックだ。
悲しい様な響きと弦の弾く音が、表情を創り出す。
ベートーベン、 [エリーゼのために]
である。
自分だけが [ Fur Elise ]とお洒落によんでいたのは、内緒である。
オッドは完全に音楽に魅入られていた。
これほど素晴らしいものがあったのかと、涙を流しそうになっている。
そして、後ろから金属のような音が聞こえ振り返る。
今度はエレキギターの音である。
周りにはもう一つエレキギター、ドラム、ベースがある。
がめつい歪みがかかった音に耳を抑えるオッド。
しかし、すぐに慣れたようで手を緩め、奏でる旋律に心を震わせる。
そして、四つリズミカルなハイハットが入る。
そしてトムがなり、ギターが入る。
クラッシュの音を合図に入る、その他のパート。
ロックだ。クラシックがロックになったのだ。
オッドは顔が発狂してた。
それぐらいやばかったのだ。
そして、ギターのアドリブが入ってくる。
これが快楽中枢を刺激する。
急に演奏が止んだ、次の瞬間。
ベースの図太い音が入る。
2小節した後、ドラムが入る。
先程とは違うドラムだった。
すると、ヴォーカルが出てきた。
そしてこの曲は、
Queen - Another One Bites To Dust
あの伝説のバンドから生まれた、シンプルでカッコいい曲。
やはりバンド音楽は古き良き時代が一番だと、何故か思った。
そしてトムは怪しげに嗤う。
めちゃくちゃお気に召してるようだ。
そして、ちびっこが乱入してきた。
黒人の子だった。
しかし誰かはすぐにわかった。
こんなゴージャスで、最高な服を着る天才少年は、一人しかいない。
Michael Jackson - ABC 。
フレーズが癖になる。
子供が歌ったというのが信じられないほどだ。
オッドも子供の声は高いんだ!と楽しそうである。
素晴らしい、とオッドと同時に俺も息を漏らした。
これが2000年前半に流行った、最高の歌手である。
と実感した。
バンド恒例のアレをした。
曲の最後にやるアレだ。
ドラムが気持ちいい。
そうして、やっと終わった。かと思えば、
目の前にターンテーブルが現れた。
ターンテーブルが再生すると共に、あの特徴的なイントロが流れた。
ヒップホップの歴史において、この曲が無ければ語れない!
それぐらいまでにユニークな曲。
Dr,Dre - The next episode ft. Snoop Dog, Kurupt and Nate dogs
この曲で俺に珍しく仲間ができた事がある。
その思い出に浸ってると、DJのターンテーブルが止まっていく。
同じく音もスローになっていき止まった。
DTMでよく見るイコライザーの波形が表示された。
そして、真ん中にはDJ機材。
某有名DJ機材会社のロゴがある。
かかったのは、
Virtual Riot - Init
めちゃくちゃカッコいい。
いや、予想してたとは言えまさかここまでとはね。
あ、オッドはどうなったんだろ。
忘れてしまってた。
振り返ると、ジャンプしてる。
フェスで4つ打ちがかかった時のアレだ。
まあ無理もないか。
そして、グルーヴとテンポが変わる。
この曲の展開は後半の流れがキモなのだ。
今度はヘッドバンしよう。
お、なんか別の曲が入ってきた。
これは…
Getter- Inhalant Abuse
物騒な名前だが、音フェチには薬物以上の快感をもたらす(?)。
どうやら彼も音フェチの様だ。
目が完全にいってる。
まあ、あと一曲あるけどね。
さあこれはどうだ!
Oddprophet - Listen
彼の全身に閃光が走った。
そう、実際に走ったのだ。
そしてドロップ、ヘッドバンをひたすらした。
特徴的なサイレンと変はFXで曲が終わった。
ひっさしぶりに聞いたがやっぱりこの曲は最強だ。
「どうだった?」
「こんなん出鱈目だ!信じられるか!」
「こっちこそだよ!こんなにお前がハマるとは思ってなかったぞ。」
「それよりも今の全部教えてくれよ!」
「え、えぇー。」
クラシックはわからないけど、まあいいか。適当に話せばなんとかなるだろう。
理解者がやっと出来た事だしね。
色々話してみるか。
そして俺は、徹夜でオッドと一緒に曲について語ったのだった。