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うざい

 なぜその時そんなことを言ったのか、ロロルトにはよくわからなかった。

 ただ物凄く焦っていたのは覚えている。自分だけが取り残されそうな気がしていた。

 だから告白した。

 まず自分の収入と貯蓄額を明かし、地価から考察したマイホーム購入計画を説明し、子供の人数と教育方針を考察し、老後の生活プランにまで言及し、最後に愛していることを告げた。

 ロロルトの体感だと永遠にも等しい時間だったが、時計の針の傾きから実際には十分程度の演説だった。美由紀への恋心に気づいてから妄想・・・シミュレーションした最善の結婚生活を余すことなくぶちまけて、ロロルトは満足気に目を閉じた。

 ちなみにトリアルでの結婚感は日本のそれとそれほど大差はない。違いは日本よりは多様性が認められている程度だ。

 この綿密な計画を耳にすれば、彼がどれだけ真剣に彼女のことを考えているか伝わらないはずがない。

 だがロロルトの確信は時間の流れとともに急速に失われていった。そもそも目を閉じてから凄く時間が経っている気がする。なぜ彼女からまったくリアクションが帰ってこないのか?

 ロロルトからはまたしても永遠に感じられた時間だが、今度は三秒も経っていなかった。

 こっそりと薄目を開けると、美由紀はがっしりと腕組みをしていた。

 美由紀の顔を確認するのが怖くて、それ以上視線を上げられない。だが刺すような彼女の視線は感じた。どう考えても友好的な雰囲気ではない。さっきまでファラステラの話題ではしゃいでいた時とは大違いだ。

 自分は一体どうすればいいのか、蛇に睨まれたカエルのようにロロルトが固まっていると、

「・・・うざい」

 たった一言、美由紀が吐き出した。

 その単語はロロルトが初めて聞いたものだったが、そこはお互い上級言語の話者である。意図するところは魔力の流れから伝わった。

 予想外の反応にロロルトが全く対応できないうちに、美由紀は伝票を手にさっさと立ち上がり、支払いを済ませて喫茶店から出ていった。

 取り残されたロロルトは、薄目を開けたまま閉店時間まで呆然と座り続けていた。


 フラれた・・・その事実を受け入れることにロロルトは苦慮していた。

 その後も仕事や交流会の打ち合わせで美由紀とは顔を合わせたが、表面上は以前と変わりないように見えた。だが二人の間に薄い膜があるような違和感をロロルトは覚えていたし、それは決して勘違いではなく、仕事以外の話をしようとすると美由紀はするりと話をそらしてその場から去っていった。

 フラれた・・・その事実を受け入れることがロロルトはどうしても出来なかった。


 そこに問題があるなら、その原因を追求して解決策を見つけ出さねばならない。

 ロロルトはまずトリアル人の先輩に詳細を伏せて相談した。八十歳を超える人生の大先輩は、ロロルトから恋愛相談を受けるという事実に驚きながらもそんなことは表面にも出さず、まあいずれ相性の合う相手が見つかるからそんなに気を落とす必要はないと慰めた。

 次にロロルトは統計管理局の同僚に詳細を伏せて状況を説明した。ロロルトと同じく典型的な統計管理局員である彼は、ロロルトの人生計画に耳を貸さなかった相手に憤慨し、そのうちもっといい相手が見つかるからそんなに気を落とす必要はないと同情した。

 さらに交流会の常連の経験豊富そうな男に詳細を伏せて解説した。その男は、ロロルトさん人気あるっすから他にいい女がすぐ見つかるっすよと軽く請け負った。

 なぜ詳細を伏せているのに自分がフラレたことになっているのか、ロロルトは憤慨した。

 さらにロロルトがフラれたという噂まで区役所に広がったが、それに関してはロロルトはまったく気にしていなかった。仕事には何の支障もないし、むしろ以前より周りが協力的な気すらする。

 美由紀の対応も相変わらずで、むしろ噂が広まって態度が変わることを期待していたロロルトはさらに深く静かに落ち込むことになった。


 そんな最中、ロロルトは帰郷することになった。

 ヤマトリアルの設立の準備と里帰りを兼ねた、トリアル勢へのねぎらいも兼ねたものである。

 ロロルトは同郷の友人達にも相談を繰り返し、彼がフラれたという話はトリアルにもあっという間に広がった……

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