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第四話 隊長と副隊長

 六月中旬、二回目の実戦演習のために現地へ向っていた。

 幌付き人員輸送車の荷台に乗り込み揺られれば、後方の側道には咲く紫陽花が見える。ジメジメした季節を象徴した花だ。

 こうなると、頭の上で波を打っている髪がいつもより気になるが、学校に入ってからは刈上げにしているので、そこまで癖毛は目立たないだろう。


 見た目はともかく、警察官になることを目標にしていた俺は、最初は警察学校から始まることは知っていた。

 だがここはおかしいと、来てからすぐに思った。

 全員が受ける通常授業で、一般教養、捜査、取調べ、逮捕術などがあったり、また予定されているそこは理解できた。

 しかし、属性力を利用して戦う方法を習い、こうして意味の分からない相手と武器を持ち戦うなんてことをやっている理由が不明だったからだ。

 思えば、越後警察本部の試験を受けたはずなのに、統合局での採用という話になった時からすでにおかしかったのだ。ただ、これ以外の道を選べなかったのだから悔やむこともないのだけれど、納得はできない。


 荷台から降りると、霞の防具が前回と違うことに今頃気づく。

「霞、その装備」

 布製だが革で補強された部分があり、下の方まで一体になったそれは前後が長く両脇には切れ込みが入っている。

「ふっふーん、いいだろ?」

 霞は自慢げにない胸を張っているが、そういえば二本の短刀も変わった装備だ。

「これは伊賀いがの実家から送ってもらった特注品だ」

「伊賀?」

「そうでチュ。あんまり隼人が、穂見月と比べるので仕方なく用意したのだ」

「そうでチュってなんだよ。いやそれより、比べたりなんてしてないから。そ、そういえば武器も変わったものだね」

「うむ、こちらも自前だ。作戦中以外は保管庫で預かる約束で、学校からは持ち込みの許可をもらっている」

「へー」

「みんな準備はできた? 行くよ?」

 堀田先輩に呼ばれ、後に続く。目的地はすぐそこらしい。


 上野こうずけのくに、街道の外れ。

「目標確認、熊です」

 俺は真っ直ぐ前方に熊を見つけると、隊長の堀田先輩に報告する。

「ここはなだらかな丘が続いて木々などの遮蔽物もほぼないから、囲んで力押ししかないね」

 堀田先輩は説明をしてくれるが、副隊長の松下先輩と今回も後ろで待機しているということだ。

 四人でやるしかない……それでもいけそうな気がする。

 あれから十五日しか経っていないけど、初めてと二回目の違いは明確に出ると思うからだ。

「俺が中央から行く、長三郎は右、霞は左から頼む」

 長三郎は一瞬“ムッ”としたようだが、隊長から特になければ剣を装備している俺が持ち場の関係で指示をすることは普通なので恐らく、自分の槍や霞の短刀が生かせない作戦だと感じたのだろう。確かに囲んでの攻撃では、装備の違いを生かせない。だが、後ろで回復待機をしている穂見月はいつも自信がないと言っており、つまらなくても損傷管理がし易いこの作戦しかないと判断した。


 熊は先頭の俺に襲いかかる。俺も反撃で剣を振る。

 剣の鍔に施されている装飾が線上に赤い光りを放つので、力はちゃんと刃に伝わっていて傷を与える効果が増しているようだ。しかし、熊を押さえるほどの力はなく、俺も熊の爪を喰らう。だがこれは装備正面であり、穂見月が装備の耐久を回復し始めるので問題はなかった。

 その隙に、長三郎が右から槍で簡単に突けば熊は混乱状態になり、左に回っていた霞が踏み込むと短刀の長さに似合わない深い刻みを二本入れ離れる。

 熊は出血しながらその場で回転したかと思うと、ぐったり倒れた。

 熊は、大きかった。恐怖心から実際より大きく感じたのかもしれないが、不自然な感覚を覚えた。倒したとはいえ、それは特殊な装備を使っていたからできたことだ。やはり、ただの熊ではない。

「二回目の現場にしては、まあまあかな」

 松下先輩が簡単に褒めてくれるとは思っていないが、堀田先輩も厳しい顔つきなのでどこが悪かったのか気になる。


 しかし、そういうことではなかった。

「鮫吉」

「ああ、分かってるよ。一緒にやるしかないね」

 二人は武器を構える。堀田先輩は打刀うちがたなを。松下先輩は薙刀なぎなたをだ。

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