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虚想世界 冒険者は神を目指す  作者: OTE
森の賢者と少年少女
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第三話 はじめての戦闘

無双は無双で好きなんですが、こっちは地味路線。

この世界には魔物が多い。

狩っても狩っても沸いてくる。

都市や村が壁や杭に囲まれているのはそのためだ。

だが、魔物の力は強い。

都市の分厚い壁ならともかく、村の周囲にある杭では、長持ちしない。

その時の支えが神殿だ。


神殿には神官と巫女が住む。

神官は、村と巫女の世話をする。

巫女は普段特に役目を持たないが、人手の足りない村では、何かしらの手伝いをすることが多い。

では、巫女は何のために居るのか。

魔物が攻めてきたとき祈りと共に神々の力を降ろし、結界を張るのだ。

神殿の札が貼られた杭は結界を形作る。

万能とは言えないが、結界はかなりの強度を持つ。

巫女の力が尽きる前に、魔物が去るか、見回りの騎士団が来れば村は助かる。

無論、それだけでは心許ないので、村には引退した冒険者が居る事が多い。

神官も戦闘訓練を受けていることが多い。

だが、最終的な心の支えは神殿、巫女になる。


だから、人が住むところには必ず神殿がある。

人口の多い都市では、複数の神殿で分担することも多い。

しかしこの程度の村では神殿は一つだろう。


村を作るときには必ず神殿から建てて行くという常識がある。

だから神殿は、村の中央にあるのだそうだ。

レイはセレスからそんな事を聞いた。


レイが馬車から離れると、こつんと背中に石が当たった。

「おいお前!」

背後から偉ぶった子供の声が聞こえる。

振り返ると棒を持った三人の男の子が居た。大中小とそろった三人組だ。

年はレイと大して変わらない。

着ている物はレイの方があか抜けていて、清潔そうだった。

「生意気だ!」

中くらいの勝ち気な顔をした子がいきなりそう言った。

「「生意気だぞ」」

残った二人も続く。

「なんでだよ!」

レイは反射的に言い返した。大した考えは無い。

「だってお前、冒険者と一緒でずるい」

「「ずるいぞ」」

どうでも良いレベルの言いがかりだが、それをやり過ごせないレイも所詮七歳の子供である。

「じゃぁどーすんのさ?!」

口を尖らせて言い返す。

「お前、勝負しろ!」

言い捨てると三人はすたすたと歩き始めた。

これ、レイが付いてこなかったらどうするつもりなんだろう。

だが、レイはついて行かなかったらいけない気がして、ついて行った。

三人+一人は、そのまま村の外縁へ歩いて行った。

その間無言である。

空は暗くなりかけている。

夕焼けが綺麗だったが、三人+一人にそんな余裕は無い。


中くらいの子がリーダーらしく、小さい子は年下らしい。大きい子は年上みたいだがおどおどしている。

リーダーとレイは背の高さは一緒くらいだが、肉付きはリーダーの方が良い。

手伝いなどで体を鍛えているのだろう。

杭の近くには、木の棒が数本隠されていた。

リーダーは一本手に取るとレイに渡した。

「近くの一本杉にはぐれのゴブリンが居る。お前、そいつをやっつけてこい。そしたら認めてやる」

むちゃくちゃなことを言い始めた。


お話の中ではゴブリンはやられ役の典型みたいな言い方をされているが、実際には手強い相手だ。

普通の大人一人では対応出来ない。

武器を持った大人二人でゴブリン一匹に対応するのがセオリーだ。

それを子供一人でとはむちゃくちゃである。


レイは実際の所を知らない。

なんだかんだ言って魔法には自信がある。今日もプロの冒険者に褒められた。

魔力を体に流せば、強い力も出せる。

ゴブリンくらいやっつけてやる!

単純にそう思った。

「やれば良いんだろ。簡単だよ!」

この夕方に村の外に出るリスクや、本物の魔物の恐ろしさなどは考えてない。

それは焚き付けた三人も同様であった。


村の杭の隙間から三人+一人は出て行った。

杭の隙間は、小柄な子供には問題ない。

街道の反対側は背の高さくらいまで草が生い茂っていた。子供の足で五分も歩くと草原が途切れる。

空間の中心には大きな杉の木が生えていた。

杉の木の下には、人影がうずくまっている。

ゴブリンだった。

緑の肌をして、耳は尖っている。口元は大きく裂けていて牙が見える。

手元には大きな棍棒があった。

周辺には何か小動物の死体がぶちまけてあり、嫌な匂いがしていた。

ゴブリンは弱っているようであり、これなら余裕だとレイ以外の子供達は考えた。

ちょっと行ってやっつけるだけ何だから。


「おい、お前、行ってこいよ」

小声でリーダーがレイに言う。

しかし、レイは中々体が動かなかった。

膝は震えるし、口の中はからからだ。

レイはびびっていた。

弱っているとはいえ、初めて見る魔物だ。

何とか逃げ出す言い訳が出来ないかと頭はぐるぐる回る。


「しょうがねぇな、見てろよ」

動かないレイを見て、リーダーが動いた。草むらから出て行く。

「おいお前!」


ゴブリンはビクリと動くと、人間の子供を見た。

周囲には大人は居ない。居るのは柔らかい子供だけだ。

三日ぶりに食料にありつけるかも知れない。

そんな思いで唸りながら立ち上がる。


「あ、あ……」

リーダーは間違いを悟った。

ゴブリンは想像以上に大きかった。

通常のゴブリンは百二十センチほど。リーダーやレイと大して変わらないサイズだ。

しかし、こいつは違う。百五十センチほど。頭一つ大きい。

その分体格も良く威圧感もあった。

飢えがゴブリンの凶暴性を増している。


ゴブリンは、人間の子供に向かって歩く。

こちらに大声を出した後、こっちが立ち上がるとすっかりびびって腰を抜かしたのだ。

労せず食料が手に入りそうだ。


「ガァー!」

ゴブリンは吠えるとリーダーの肩に噛みついた。

「うわっ!ぎゃっ!」

リーダーの悲鳴があがると、大きい子と小さい子は一目散に逃げ出した。


それでもレイは動き出せなかった。

「いてぇ!いてぇよ!」

「グァル!」

リーダーは手に持った棒でゴブリンを叩くが、ゴブリンはひるまない。

ゴブリンはもう一度噛みつくと、そのままリーダーを振り回した。地面にたたきつける。


レイは目の前に起こる戦いとも言えない状況に逃げ出すことも出来ずに居た。

格好良く戦って、魔物を倒し、冒険者に英雄に神になる。

そんな事を考えていたが現実は非情だった。

血や悲鳴が流れ、自分はぴくりとも動くことが出来ない。

その時、リーダーと目が合った。

うつろな目をしていたリーダーは、レイと目が合った瞬間、確かに助けを求めていた。


ゴブリンも必死だった。

がしかし、獲物は大した抵抗も無い。後は首に噛みつけば終わりだ。

そのとき、背中に痛みが走った。


レイは自分が何をしたか、良く分かっていなかった。

ただ、何かしなければならないと思って居た。

気がつけば、草むらを飛び出し、ゴブリンの背中を思い切り棒をたたき付けた。


もう一人居た。

ゴブリンは驚いた。今度の子供は抵抗するつもりだ。この弱った奴を取り戻す気だろうか?

そうはさせない。


「ふぅーーーーー」

細く長い息がレイの口を出た。

同時に魔力が体を流れ、回路を形成していく。

魔力回路はこの世のものでは無い理で、肉体を強化する。


ゴブリンは飛びかかる。

空中に飛び上がったゴブリンはレイに捕まれると、そのまま地面にたたき付けられた。

そのまま地面を転がり、体勢を立て直す。


レイはゴブリンを捌き、打ち、蹴った。

その全ては、魔法使いの型にある動き。

魔力と共に打ち込まれる衝撃は、並の大人以上と言っても良かった。


敵わない。

ゴブリンは思考する。

逃げなければ。

ゴブリンとレイは、しばし視線を合わせる。

一歩、二歩とゴブリンは後ろに下がり。

後ろ向きになると全力で走った。


レイはゴブリンを追わなかった。

いや、追えなかった。

走れば、追いつく自信はあったし、体力も魔力も残っていた。

その後どうすればいいのか分からなかったのだ。

レイには覚悟が無かった。


杉の木の周りは暗くなっていた。

目をこらさなければ木の周りの血の跡は見えないだろう。

レイとリーダーの荒い息だけが聞こえていた。


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