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第四十八話 街外れの旅籠

 旅籠に入り、荷物を置くため一度部屋ごとに別れたが、すぐに俺たちのいる男部屋に集まった。

 そして、個室を用意された浅井教官もきたかと思ったら、座りもしないで開口一番だった。

「あのまま遺跡に行っても無理だろうからと、良かれと思ってやったんだけどな。こんなことになるとは」

「処分がこないからおかしいとは思っていましたが、最初から利用しようとしていたんでしょうね」

 責任を感じる浅井教官に、堀田先輩はそう推測して答える。

「とにかく今は話に合わせてやるしかない。大渕議員一人でここまでやろうと思っているのではなく、後ろに組織というか集まりがあるだろうからヘタに動かない方がいい。詳しい話があった時はすぐに伝えるから待機していてくれ。それじゃあ俺は校長に報告の手紙を書かないといけないから部屋に戻るけど……さてどう書いたものかな」

 立ったまま話していた浅井教官は、つぶやきながら部屋を出て行ってしまう。

 残された俺たちは、どうしようもないからと言われたまま待機することだけを確認して解散することにした。


 二階の部屋からは、旅籠の表玄関が面している通りが見える。すこし障子を開け眺めて思う。冬休みがなくなってしまったことだけは間違いないと。

 そして今回の話は、警備などをする罪もない人と出くわし、戦闘行為をする可能性もあるとすぐに分かった。取り乱さず受け答えをする堀田先輩に、やさしい性格だけではなく肝が据わっているところもあるんだなと意外に思った。相模のときのように部隊のみんなを守るためとはいえ、同じ人間が相手となれば迷いがあるに違いないのに、交渉に切り替えたことは英断なのだろう。

 しかし、心は簡単に切り替えられるものではない。


「穂見月、時間ある?」

「うん、待機中だからね。まあ、暇だよ」

 夕方、俺は穂見月を誘い河川敷に行って川を眺める。

「こんなことになちゃったけど、穂見月大丈夫?」

「平気だよ? 顔色でも悪い?」

「そんなことないけど」

「ご飯もお風呂も旅籠の人が用意してくれて、なんの心配もないしね」

「ご飯か……」

「うん?」

 折角、穂見月が冗談で答えてくれているのに……でも、言わなければならない。

「頼みがあるんだ」

 それは、無理な話に動機付けをするための勝手なお願いだった。

 夏休みにお爺さんから聞いた話を、穂見月のお母さんにあった出来事を、部隊のみんなに話したいということである。

 穂見月は聞くと、「いいよ」と悩む素振りも見せずに答えてくれる。

 心中を察することはできないが、どうしてもやらなければならないのなら、遺跡の秘密を知るための機会だと考えることでごまかせると思ってのお願いだった。


 その日の夜、部隊のみんなを部屋に集め話をした。

「俺たちが買い物へ行ってる時にそんなことがあったのか」

 長三郎がこう答える話は正直恥ずかしかった。

 穂見月の気持ちに比べればそれは大した事ではないのかもしれないけど、お爺さんとのやり取りを説明するためには『それが何であっても、俺が穂見月さんを守りますから心配しないでください』などと言ったことを、少しごまかしながらも話さなくてはならなかったからだ。

 それでもそうしなければ、お爺さんが“あれこれ”教えてくれた話につながらなくなるし、穂見月本人ではなく俺が話す理由もなくなってしまうのでしょうがないところである。


 だが話したかいはあった。松下先輩も大渕の話が実は気になっていたと話してくれたからだ。

「確かに今回の調べ物で、お母さんに起きたことが分かるかもしれないわね。だって大渕の話、変じゃない? 遺跡に関する情報を集めて来いってことはさぁ、大渕たちにも分からないことがあるってことでしょ。大渕は神宮院で寺社などの関係者が多い側なのに、遺跡のことで元老院関係者を調べろだなんて」

 昔は神官のみでまつりごとを神の思し召しとして行っていたのだから、神官が属する神宮院の方が守護が送ってきた武家や商人が構成する元老院より遺跡に関しては詳しいはずだ。言われてみればその通りで変である。


 そして、堀田先輩の様子がいつもと変わる。

 真面目というより、思いつめた様子で謝りたいことがあると言うのだ。部屋の先に送った視線は、どこを見るでもなく硬直していた。大渕議員のところで見せた肝の強さなども加わって、隊長らしさが俺の中で増していたので急な変化に驚く。

「本当はさ、僕もおかしいと思っていたんだよね。でも言えなかったんだ。『重要な施設や任務に関することを生徒だけでやらせるなんて変だよね』って」

 俺は、堀田先輩のことを隊長として相応しいと思うだけでなく誰もが認めるような人物だと思うので、素直に話しても否定してくるやつなんていないと思う。それでも黙っていなければならないなんて納得ができない。余計なことをと、けむたがられるのだろうか? 疑問に正面からぶつかることは、許されないのだろうか?

 申し訳ないと思ったのだろうけど、そんなことはないのだから俺たちに謝る必要なんてない。


「さめきちぃ~。たぶんみんな一緒だったんじゃないかな?」

 松下先輩の言葉に俺たちも頷く。

「ありがとう。いまはやるしかないよね。どうせなら、穂見月のお母さんの件も解決を目指そう」

 堀田先輩は向き直す。

 俺たちは僅かだが、進む理由を得られたのであった。

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