第八十九話 雪に差す光
腹がすき、風が漏れる小屋で火鉢ひとつ。
寒い、寒い、寒い……気が付けば、団子のように体を寄せ合い俺たちは寝ていた。
車の音?
目を開けると、壁の隙間から雪に反射した白い朝日が差し込んでいる。
トントン
「また客人かい」
初老の男性は戸を開ける。
晴親さん!
料亭であった時とは違い、動きやすそうな服装を着ている晴親さんが立っていた。
殻先輩に続いて晴親さんまで来るなんて。
「入ってよろしいかな?」
晴親さんが許可を求めると、初老の男性は呆れながら小さく頷いた。
そして、初対面の山中教官や殻先輩と挨拶を終えるとこう話を始めた。
「探していたら比叡山の住職に、君たちに似た人たちが伊吹山に向かったと聞いたので」
「口が軽いハゲでチュ」
霞の発言は置いといて、探していたって?
「君たちが大坂に置いてきた人員輸送車を持ってきからこれで行ける」
何でも車の回収を担当したらしく、直ったところで本部に戻らずこちらへ来たというのだ。
「助かります。大垣で足の確保をしようと考えていたのですが、これなら早く行動できます」
「なら鮫吉、朝ご飯は大垣でいいんじゃない?」
堀田先輩の話に、松下先輩はうれしそうに提案した。
「どちらにしても美濃路を使うのですからそれには反対しませんが、堀田さんの実家や知り合いの家などには立ち寄らない方がよろしいかと」
晴親さん、妙に詳しいな。
「傍受されているのか?」
山中教官が口を開く。
「そういうことです。僕がこの場所を特定できたのは住職の話だけではありません」
「そこの殻という生徒の話によると、街道や関所の様子も変だったとか」
「はい、山中殿。気づかれているとは思いますが、すべてが罠です。彼らを伊吹山に差し向け、その間に武蔵の学校に兵を送り、街道を固めさせたのです」
「ちょっと待ってください」
堀田先輩が話に入る。
「殻から聞いて何となく想像してはいたのですが、つまり武蔵の学校に土の遺跡があるんですね?」
「多分、そういうことだろうね。僕は、一介の事務屋だから教えられてないけど」
「しかし晴親さん。僕たちのことで、どうしてそこまでするんですか?」
今度は山中教官が答える。
「そこで松永の話か。結局、お前たちに期待していたのは遺跡探しそのものではなく、道世さんを通した神とのつながりだったってことだよ」
これに、晴親さんは苦笑いをしながら付け加える。
「誰がどの程度調査を進められるかなんて分からないから、遺跡探しもある程度は期待されていたとは思うよ。けど、他に任務を受けていた者たちがいたのも事実だろうね。どちらにしても、神との話し合いに備えるとしたら君たちは必要とされているはずだ」
つまり、土の遺跡の調査は邪魔されたくないけど、穂見月という切り札は置いておきたい。だから、俺たちが動けないように妨害をしているのか。
「でも兄さん、それならなんできたんですか?」
そうだ。俺たちの足止めが目的なら、人員輸送車を渡すよう命令されるはずがない。
「長三郎。こうなってしまっては、残ることはできないんだよ」
「俺の、俺のせいですか?」
「違うよ。お前のせいでも、お前の仲間たちのせいでもない」
「けど折角、官僚になれる道ができたのに……」
「長三郎、僕はお役目は果たすよ。でも、それは正しいことであってこそだ。家族のことを軽視する者が、仕えるべき人であるわけがない」
感動のこの時も、山中教官は冷めていた。
「ふむ、なるほどな。伊丹殿、ではもう戻るところがないのだな」
「ええ」
「それでは、こいつらと一緒に武蔵まで行ってやってくれ。ここまで雲行きが怪しくなっては、俺は関東まで行けない」
「わかりました」
二人は頭を互いに下げた。
「では俺は、登山口で三輪車を回収して安来に帰るからな。達者でやれよ」
山中教官は戸を開け出ていく。
「僕たちも準備だ。殻君は学校から持ってきた四駆をここまで持ってきてくれ。他のみんなは装備を人員輸送車に」
晴親さんの号令のもと、準備を終わらせる。
「お世話になった」
晴親さんは、関わりたくないという初老の男性に僅かなお金を握らせるように渡し礼を言う。
「出発しよう」
殻先輩が運転する車に晴親さんが乗り込み出発すると、俺たちも人員輸送車であとに続くのであった。
ブウーーーーン!
聞こえる音に後ろの幌をめくれば、雪煙をあげる三輪車が近寄ってくるのが見える。
山中教官?
気がついた堀田先輩が車を止めると、教官は荷台の後ろに横付けした。
「長三郎」
「はい」
「槍を貸せ」
山中教官は槍を受け取ると、模造品の石を外し自分の持っていた石を付ける。
「山中教官!」
「餞別だ。もってけ長三郎」
山中教官は槍を長三郎に返すと、また爆音を立てて離れて行った。
垂井宿で朝食を取り再び荷台に乗り込むと、大垣、墨俣と美濃路を進んでいた。
「長三郎、いつまで見てるんだよ。邪魔だよ」
「ウーン!」
長三郎は、目線の高さまで上げた槍を水平にすると、石を覗き込みながらうなっている。
「ほら、起の町に着いたみたいだよ」
「ウーン!」
うなっている長三郎の代わりに霞が答えた。
「隼人、メガネがいるでチュ」
「え!」




