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 そこは懐かしい場所。一度来たきりで二度と足を踏み入れる事のなかった場所。

 霧の君アズラザオルは神の暗闇の座に立っていた。

「随分と懐かしい場所だね」

「そうだな。君と出会うのは二百数十年ぶりとなるかな。鈴原(すずはら)(あずま)巡査」

「うん、この場にいると埋もれ切ったはずの記憶が鮮明になる。これを現世でも自在に使いこなせればセト君の役に立つと思うんだけどね。駄目かい? 法と秩序の神よ」

「不可能だ。私の力に満たされたこの場において私に不可能はない。しかし一度私の手が離れればそれは叶わない」

 法と秩序の神はそう言うと、円卓と、それを間に互いに向き合う椅子を創り出した。

「座りたまえ。話さねばならない事が起こっている」

「さて、随分久しぶりに会ったというのにろくな挨拶も無しか。これは無理難題を押し付けられる気がするよ」

「察しが良いのは嫌いではない」

「ならセト君の事かな?」

「そうだ」

 元来、神格と、神の姿とはこの世界での出来事に比例して実体化、成長を増していく。

 それを踏まえると、そのデザインを大人の男の姿として完全に実体化している彼の神格もまた高位に位置するであろう事が理解できる。

「何だい? セト君を始末しろって話なら無しね。僕はまだまだ美味しいものが食べたいんだ」

「ふん。気に入らん答えだが、それは予想していた。むしろ逆だ」

「逆? じゃあ、彼に協力しろって?」

「そういう事だ」

「それは構わないんだけど、ちょっと引っかかるんだよね」

「……」

「それを言う為だけにわざわざここに呼んだのかい? 二百数十年の間、全く音沙汰もなかったのに?」

「呼ぶ必要がなかったからな。しかし事情が変わった」

 法と秩序の神はこう説明した。

 基本的に神は神の暗闇の座から離れる事はない。出てしまえばそこは現世。神の全知全能が不可能になる場所だからだ。そして神の暗闇の座への入退場の権限は全てその座の持ち主に一任される。

 問題はここからだ。

 ある神がいた。その神の神格は非常に高く、そして誰よりも邪悪だった。

 その神はある日唐突に、世界の人口を半分くらいにしようと考えた。そしてその為に来訪者を呼んだ。

 来訪者には暴力を生業とし、他人を傷付けようとも、自分が傷付けられようとも御構いなしの人間を選んだ。そして神はその来訪者に自身の凶悪なまでの祝福を存分に与え、そしてすぐにでも動けるように、戦えるように現世へと解き放とうとしたのだ。

「それがセト君かい? そうは見えないんだけどね」

「そうだな。その神はちょっとしたミスを犯したからな」

「ミス?」

 邪悪な神の犯したほんの少しのミス。

 それは自身の圧倒的な神格の影になった未神(みしん)の接近を許してしまった事だ。

 自分に近付こうとする神など存在しない。仮に近寄ったとしても直ちに排除できる。それゆえの傲慢。傲慢ゆえの過ち。その実力を知らしめる為に、その神の持つ神の暗闇の座は誰もが自由に出入りする事が可能な状態にしてあったのだ。そうは言っても高い神格を持つ神ではそこに入る事は出来ない。入る事が出来るのは未神のような弱い神未満の者のみ。そして未神ごときなど自分の座の中に入る度胸もない。そう思い込んでいたのが仇となった。

 侵入した三体の未神はセトの身体を奪い、それぞれが勝手に祝福を与えてしまったのだ。

「セト君って祝福を四個持ちなの!? 前にもう一個あるかなー……なんて感じた事があったけど。ハハッ--。これはとんでもないものを創り出したものだ」

「お陰様で、私は大忙しだよ」

 法と秩序の神が手を振ると三人の女の子が現れた。

「彼女らは?」

「この子らがその三人の未神さ。自己紹介を」

(かまど)の神です。神になりました!」

「器の神です。私も神になりました!」

「料理の神です。神になりました。そして私がリーダーです!」

「三人共神に昇格しちゃったの? それってセト君のおかげとか?」

「正解だ」

 神の姿と、神格は現世での出来事に比例する。

 つまりはセトが調理器具を強化すれば竈の神が。料理を装る器を強化すれば器の神が。そして料理を強化すれば料理の神が。と、それぞれ成長していくという事だ。

「おかげであの神が怒り狂っていてね。私の座に匿っているという訳さ」

「なるほどね。--で、怒り狂ってらっしゃる神様とは?」

「破壊の神だ」

「最悪だ。現世の歴史にまで登場する最強最悪の女神じゃないか。そんな神の目をかいくぐって祝福を……か。ハハッ--。凄過ぎて笑っちゃうよ。だからセト君に協力を、なんだね?」

「そうだ。一対一ではまず勝ち目がない。だが四対一なら一矢報いる事くらいは出来ると思ってな」

「分かったよ。我が神の為にせいぜいセト君をこき使ってみる事にするよ」

「頼んだぞ」


 魔都花房の近くに借りた家。

 アズマはベッドの上で目を覚ました。記憶は朧げだが何とか事実は把握出来ていた。

 それにしても、セト君はとんでもない事に巻き込まれてたね。あ、巻き込まれたのは僕も同じか。まあ、良いや。将来がどうなるか分からないっていうのはなかなか素敵な事だ。僕は、僕で、勘付かれないようにセト君と遊ぶ事にしよう。

 そんな事を思いながら、アズマは昨日花房からくすねてきたクッキーを楽しそうに口に運んだ。

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