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虚想世界 冒険者は神を目指す  作者: OTE
森の賢者と少年少女
7/8

第五話 ぼーいみーつがーる

レイは、声をかけられてからもしばらく動けなかった。

ゴブリンがまた動くのではないかと思ったのだ。

冒険者達はテキパキと後始末をする。

ゴングと弓使いはゴブリンを集め、胸を割り、何か石のような物を取り出す。

その頃になると、レイはやっと言葉が出るようになっていた。

「何してるんですか?」

何か冒涜的な物を感じていた。

「よ! レイちゃん頑張ったな! 魔石さ。取り出しておかないと面倒な事になるからね」

と、セレスはこともなげに言う。

「面倒な事?」

「アンデッドさ。聞いたことがあるだろ?」

「おばけ?」

「ちょっと違うんだけどな。魔石を魔物から取っておかないと、動き出すことがあるのさ」

できれば、死体は燃やした方が良いらしい。

しかし、ここではそこまでは出来ない。

道から外れたところに死体を放棄すると、少し馬車を進めることになった。

お昼がまだだったからである。


「あのゴブリン達、変だった」

昼食のスープをすすりながら、ゴングが言った。

スープは、固形調味料に乾燥野菜の具だ。夜にはこれに乾燥肉が入る。

「あたしの三連弾が全部レジストされるなんて、まるでオーガよ」

黒蜜パンにベーコンを挟んだものをパクつきながらセレス。

「……背も大きかった、装備も良い。魔石も大きかった」

と、弓使い。神官は我関せずの様子。

「ゴブリンが挟撃ってのは、俺が商人になってから聞いたことがねぇ」

「そうっすよ、レイ君が居たから良かったものの!」

ギルモアと弟子のヨハンは興奮気味だ。

レイはその様子を聞きながら、戦闘で出た「青い炎弾」について考えていた。

しかし、なんとなくそれを聞く雰囲気では無い気がした。

パンとスープを口に入れる。

いつもなら美味しいと感じるその食事は、酷く味気なかった。


結局ゴブリン達の正体は分からぬままだった。ただ、気をつけることしかできない。

レイは吐き気と興奮が収まらないままだった。

その様子を見たゴングは、

「目をつぶって寝てろ」

と言う。

無理だと思ったが、ゴングの顔が怖いのでレイは渋々目をつぶる。

馬の足音。

鎧の音。

車軸のきしみ。

木々の葉が風に揺れる音。

それらに身を任せているうちに眠っていた。


森の中を馬車は進む。


その後は特に何も無い時間が過ぎた。


森に入って三日目、ダコタを出て六日目の朝、ようやく目的地に着いた。


目の前には一抱え以上有る太い木が隙間無く並んでいる。

レイは素直に驚いた。

高さはレイの背丈の何倍あるか分からない。

そんな壁が視界の端から端まで続いている。

どれくらいの人が居るのだろうか?

賢者ってどんな人なんだろうか。

仲良くなれるだろうか。

にわかに心配になってくる。


木で作られた巨大な門の片側がわずかに開いた。

隙間から出てきたのは、レイと変わらない位の年の女の子だった。

長い金髪を後ろでくくり、腰まで垂らしている。

明るい色のチュニックとズボンを穿いていて、活発そうだ。

「ねぇ、メイプル、お友達ってどこ?」

女の子が振り返りながら言った。

レイは、女の子に釘付けだ。

仲良くなりたいと思った。

これまで不安だったのはどこかに飛んでいた。


門の隙間がもう少し広がり、中から女性が出てきた。

「人が居るときには、賢者様、でしょ」

綺麗な人だった。

ごくりと唾を飲む音が聞こえた。

スラリとした長身。ソバージュの掛かった黒髪が肩までかかる。

垂れ目に少し太い眉。泣きぼくろが色っぽい。

皮の乗馬ズボンにチュニックを着ているが、胸がきつそうだ。


「よ! 賢者様にエレノア嬢ちゃん」

ギルモアが軽く挨拶した。

「ハイ! ギルモア! 無事で何よりよ。ちゃんと護衛も付けたようね」

「あぁ、護衛無しじゃやばかったな。期日には間に合ったか?」

「まぁ何とかね。とりあえず、ここじゃなんだから、中に入りましょう」


壁の中は五百メートル四方ほど。

幾つかの建物が並んでいるが、半分は畑で、残った半分はただの土だった。

二人の他に人影は見えない。


「あなたが、お友達?」

エレノアと呼ばれた女の子が、レイに近づいてきた。

「う、うん。レイ・ランドール。七歳だよ」

レイはくしゃっと笑う。

「笑うとお猿さんみたいね。エレノア、エレノア・バクスター。年齢不詳の美女よ」

「お、お猿さん……」

レイはちょっとショックを受けた。


レイとエレノアは、大人のお話が終わるまで、外で遊んできなさいと言うことになった。

二人は畑の端っこに座って話をした。

エレノアは二年ほど前からここに住んでいるという。

その前の記憶が無いようだったが、気にしてない様子だった。

だから謎の美女なのだ、というエレノアに

「うん。エレノアちゃんきれいだもんね」

とレイが返すと、エレノアは顔を真っ赤にした。

「そ、そそ、そうでしょ! レイは分かってるわね」

「うん!」

「お、お友達になってあげるわ」

「ありがとう!」


二人はそれからも話をした。

エレノアはダコタの街の話に興味津々だったし、レイは森の中の暮らしに興味津々だった。

レイがダコタのそば屋台のことを話すと、エレノアはうさぎとハーブの焼き物がいかに旨いか主張した。

レイがサンドラのシチューを自慢すれば、エレノアもメイプルが作る鍋を自慢した。

二人は喧嘩もせず、話を続けた。

「修行、厳しい?」

ふとしたタイミングでレイは聞いた。

「メイプ、賢者様は時々怖いの。乱取りの時は結構痛いわ」

「痛いのかぁ、痛いのやだな」

「でもね、痛くないと覚えないって言ってた」

「エレノアちゃんは痛いの怖くないの?」

「はっきり言ってイヤよ。治してもらえるとは言っても、怪我するし」

レイは深くため息をついた。


話に飽きた二人は、乱取りすることにした。

他にすることも無かったし、どうせ一緒に修行するのだ。

お互いの実力が分かった方がいい。


土のグラウンドの一部に円形に石が組んであった。

そこが乱取りの場所らしい。

直径は五メートルほど。現代人のために解説すると、相撲の土俵より少し大きいくらい。

とりあえず、魔力無しで、押し出した方が勝ちということになった。

中央の白線に二人が並ぶ。

エレノアのほうが、若干体格が良い。

二人は構えた。

二人の構えは大きく異なっていた。

「「変なの」」

お互いの構えを知らない二人はそういった。


今日も空は晴れている。

あの雲、美味しそうだな。

レイはそんな事を考えていた。


乱取りは最初エレノアが優勢だった。何度やってもエレノアが勝つ。

レイは面白くなくて、五回目に負けたとき、つい

「魔力があれば負けないのに」

と、言ってしまった。

「じゃぁ良いわよ」

とエレノアは勝者の余裕を見せる。

そこからは互角の戦いだった。

二人はへとへとになるまで押し合い、ついには魔力を維持することも出来ずにひっくり返った。


「な、なかなかやるじゃない」

「へへ。エレノアも強いね」

二人は空にかかる雲を見ながら言った。


お昼を過ぎても二人は一緒だった。

夕方になり、夕飯の支度を手伝う様になる頃には、すっかり仲良くなっていた。


今夜はギルモアや冒険者達も泊まり、明日の朝帰るらしい。


庭にかまどが組まれ、バーベキューが始まった。

大人達はみんな酒に酔いながら楽しく話している。

レイやエレノアは、たまに大人の相手をしながらお腹いっぱいになるまで食べた。


火の始末をする頃に大人達が見たのは、仲良く手を繋いで寝ているレイとエレノアの姿。

星のきれいな夜だった。


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