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第九話 色違い

「堀田先輩、これもですか?」

 保管庫から装備を借りようとすると、持参の霞以外には無かった篭手こて臑当すねあても含まれている。

「うん、今日からはそれも装備してやっていこう」

 そう言われ、それも人員輸送車に積み込むと、三回目の実戦へ出発となった。


「これが俺と長三郎の篭手かな。それと臑当」

 走っている間にどんなものかと見ていると、やはり先輩たちの物よりしょぼい。鎧と組み合わせて使うものだから当たり前だけど、いっそのこと鎧を格付けの高いものに変えて欲しい。

「穂見月はこれかな」

 手袋は布製で、臑当は固いが金属製ではなく竹製のようだ。

 防具は武器に干渉しないものを選んで付けるので、これで一般的なのであろう。剣や槍のように、一箇所に属性力を集中して運用する場合は防具が大きかったり、分厚かったりしても影響は少ない。だけど対象が離れている回復役や、範囲に属性力を展開するような飛び道具を使う人は、防具に力の発動が邪魔されないように薄手の装備になる。

 だから訓練の初日、穂見月の分担が回復だと聞いた俺はいろいろ少ないのではないかと期待したものである。しかし、布は多くても問題がないのか肌色の部分が増えることはなく、その姿にガッカリしてしまった俺は我に返ると、神に許して欲しいと懇願したものであった。

 まあ、鎧も戦闘服の上に付けて使うわけだし、そこまで薄着にはならないよな……。

 思い出から冷め霞に目が行くと、持参した装備の動き易そうなところばかりが気になっていたけれど、手首や足首を守る装備が巻きつけるようにしっかりあることに、抜かりがないなと関心してしまう。


 しばらくすると海の匂いがしてきて、そのまま海岸沿いを走行している。緩やかに曲がった海岸線が湾を描いていると知るのは、大きすぎてしばらく経ってからのことであった。


 目的地に到着し車を降りれば続く砂浜が見える。だが、用があるのはそちらではなく陸側に広がる松の木が生える広い草地であるという。

 そしていくらも歩かず目的の場所だ。話の通り、松の木も林とまでとは言わないがそこそこあり、他に背丈ぐらいの高さがある大きな岩も点在していた。

「さて今回相手をしてくれるのは、大したことはないんだけどやっかいなところもある鹿だ。そこで草を食べているのがいっぱい見えるだろ。小さくて鹿には見えないかも知れないけど鹿の仲間で、やっかいと言うのはとても動きが早いからなんだ。あまり攻撃はしてこないけど逃げようとするので、うまく追い込んで倒してくれよな」

 堀田先輩の説明を聞いてから見ると、確かに角のようなものがある。ここからだと鹿というより犬にしか見えないけど、地面を這うように頭を動かしながら草を食べる姿は犬ではない。

「さて、それじゃあ堀田先輩と松下先輩は、また見学でしょ? 隼人、さっさと行こうぜ」

「ああ」

 長三郎だけでなく、俺もそうだと思って返事をしたのだが違うらしい。

「待った、今回はみんなでやろう。とにかく逃げ足が速いから、囲まないと倒すのは難しいし」

 堀田先輩だけでなく松下先輩も、

「そうね。あなた達も三戦目でいけるだろうから、みんなでちゃちゃとやってしまいましょ」

と、勢いがある。


 そして戦闘が始まった。

「前の熊に比べりゃ、どう見ても弱いだろ」

 突き進む長三郎。

 俺も恐怖心の低さからどんどん前に行くのだが、何せ向こうが戦う気がない。そんな中、俺が追いかけている鹿が、岩と松の間に進もうとした時だ。

「挟み撃ちだチュー」

 岩陰から出てきた霞に鹿は止れず、そのまま突っ込むと短刀で刻まれた線から縦にまっぷたつになる。

「さすがね」

 松下先輩が霞を褒めている。

 そんな松下先輩が器用に突いて使っているその薙刀は、鍔というより柄の穂に近い部分が青く光っており水属性が発動しているらしい。

 そして堀田先輩はあの時と同じ剣だが、今見ると黄色く光っているので土属性だと分かる。

 こうして、二人も逃げ惑う鹿をそれぞれ倒してはいるのだが、たくさんいる相手が攻撃範囲にたまたま入った時にしか倒せないので効率が悪い。

「ちきしょう、跳ねるように逃げやがって。思った方向と違う方に行きやがる」

 長三郎は負けているわけでもないのに、なかなか捉えられないものだからイライラを募らせている。

 そんな長三郎が、毛色の違う一回り大きな鹿を見つけ構えると言った。

「あん? 少しはやる気があるやつがいるようだな」

 溜まっていたイライラを発散すべく、突撃していく。

 しかしその鹿は逃げない。

「当たれ~!」

 間合いを見計らった鹿は跳び上がり、長三郎の上を越えると着地する瞬間、後ろ足で長三郎を蹴飛ばし勢いそのまま離脱していく。

「ガァァー」

 見ていても痛そうだが、変な声を上げる長三郎に驚き穂見月が駆け寄る。

 もちろん拡散してそれぞれ戦っていた俺たちもその場にすぐ集まった。

「何やってるのよ。見れば違いがあるの分かるでしょ?」

 膝をつきうつむく長三郎に、容赦なく松下先輩の言葉が飛ぶ。

「まあ、舞。そんなに長三郎を責めるなよ。ひょっとしたら遺跡に近づいたとか、強い力の影響をどこかで受けてきたとかかもしれない相手に、無事だったんだからよかったじゃないか」

 堀田先輩は長三郎をかばっているだけのようだけど、話に出てくる遺跡だとか強い力というところが分からない。熊と狼のことを聞いたときに引き合いに出していた神の祝福のこととも、どうやらつながっているようだ。


“これも勉強”と堀田先輩がまとめると、帰ることになった。

 車に乗り込む長三郎は鎧が守ってくれたので怪我はないようだが、蹴られ地面に叩きつけられた衝撃で体が痛いのか苦しそうだ。

 そして車は学校に到着するが、長三郎は意地になっているのか処置室へ行かず黙々と片づけをしていたし、松下先輩の怒った表情が変わることもなかった。

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