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第二十一話 新たな疑問①

 翌日、お日様が頂上に昇り暑くなる前に出来るだけ刈るのがよいと言われ、早くから作業を始めるが慣れないので全然進まない。こうなると、お日様とは関係なくやり続けるしかないのだが、腰だけでなく日に焼ける肌も次第に痛くなっていく。そして、そこまで頑張っても終わらない田んぼを見渡すと、もう一日はかかるであろう量の稲が残っていた。六人でやってこれなのに、一体お爺さんは一人でどうやっていたのかと不思議でしょうがない。


 続きを明日にして家に戻ると、九人分の食事がいるのだから車で買出しに行こうとなる。

「車に乗ってみたいな。そうだ! 乗せてくれたらお店まで案内するよ!!」

 早苗ちゃんは、変わっている学校仕様の車に乗ってみたいようだ。

 そこで、堀田先輩が運転する車でお婆さんと早苗ちゃん、それから荷物持ちの長三郎とで街に買出しへ出発しようとする。

「あたいも、松本の街に行きたいぞ」

 ここで霞がごねだすが、今回借りてきた車は両方とも五人乗りであったので、きっちり五人乗っては荷物が載らない。

「そうね、稲刈り明日も丸一日かかるとして、学校へ出発するのが明後日になると買い込む荷物多くなりそうだし、霞も街に遊びに行きたいようだからもう一台出すか」

 松下先輩も運転してくれることになり、霞も行けることになった。

「やったぞ!」

 霞のことだけではないが、もはや手伝っているのか邪魔をしているのか分からない。

「それじゃあ俺は、農具を倉庫にしまっておくよ」

「私は、ご飯を焚いておくね。早苗、ちゃんと道案内するのよ」

「うん、お姉ちゃん」

 こうして、車二台を使った大掛かりな買出しになってしまうのであった。


 留守番の俺は、出しっぱなしになっていた農具を倉庫に運び込んでいた。するとそこに、穂見月のお爺さんがやってくる。

「手伝おうか?」

 お爺さんはそう言うが、一人で持てないような物はないし、そもそも腰が痛いという事で手伝いに来ているのだから頼むわけにもいかない。

「いえ、大丈夫です。ちょっと置く場所が違うかも知れないですけど、明日もやるので問題があればその後で直しますので」

「ああ、気にせんでいいよ」

 お爺さんは、やる事がなくなってしまったからか、倉庫の中にある箱に腰を掛けた。話し方といい、嫌われているようには感じられないのだが。

 ほぼ運び終えたところで手を休め、何故お爺さんが越後の人を嫌っているのか聞いてみることにした。

「あの、ちょっとお聞きしたいのですが、穂見月さんと始めて会った時から彼女の様子が暗いので、どうしてなのかと聞いたことがあるんです。そうしたら越後の人だから嫌いだって言うんです。俺個人の問題じゃなくて、文化とか言ってましたけど、やっぱりお爺さんも越後の人は嫌いなんですか?」

 言った後でなんだが、孫のことを暗いとか言うのはよく考えれば失礼だった。

 しかし気にしていないのか、お爺さんは笑って答える。

「文化ではなく地域がらってことだよ。俺が好きとか嫌いとか関係なく、集落みんなが嫌いって言ってるところで、わざわざその言葉を否定する必要はないだろ。合わせて言っているだけ、処世術さ。だがそんなこと、子供の前で言ったらどこかで話しちまうから言わないけどな。だからこの事も、あの子たちに言わないでくれよ」

 俺はホッとした。それは越後人として、信濃人に拒絶されなかったというような広い視野を持っていたからではない。


 そんな理由はともかく、俺の安心した様子を見るとお爺さんは穂見月のことについて語り出す。

「お前さんたちが何て聞いて来たのかは知らないが、ここは穂見月と早苗にとって田舎ではなく実家と言ってもいいところなんだ。それはな、あの子の父と母は共に警察官なんだが、母であり俺の娘でもある道世みちよが仕事中に殉職してから、父である盛文もりふみさんが一人で育てるのは大変だろうという事で、うちで預かることにしたからなんだ」

 突然の話に返事に困るが話は続く。

「盛文さんは仕送りを十分にしてくれるが、顔を出す時間をあまり作れないらしく、めったに遊びにも来ない」

 だがこの先の話で、話し始めた理由が俺の質問にあると分かる。

「お前さんは越後の人が嫌いかと聞いたが、さっきも言ったように嫌いじゃない。だが、娘の命を奪った警察は嫌いだ」

 ホッとしたのも束の間、これを聞いて別の疑問が生まれてしまった。

「その、失礼ですが、殉職なら犯罪者に殺されたとか、事故で亡くなったとかではないのですか?」

 それを聞くと腰が曲がったお爺さんが立ち上がり俺に近寄る。正面、下からこちらを覗き込むような体勢になったお爺さんは、そのまま両手で左右から俺の体を挟むように掴み、力んで震えながら訴えるように話してきた。

「もちろんそうじゃないから警察を恨んでいる。いや、恨みよりもだ、今は穂見月が心配なんだ」

 何か納得がいかないことが起きたんだなとは理解できるけど、これだけでは穂見月に何が降りかかると恐れているのか分からない。

 それでも俺は、お爺さんの強い思いに打たれ約束する。

「それが何であっても、俺が穂見月さんを守りますから心配しないでください」

 はっきり答えたその時、倉庫の入り口から穂見月が入ってくると二歩、三歩と進んで止った。

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