あたしという女
知り合ったばかりの奴が、朝起きたら隣で寝ていた、なんていうのはよくあることだ。
寒いのが苦手なあたしにとって、一緒に眠る相手は欠かせない。
3年前、喚き暴れたあたしは実家を追い出された。思春期だった。
それ以降、あたしには自分の家というものがない。
だけど自分の家なんてなくても、外に出ればあたしを泊めてくれる奴は何人もいた。
ちょっと甘えて見せれば、奴らはあたしを快く家に入れてくれた。
美味しいご飯を作ってくれて、あたしが寂しくて一人ないていれば頭を撫でてくれた。
あたしは誰の前でも本名を名乗ることはなかったけど、
そうすると奴らは思いのままにあたしに名前をつけた。
「ルリ」とか、「マユ」とか。「小夜子」なんてのもあった。
元カノの名前だか何だか知らないけど、あたしはそういうのが結構好きだった。
違う自分になったみたいだったし、誰ひとりとして本当のあたしを知らないということが
あたしをこの上なく自由にさせた。
あたしは自分の容姿について普段あんまり考えたことはなかったけど、
多分魅力的なんだと思う。
あたしの艶っぽい栗色の頭を愛でるように撫でる奴は多かったし、
あたしの透き通る青い瞳を、射るほどに覗き込んでは溜息をつく奴もいた。
小柄で程よく丸みのある所も、愛らしく映っていたはずだ。
こんなにあたしのことを可愛がる奴が多いということは、
あたしは魔性というか、人たらしだったのかもしれない。
退屈なあまり部屋を散らかしたりなき喚いても、
反省した風に甘えてすり寄れば大半の奴が最後には目尻を垂らしつつ許してくれる。
でも、奴らがそんな風にあたしを可愛がれば可愛がるほど、
夢中になってくればなってくるほど、あたしは飽きた。うんざりした。
自由な時間が欲しくなった。
あたしが甘えたい時だけ構ってくれればそれでいいのに、疲れてる時にまで構わないで!
そんなあたしは、断りもなく礼もなく、奴らのもとを去ることもしばしばだった。
そんなこんなで、訪れた家の数は20を超えている。多分。もうよく覚えてないけど。
そんな私は、今10代だ。
これからどんな未来を生きる自由も、たくさんの時間も残されている。
世間一般に言えば、10代って青春の真っ只中なんでしょ?
前に世話になった学生が、見ててそんな感じだった。名前忘れたけど。
だけど最近、なぜか思うように体が動かない。気持ちに体がついていかないというか。
なぜなんだろう、まだまだ若いのに。
最近は、階段を昇るのも息切れがしちゃって、体がとっても重いんだ・・・。
動きたくない。ボーッとしてたい。若いなりにストレスが溜まってるのかな?
今一緒に暮らしている男の名はタカシという。
木造アパートの3階に住んでいて、ウォーキングが趣味のスポーツマンだ。
よく私もウォーキングのお供に駆り出されるんだけど、その度に足も腰も全身が疲れる。
いまは冬だから、帰宅してすぐにこたつや布団に直行し眠ってしまうことも多い。
今日のウォーキングは沢尾公園だった。あの公園は少々広すぎるわよね。
タカシは歩くのも早いし、本当に疲れてしまったわよ。
何だかんだタカシには世話になってるから、散歩もまぁ付き合うけど。
やっと帰って来られたから、またこたつに入って眠るとしようかしらん。
けれど、あら?なんだかいつもと調子が違う。
私の意識はふっと遠のいていった。
真っ暗で、深い井戸のなかへ落ちたみたいだ。
今まで私が渡り歩いた奴らの部屋が、奴らの姿が、走馬灯のように私の頭を駆け巡った。
私は体を起こしていられず、玄関の前でうずくまった。
全身が痙攣して、息苦しい。
瞳だけは覚醒したみたいに見開いていて、
激しい光を放っているように感じられた。
タカシが私の異変に気づき、私を抱き起して激しく揺さぶりながら、私の名を呼んだ。
「大丈夫か!タマジェンヌ!!!」
私の自慢の栗色のしっぽはついに硬直し、見開いた青い瞳は光を失った。
・・・やっぱりこいつが付けた名前、私史上最低だったわ。




