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魔王軍と勇者で始める異世界定食屋共同戦線  作者: 奥田 舎人
ー 開店前には挨拶回りを忘れずに ー
11/26

01/03

 メニューを考える。

 まず、大量生産が楽で、尚且つこの世界においてあまりメジャーではなく、むしろ人気の薄いクリームシチューをメインにする。具材には人気の無い鶏肉、ポルカーナ、シプリ、ペルーナの鉄板組み合わせにパルサカーリ(ブロッコリー)を添えて、赤、白、緑で華やかにしてみよう。盛り付けが楽なのも都合が良い。上手くよそれば良いだけだしな。

 次に定食形式を取りたいので主食には手の平大のパンを二個。そしてサラダ。スープとシチューが被ってしまうが一応これもセットにする。

 パンには牛乳と卵と酵母をふんだんに使い、シチューの塩気に対して、砂糖を少々加えて作ってみた。水と小麦粉を練り合わせただけのこの世界のパンとは圧倒的にスペックが違う。しかもふんわりとした食感で完成した。

 記憶頼りで作ってみたが割と上手くいって満足だ。

 サラダはボウルの内側が見えないようにサラーッティ(レタス)を敷き、カーリ(キャベツ)を千切りにして放り込む。後はカルック(キュウリ)とトーメッチ(トマト)を輪切りにして添えるとーー。

「うん、なかなか色合いが良い。さてこれに醤油とシプリをベースにしたドレッシングをかけてーー」

 サラダの完成だ。

 後はスープ。これもシプリをベースにしよう。鶏ガラベースの出汁に塩胡椒と千切りにしたシプリを放り込んで煮込む。水分を加えながらシプリが原型を留めなくなるまで煮込んで完成だ。

 早速スタッフを集めて試食会を行う。

 クリュスとアズマは頷きながら満面の笑みを浮かべていた。どうやら気に入ってもらえたらしい。今までは、あまり自分の料理を他人に食べさせて来なかったのだが、やはりこういうのは気分が良くなる。

 問題はユウリだった。

 こいつ泣きながら食べてやがった。

「エッエッエッ……。シチュー美味しい。獣の乳が原料なんて信じられない。鶏肉も柔らかい。鶏肉の歯応え抜群のイメージが払拭されました」

 気持ちは分かる。だけど泣く程のもんか。

「パン美味しい。こんな柔らかいの初めて食べました」

 ああ、それは良かったな。久しぶりに作ったからどうなるかと思ってたんだ。

「サラダ美味しい。どれっしんぐ? ですか? こんなソース初めてです」

 そうかそうか。この世界じゃ生野菜はそのまま齧るもんな。

「スープ美味しい。きちんと味がある。塩のお湯じゃないなんて初めてです」

 語彙少ねえな!

 全部美味いしか言わないじゃねえか!

 まあ良いや。

「これだけセットにして銀貨二枚だ。原価は銅貨五枚程度。売れ行き次第じゃ、採算は十分取れると思ってる」

「うーん。それを聞いちゃうとやっぱり無難な金額だよね」

 まあ、この世界の価格設定が未だに分からんからな。無難が一番だ。

「価格設定は主人に一任しておるからな。まあ、正直もっと高くても良い気もするがな」

 その辺は何か違う気がするんだよな。俺は料理人じゃないし、店はやりたくなったからやるだけだしな。

「旦那様のお言い付け通りに動くのが私の仕事です。経営に口出しなんて考えられません」

 ユウリ君、素晴らしい思考だ。

 ギルドを辞めて来たって聞いた時は馬鹿じゃないかと思ったが、君ならきっとやっていけるよ。借金も早く返せるかもね。

「じゃあ、このセットを銀貨二枚で販売。支払いはその都度ではなく食後に一括で構わない。支払わないやつは牢屋に……。忘れてた」

 忘れていた。すっかり忘れてしまっていた。

 ご近所さんや、主要な役所への挨拶回りをしていないじゃないか。モグリでも問題無さそうだがお上だけはきっちり抑えておかなければ。

「アズマ。ちょっと付き合ってくれ」

「どんな格好が良い? 下着だけとかバスローブ一枚とか」

「違わい!!」

 慌てち全力否定したが、女性陣の刺すような冷たい視線が心を抉る。久しぶりの精神攻撃にちょっとだけ怯んでしまった。

「ご近所さんと主要な役所への挨拶回りだ。いまいち把握出来てないから一緒についてきてくれ」

「あーね。そういう事か。てっきり女に変身させてアレやコレやとーー」

「違うわ!」

 俺たちは女性陣の殺意のこもった視線をくぐり抜け店外に飛び出した。あのまま店内にいたら最古の神獣と爆弾魔に攻撃を受けると思ったからだ。俺は問題無いが店に被害が出るのは避けたい。

「で、何処行くの? まずはご近所さん?」

 くっそ。アズマ。こいつのせいだってのに。飄々としやがって。まあ、平静に、平静に。

「そうだな。まずはご近所さんだな。だが……」

 俺の顔は怖いらしい。

 自覚はある。気にはしていない。気にはしていないが、こういう時はさすがに不便を感じてしまう。

「挨拶はお前に頼む」

「ん? あーね。了解、了解。セト君顔怖いもんねー」

 事実だから否定はしないが、いつか酷い目に遭わせてやる。

「で、これ、中身は?」

 挨拶ついでにと称してアズマに紙袋を渡した。我ながら可愛らしい袋とは思ったが、選んでしまったのだから仕方ない。袋の中にはちょっとしたお菓子が入っている。販売するかどうかはまだ決めていない。

「煎餅だ。米で作った焼き菓子だな」

「ふーん……」

 アズマは瞬時に袋を開いた。

 お前、話聞いてたか? 挨拶ついで。お土産。お気持ち。理解してないだろう!

「あ、これ美味しいわ。砂糖醤油? 懐かしいなぁ」

 フッフッフッーー。

 そうだろう、そうだろう。

「美味しいけどあれだね。やっぱり煎餅なら、海苔巻いて欲しいよね。僕海苔巻いたやつが好きだったんだよね」

「あー……。そうだよな。海苔なぁ……」

 海苔か。海苔の作り方は知らないんだよな。確か、海藻を乾燥させて作るんだったかな。そういえば東の方に海があったよな。一度海まで行って試してみるかな。

 アズマが二袋目を開けようとしたのを取り上げて、俺たちは近所に挨拶をして回った。

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