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第十話 七夕笹

 一学期末試験が迫っているので、そのことを考えなくてはいけなかった。しかし、試験が終わればすぐに部隊対抗の模擬戦があるという話を聞いて、部隊でのわだかまりのことも気がかりになっていた。


 専攻の時間になると、今日は体育館を使用するということなので霞と一緒に移動していた。

 そんな時、期末試験と対抗戦が今のままでできるのかという二つの悩みを抱える俺の前に、七夕笹が現れる。食堂の従業員たちによる心遣いらしく、食堂入り口付近に大きな笹が三本、柱に綱で括りつけられているのだ。しかし七夕の演出であるにも関わらず、短冊は用意されていない。

「おい、隼人。これではお願いができんぞ」

「そうだね。食事の時、四人分の短冊作って持ってくるからみんなで書こうよ」

「おう、では穂見月を連れて来るから頼んだぞ」

 そんな具合に、今日も一緒に食べる約束を取り付けた。


 授業が終わったので寮に戻ると、長三郎が机に腰掛けて窓の外を見ながら黄昏ている。

「はっ!」

 俺は見てはいけないところを見たとばかりに、わざとらしく驚いてみせる。

「なんだよ、それは」

 怒られるかと思ったが、長三郎の反応は薄い。

「えっと、何でもない。ちょっと横で短冊作ってるけど、気にしないで」

 俺は、自分の机で作業を始めた。

「七夕か」

「うん、食堂の入り口に笹あったでしょ? それで、霞に短冊作って行くって約束したんだよ。長三郎の分も作るよ」

「そういや、戻ってくる時あったような。お前は願い事、決めているのか?」

「一人前の警察官になれますように、かな。夢だし、それなら見られてもいいし」

「それじゃあ、見られたら困る願いってなんだよ」

「見られたら困るんだから言えないよ。それより長三郎は何て書くの?」

「俺か?」

 長三郎なら即答で“そんなもの”と、否定してくるかと思っていたけど、深く考えているようだ。そして黄昏時も味方したのか、おもむろに話し出した。

「俺も一人前になりたいと思ってるよ。俺には歳の離れた兄がいるんだが、その……弟の俺が言うのもおかしいんだけど、すごい人なんだよ。だから俺は一人前になり、兄の力になれるようになりたいんだ」

 正直、実技をやっていて協調性がない人なのかななんて思っていたけど、尊敬している人を助けたいということなのだから、そうではないようだ。

「じゃあ、お兄さんみたいになれますように、って書くの?」

「隼人、お前と一緒でそのままは書かない。俺も一人前になれますように、にしておく」


 日が暮れ食堂に行くと、四人で食事を始める。そして用意していた短冊を取り出すと、俺と長三郎はさっさと書いてしまう。

「二人とも、つまらないでチュー」

 当たり障りのない、内容に霞は不満そうだ。

「じゃあ霞は、何て書いたんだよ」

「ジャーン」

 俺は聞くまでもなかったと思った。そこには、『お金持ちになれますように!!』と書いてある。一つひとつの物品を頼むよりは効率がいいかも知れないが、どちらにしても七夕笹も預かり知らぬところだろう。

「穂見月も書いた?」

「ええ」

 俺が聞くと短冊には、『家族が元気でいられますように』と書いてある。お淑やかな彼女の向こうに、家族団らんで幸せな生活をしている様子が浮かんで見えるようだ。

「アハ」

「うん?」

 ニヤけてしまった俺に、穂見月は不思議そうだ。

「いや、なんでもないよ。食べ終わったし、吊るしに行こうよ」

 こうして七夕笹まで行くと、不思議なことにたくさんの短冊が掛かっている。みんなそれぞれ願いも短冊も用意しておいたようだ。そして俺たちも、そこに短冊を吊るすのであった。

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