夢物語
巨大なビルに囲まれ、いつものように大型のモニターに見下ろされているとある十字路。
人通りが多いそのスクランブル交差点の中心に、私は体が浮かび上がるような独特な感覚と共に降り立った。
「またここか。」
ポツリと言葉がこぼれる。
そんな言葉を聞くどころか、空から降りてくるという不可思議な行動をとったというのに無関心な通行人たちは自分以外の人間に何が起きても興味すら示さないのだろうか。そう思わせるほど生きているという感触を感じえない。
そういうことを考えながら、ふとモニターに映るテレビ画面を見上げると、お目当ての時間になろうかとしているところだった。
「うわ、やべぇ」
汚い言葉を吐きつつ、大量の人をかき分けて行きながら慌てて横断歩道を渡る。これから起こることを見るのに一番見通しの良いモニターの付いたビルの足元にたどり着くと、ご都合主義の如くモニターから正午を知らせるチャイム音が鳴り響く。
そうして予定調和の夢物語は始まった。
交差点のど真ん中に信号を無視して突っ込んでくる一台の乗用車。
その車によって有象無象に見えた通行人たちが轢かれてゆく。
表情のなかった人たちははじめて顔に恐怖を表し、我さきへと逃げていく。
そして、逃げまとう人々を追い、さらに飛び込んでいく車。
その車内にはニヤリと笑う○○の姿が見えた。
ガチャンという格子を開く音によって目が覚めた。
一人の人間が私のいた部屋のカギを開いたらしい。
私はその人間に乞われるがまま部屋を出て、誘われるまま進み、大きな広間にたどり着いた。
たくさんの人間に周りを囲まれた中、その中の一人が言った。
「これから裁判をはじめる。被告人は前へ。」
私は前に押し出された。
どこかで見たことがあるような交差点。
そこから見上げたところにある大型のモニターでニュース番組を放送していた。
「本日、あの悪夢のような事件を引き起こした○○被告の初公判が開かれました。被告は車を運転し、100人余りを死傷させた罪に問われており、今後の公判によって罪の重さを……