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魔王軍と勇者で始める異世界定食屋共同戦線  作者: 奥田 舎人
ー 食材も大事ですが道具も大事です ー
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02/03

「ここがセトさんの店かい?」

 それは声の大きさに反比例して背の低い男だった。名を石族の「ガイモン」という。

 石族は身体の中に鉱石の核が埋まっている。その核が砕けない限り永遠に生きる事が可能なのだが、核が体の中から出ても死に至る。過去には体内の核を狙った殺人行為が横行しておりその数を随分と減らしていた。

「あ、はい。そうですよ」

 対応したのはユウリだった。

 白のワイシャツに黒のストレッチパンツ。濃いブラウンのオールタイプのエプロンという店の制服を着けた彼女は男に「頼まれてた品ですかね?」と問いかけた。

「おう! ミスリル銀の料理ナイフ一式と、ラダマイト鋼のナベ、フライパン一式。ついでにフライ返しだ! もう、金は受け取ってる。久しぶりに良い仕事をさせてもらったぜ!」

「おぅ……。ミスリル銀にラダマイト鋼って……。そんな貴重な金属をこんな風に使っちゃうなんて……」

「ハッハッハッ! 俺も長い事、鍛冶屋やってるがこんなすげえ包丁やナベを作ったのは初めてさ!」

「ですよねー」

 ユウリはネウ・カムリアにいた。

 セトからの依頼はいわゆる調理器材の作製だったのだが、内容や設定が細かかったのとサイズが曖昧だったので実際に店になる現場に出向いて来たのだ。そしたら留守番と制服を押し付けられたという訳だ。

「まあ、駄賃は貰えるし、上とも話着けてくれたみたいだから問題ないんですけどねー」

 店の看板は「花房(かぼう)」。

 二階建ての物件で一階が店舗、二階が事務所になっている。事務所とはいえ、二階はセトの趣味が最前面に押し出された空間になっており、ユウリにとってはかなり居心地の悪いものだった。

「さて」

 セトがユウリに依頼したもの。それは火力が数段階に調節出来るコンロだった。

「普通の魔導学者には無理よね」

 今までのコンロは火力の調節が出来なかった。その上、大した火力も無かった為、お湯を沸かすのにも随分時間がかかっていた。

「黒石の大爆発から研究に研究を重ねて作り上げた『魔石』! その魔石を組み込んだ魔力貯蔵器。これを燃料に小型の火魔法プログラムを組み込んだコンロ! 火口には魔力を弾くミスリル銀で作った調節弁を装着! さすが! 天才大魔導学者! ユウリ様! 段階ごとに火力を調節出来るコンロの完成ではありませんか!」

 ユウリは実際にコンロを使ってみた。きちんと火力が調節出来、なおかつ火力にも問題なかった。

「素晴らしい! さすがは天才! 次はオーブン!」

 セトのリクエストは上下から同時に熱が発生するオーブンだった。もちろんこちらも火力調節機能必須という条件がついている。

「簡単な事ではないか! 全く問題ない! まずは先のコンロを上下にセット! これだけ! これだけで完成! 天才だ! 素晴らしい!」

 ユウリのハイテンションは更に続くのだが一旦クールダウンだ。今までのテンションとは違い彼女は黙々と箱を組み立てる作業を始めた。箱のサイズは彼女と同じくらいの高さになっていた。それを二つ隣同士に並べる。

「冷蔵庫ー! すぐに傷んじゃうお肉も長く保存可能! 冷凍庫ー! これさえあれば夏でも氷が作れます! 素晴らしい! 素晴らし過ぎる! ユウリ様ばんざ--」

「何を喚いておる? 妄想の類なら黙ってやれ」

「お、おぅ……」

 ユウリが声のした方を見ると、そこには銀髪の美少女が立っていた。

「ここがセトの店か。ふむ……。なかなか良いではないか」

 冷たい眼差し、美しい銀髪の少女というデザインに該当する人物。ユウリはそれを一人しか知らない。

「ま、魔王陛下……。こ、このような場所にお出で頂き光栄の極でーー」

「そんな話はどうでも良い。セトは何処だ? まだ出払っておるのか?」

 強者故の圧倒的な存在感、圧迫感。すぐにでもその場を立ち去りたい。すぐにでもその場に額を擦り付けたい。頭を下げ続けるユウリの中にはそんな願望が心の底から湧き上がっていた。

「セトさんはまだ……。準備に出払っておりまして……」

 辛うじて絞り出した言葉が終わる前に「そうか」と魔王は遮った。

「まあ、良い。意外と慎重なのだな」

 だがそれで良い。構わない。

 はんばーぐは美味かった。唐揚げも素晴らしかった。一度でもあれを食べてしまえば、他の料理など砂を食むのと同じ物。むしろ準備をきちんとするのならば、あれよりも素晴らしい料理を味わえるのかも知れない。それよりもあの時聞いたシチューにも興味が惹かれる。料理人に作らせたがあれはただの牛乳汁だった。早く本物が食べたいものだ。

 ふと魔王の視界に小さくすくみ上がり必死に頭を下げ続ける女の姿が映った。

「貴様はセトの料理を食べた事があるのか?」

 試しに尋ねてみた。

「い、いえ! 私は料理には興味がありませんので……」

 ふん。なるほどな

「一度でも食べてみないと分からんか。これは厄介な呪いだ」

 魔王は苦笑いを浮かべた。

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