92.『場は広大の草原に移り変わった。』
僕が居るのは、何かの動く荷台の様な所の中。どうやら、馬車の様だった。
馬車なんて、初めて乗る。馬車とは、こんなに振動を感じるものなのか。初めての馬車の乗車に感動したが、しかし、この馬車の感覚に既視感を感じていた。
奇妙な既視感だが、その奇妙さも、もう答えが出てしまっていて、謎めきが足りない奇妙さだ。
その謎めきの足りなさは、何故なのか?・・・・・・何故なのか?、もう大体何となく分ってきている。ほとんど答えみたいのは今まで見てきたのだから。
異世界に召還されたという『僕』の光景が、この既視感の答え合わせみたいなのは、察しの悪い僕でも、もう分ってきている。
馬車の中には3人の人影が居た。『僕』、剣士千歳ちゃん、エルフ千歳ちゃん。3人ともその表情は明るい。
『いやー、それにしても魔王は強敵でしたわ。お兄さんの魔力ならイチコロだろうと思ってましたが、まさか、あんな隠し玉を持っていたとは・・・』
『結構危なかったねー・・・。運が悪ければ、私達、ここには居ないかも・・・』
『そうだね。魔力を封じられてしまって、3人には助けられたよ。やはり、僕、1人じゃ駄目だったな。2人がこの旅に居てくれて良かった。』
3人は、和気藹々と語り合っている。話によると魔王はもう倒されてしまったのだとか、あれだけ魔王討伐の旅の風景を見せられたのに、肝心な所はカットか。
『ソルフィさんも、お城に来れば良いですのに・・・絶対、城の皆に歓迎されるよ。英雄としてね・・・』
『んん・・・魔族の身じゃ、警戒されるだろうからと言って来なかったね。他の人間にもソルフィさんの事認めてもらえるチャンスなのに』
『まあ、ソルフィちゃん、今まで苦労してきたのだからなあ、色々警戒しているんだろう。・・・・・・後で、迎えに行かないとな』
3人が話す通り、少女はそこに居なかった。
『うふふ・・・これから、お城に凱旋して、魔王を倒した国の英雄として、迎い入れられるのです。私の家は、名誉を取り戻せて嬉しい・・・。お父さんも、きっと喜んでいると思います。・・・お兄さん・・・本当に有り難うございます・・・!』
ぺこりと剣士千歳ちゃんは僕に礼を言った。その顔は感極まっているのか、目じりが赤い。
『いやあ・・・僕は・・・』
『お兄ちゃん!』
エルフ千歳ちゃんが、『僕』を遮る。
『私・・・村でずっと、疎まれがちだったから、今回の旅は楽しかったよ。お兄ちゃんやチトセさんやソルフィさんと出会えて、ついでに世界を救えて。』
エルフ千歳ちゃんも涙ぐんだ顔で『僕』を見ている。
微笑み、うるうると涙を浮かべて、今までの旅を総括する2人の少女。それに『僕』が答えようとする。最早クライマックス的な光景だった。
『有り難う、二人共。この旅は辛い事嫌な事もあったけど二人と・・・いや、ソルフィちゃんも含めて3人と居れて楽しかった。正直な所、突然異世界に飛ばされて、魔王を倒せと命じられて、凄く嫌だったんだ。・・・でも、そのお陰で、そのさ・・・あい・・・愛する人が僕には出来た。有り難う、二人共、僕とついて来てくれて・・・』
『僕』は2人をがばりと抱きしめた。『僕』の目も2人に負けないぐらいうるうる目じりを赤くして、そしてぼろぼろ泣いていたのだった。
『お兄ちゃん!お礼を言うのはまだ早いよ。私はこれからもずっとお兄ちゃんの傍に居るよ。ずっと、ずっっ~~~~と、だから、お兄ちゃん・・・あ、愛してるから!!』
エルフ千歳ちゃんは僕の恥ずかしいセリフに恥ずかしいセリフで答えた。恥ずかしい・・・なんて、この状況では野暮な感想だ。
『そうですよ、私も愛してます。お兄さんを。心から。一緒に居たい、ずっとずっと傍に居続けて欲しいなんて思う男の人はお兄さんだけです。だから私もお兄さんを愛してます!!』
剣士千歳ちゃんも遅れて恥ずかしい告白をした。
暫く、『僕』ら3人はその場で抱きしめ合う。
『・・・・・・所で、夫婦の営みはいつ致しましょうか?』
感動的な雰囲気を急にぶち壊してシモな事を呟く剣士千歳ちゃん。
『チトセちゃん?』
『お兄さんが心変わりする前に、早く既成事実作っておきたいんですよ』
『ん・・・そうだね、お兄ちゃん、私達を体を張って守るぐらい勇敢なのに、私が少し誘うとすぐ逃げちゃうぐらい、いくじ無しだものね』
『え・・・あはは・・・ 』
『僕』はジト目で2人に睨まれている。
『ま、まあ、もう僕の腹は決まった、ソルフィちゃんも含めて3人と結婚する!だからさ、城について、戦勝会も全て終わった後にさ・・・その、ヤろう!お互い、ちゃんとしてちゃんとした場所で』
いくじ無しの『僕』が慌てて言うと、2人はぷぅと頬を膨らまし
『もー・・・絶対だよ?お兄ちゃん?』
『まっ、いいですよ、お兄さん、私も、ちゃんとした所でお兄さんと結ばれたいですし・・・その分、期待してますからね』
ぷぅぷぅ2人は言った。
『あ・・・あぁあぁ、勿論だ・・・、ほら、外を見ろ、もう城が見えるぞ?そろそろ凱旋する準備を整えような?』
『僕』が外を指差すと、そこには見覚えがある城。この世界に来て見たあの無人の城下町の城が遠くに見えていた。




