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異世界人の決意

 日本に戻ってきたロロルトは、トリアルからの転移門から出てくるなり一番近くにある公衆電話からいつもの喫茶店で待っていると美由紀に一方的に伝え、返事を聞く前に切った。一見強引な態度だが、それは誤解である。

 トリアルとヤマトとの間には直通回線が通っていて、やろうと思えばトリアルからでも連絡はできる。早く逢いたいと言う気持ちと、可能な限り先延ばししたいという感情との葛藤が延々と続き、トリアルでは行動出来なかっただけだ。日本に戻ってきてすぐに最近ではほとんど見かけなくなった公衆電話を偶然見つけ、それに運命を感じて咄嗟に行動したのだ。しかも返事を聞くのが怖くなって、用件を喋り終わるとすぐ切ってしまった。

 失礼なことをしたとは思ったが、再び連絡する勇気も湧いてこず、ロロルトは区役所の終業までひたすら喫茶店で時間を潰した。途中何度もスマフォが振動して、それが美由紀からの連絡であることは簡単に予想できたが、それも怖くて確認すら出来なかった。

 自分が人からどう感じられてるかを自覚した後、ロロルトは美由紀とは実際に会って話すことしかシミュレーションしていなかったのだ。これを単純にヘタレだと解釈するのは、彼が気の毒である。ロロルトは根っからのとリアル人で、上級言語の話者として教育を受けてきた。上級言語は魔力を介して意図が直接伝わるが、電話やテキストだと魔力を介さないので上級言語も下級言語も大差はない。

 ロロルトの日本語は日本人と会話してても困らないレベルだが、まだ学び始めてから二年も経っていないのだ。人生をかけるならトリアル流にしたいし、その結果として失礼に思えたりヘタレに見えたりしたのだ。いや失礼だしヘタレだというのは、ロロルトも自覚していたのだけど…


 まだ休暇中のロロルトから連絡を受け初めは何事かと思った美由紀は、メッセージを送っても返信してこないロロルトに初めは心配していたが、既読すらつかないことにスマフォを忘れているのだと早合点してふつふつと怒りがこみ上げ、仕事が終わった頃にはかなり不機嫌になっていた。喫茶店に入ってロロルトの後ろ姿を見つけた時はそのまま怒鳴りつけようかと思ったが、その背中が妙にしょげかえっているのと周りへの迷惑を考えて怒りを飲みおろし、足音を鳴り響かせて席へ向かう。

 席についてロロルトに喋りかける前に注文を済ませたが、何故かロロルトだけでなく店員まで怯えていた気がする。

 注文したコーヒーが届いて、それを口にして一息つき、美由紀が喫茶店についてからずっと固まっているロロルトに目で話しを促した。

 すっかり萎縮していたロロルトは大きく深呼吸して覚悟を決め、そこから一気に勝負に出た。

 美由紀から軽く無視されている今の状態がかなり心苦しいこと、出来れば以前のような状態に戻りたいこと、でもその為に何をすればいいか自分ではさっぱりわからないこと、どうすれば仲直りできるか教えてほしいということをトリアル語で魔力をしっかりと込めて語り、深々と頭を下げた。

 トリアルから帰郷したばかりのロロルトには、彼の保有できるギリギリまで魔力を保持している。その大半を使い切る程にたっぷりと魔力を込めて喋ったのだ、トリアル語の意味は分からなくても、その意図は同じ上級言語である日本語を使う美由紀にもしっかりと伝わる筈だ。

 そうは思っていたものの、頭を下げてからしばらくたっても何の返事もない。

 ひょっとして伝わなかったのかと心配になったロロルトが顔を上げると、何故か勝ち誇った笑みを浮かべる美由紀と目があった。

 呆気にとられたロロルトが何か問いかける前に、美由紀はうんうんと頷いて彼の肩をポンポンと叩く。

 その意図は良くわかなかったが、彼女が上機嫌であることはロロルトにも理解できた。美由紀はその後、肩を叩いた流れでロロルトの髪をワシャワシャといじり始めたが、ロロルトは何も言わず彼女のされるがままに任せた。彼女の機嫌が治ったのなら、それでいいではないか。

 結局、ロロルトの意に反して美由紀との間に会話らしい会話もなく、その日は終わった。


 その後、二人の仲はトントン拍子に進み、一年と経たず結婚することになった。

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