第五十七話 祇園社
大通りに出て月明かりの下、ゾロゾロと七人で歩き北上すれば、すぐに目的地である祇園社だ。
ところで提案されたこととは、白朮祭へ行って火をもらってくることであった。何の事だか長三郎以外は分からなかったが、依頼達成の報酬がお雑煮であると言われ霞が引き受けると即答したところで、細かい話はすっ飛ばしてやると決まっていた。
経緯はともかく、祇園社に着くと火は朝までついているからと長三郎に教えられ、それじゃあと先に初詣をする流れになった。
案の定、本殿前は混み合っており、なかなか進まないので長三郎と話でもする。
「正月なのに、実家に戻らなくてよかったのか?」
「ああ。兄さんには会えたし、夏に戻ってるから別にいいよ」
もう別の理由で京にいるのだから会いに行っても問題はないと思うけど、自分だけが会いに行くことに抵抗があったのだろう。
参拝が終わり、さっきはみんなの前で聞かない方がよかったのかな? なんて心配していたけどそれは無用のようだ。
「本殿の右手に美御前社ってのがあって、その名の通りの神様が祀ってあるから松下先輩行きましょうよ」
「ああ? 長三郎、喧嘩売ってるの?」
そして当然行くことになる。
「美容水?」
穂見月はそう書かれた札の前に立つ。そこには水を溜める小さな石の鉢と水を注ぎ込む竹の筒があり、その筒からは水がちょろちょろと湧き出している。
穂見月は少し手につけて“うーん”と考え込んでいる。
俺は思う。穂見月は美人過ぎてこれ以上ないので変化がないんだよと。
「隼人、気持ち悪いでチュ」「気持ち悪いわね」
見つめる俺は、横でバチャバチャかけている二人の戯言なんて気にしない。
「ほら、他の人も待ってるし退かないと」
堀田先輩に引っ張られ、松下先輩はその場を離れた。
「次はおみくじでチュか?」
「おみくじはこの前引いたから、絵馬にしましょうよ」
目が覚めた松下先輩に連れられて、絵馬をひとつずつ社務所で選び買う。そして書き込めば、内容を探り合うことになるのは毎度のことである。
『みんなを守れますように』
「みんな?」
俺の絵馬を見た長三郎から、早速チャチャが入る。
「前衛だからだよ!」
「何も言ってないでチュ」
霞に突っ込まれ、慌てた俺は長三郎の絵馬を覗き込み読み上げる。
『もっと強くなれますように』
「単純でチュ」
「じゃあ霞は何にしたんだよ?」
バカにされた長三郎は半ギレで聞き返す。
聞くまでもないだろう……と思うが、とりあえず俺の陽動作戦は成功である。
霞が絵馬をひっくり返し見せた内容は、俺の予想通りだった。
『お金持ちになれますように!!』
「な、長三郎」
俺は肩を叩き名前を呼んだだけなのに、今度は霞が頬を膨らます。
「フン! そんな態度をとるなら金持ちになったとき、ぜんざいも栗羊羹も買い占めて分けてやらないでチュ」
どうということはない、そう鼻で笑い油断していると、
「それに穂見月も七夕の時と一緒でチュ」
と続けて言われ、困ってしまう。
『家族が元気でいられますように』
確かに一緒である。
「そ、それはいいんだよ」
「隼人、気持ち悪いでチュ」
俺は新たな陽動作戦を展開する。
『みんな無事でいられますように』
「さすが堀田先輩! 隊長の鑑です!!」
「何よ隼人、気持ち悪い」
ああ、こっちにも、こういう人がいたことを忘れていた。
「松下先輩は何をお願いしたんですか?」
『真帆と加帆が合格しますように』
見せてくれたけど……誰?
「松本に行く時に話した二人の妹だよ。真帆は塾の三回生で大坂にある商業学校を受験するみたいだし、加帆は寺子屋の六回生だから塾の受験があるの」
「そうなんですか。先輩の口ぶりからもっと幼いのかと思っていました」
「まあ、これからしばらく旅は続きそうだし、詳しいことはそのうち話してあげるわ」
覗き合いも終わり、それではとみんなで絵馬をかけにいく。
……少し離れたところで浅井教官も絵馬をかけていた。
そうだ。一緒に買って、書いていたよな。
目を凝らし、刮目する。
『今回の出来事が出世に響きませんように』
「長三郎。火ってどうやって持って帰るの?」
「あのデカイ灯篭から火縄に移すんだよ」
火縄を買うと、そこで持って帰るためのコツを聞くのだが……嫌な予感しかしない。
「あたいがやるでチュ」
霞が灯篭から御神火を火縄に移すと旅籠へ帰ることにする。
そして教えの通り、火が消えないよう火縄をくるくる回すのだ。
ブンブンブンブン
「霞、そんなに勢いよく回さなくても平気だよ」
「うるさい長三郎! 喰らうでチュ」
「甘いわ!」
霞が暴れて消えてしまうのではと心配し火縄を二本買ったのだが、長三郎も反撃して振り回している。
しかし意外にも火は消えることなく、旅籠まで無事に到着した。
二本持った俺たちに女将さんと仲居さんが顔を合わせたが、それぞれ受け取ってくれると神棚にある灯明に灯し、その後雑煮を炊く火種として使ってくれる。
そして火縄の火は消された。
女将さんはそれを見つめ言う。
「燃え残った火縄は『火伏せのお守り』として台所にお祀りするんですけど、二本もお祀りしてよいものかしらね」
「あたいの分は自分のお守りにするから、長三郎のを使ってくれ」
「はいはい」
女将さんはそれを聞き、長三郎の持って帰ってきた火縄を祀った。
そのあと、いくらも待たずにできた雑煮は、冷えた体を温めてくれるのであった。




