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虚想世界 冒険者は神を目指す  作者: OTE
森の賢者と少年少女
4/8

第二話 赤い街道

やっとファンタジーらしくなってきたかな?

馬車はノロノロと街道を進む。


街道周辺には草原、遠くには林。


街道を行き来する人はまばらだ。


レイは不安だった。

もじもじとして落ち着かない。

出発前まで笑顔でいたのに、今は泣き出しそうだ。

両親の手前、元気にしてたし、魔法の師匠に会うのは楽しみだった。

ギルモアのことも知らないわけじゃない。

でも、預けられるたびにいつも不安だった。

パパとママはレイを捨ててどこかに行ってしまうんじゃないかと。

だからいつも言いつけを守るようにした。

基礎訓練も頑張った。

型は疲れるから嫌だったけど長くできるようになった。

だからお利口にしていれば、パパとママは迎えに来てくれる。

そう信じている。

でも今度は違う気がする。

パパとママが帰ってくる日が分からないのは初めてだし、街の外に行くのも初めてだ。

馬車は揺れるし、ギルモアは酒臭いし。

だからレイはとても不安だった。


「そういや、レイは街の外は初めてか?」

しばらく道を進んだところでギルモアが振り向いた。

レイは鼻をすすりながら何でもない風に装った。

「…うん」

「大丈夫だ心配すんな。赤い街道行ってる間は魔物なんざでやしねぇよ」

ギルモアはレイの顔を見てそう言った。緑のモヒカンが風に揺れる。

「この赤い街道はな。神と悪魔の戦いの前からある。道の両側に赤いレンガがあるだろ。あれが赤い街道のいわれだ。あの赤いレンガは夜になると光ってな。道しるべにもなる便利な代物だ。ほんとかどうかわからねぇが、あのレンガは魔物を追い払うって話でな。実際赤い街道沿いは魔物がめったに出ない」

「そうなん、ですね」

「男がメソメソするんじゃねぇ! サンドラもマーティンもあぁ見えてめちゃくちゃつえぇ冒険者だ。心配せずに待ってろ。」

ギルモアは乱暴に言い放つと御者台に移った。

レイは、改めて周りを見渡す。草の色も空の色も急にくっきりしてきた気がする。

なんとなく不安が無くなった気がした。


不安が無くなると、周囲が気になった。

せっかく冒険者がいるのだ。話を聞いてみたい。

弓を背負った小柄な女の人は、馬車の前。周囲を警戒するようにしていて声をかけづらい。

ゴングというでっかい戦士と、華奢なローブ姿の女の人が馬車の左右についている。

もう一人皮鎧の男の人は馬車の後ろだ。

レイはローブ姿の女の人に声をかけることにした。

時折こちらを見ていることに気が付いたこともあるし、オーラ視力で見てみると一番魔力がすごそうだったからだ。

多分、魔術師。

レイは魔術師希望なのである。


「ねぇお姉さん!」

レイは明るく声をかけた。

「はぁい! ぼくちゃん、元気出てきたようね」

ローブ姿の冒険者は軽い調子で返事をした。

レイにはまだ女性の年は分からないが、サンドラよりちょっと年上のように見える。

「ありがとう。ぼく、レイって言います」

「レイちゃんね。あたしはセレスよ!」

ウィンクしながらセレスは言った。

「セレスさんは魔法使い?」

「そーねー、得意なのは炎系ね。なんでも燃やしちゃうわよ」

またウィンク。

「パパも炎が得意なんだって! ぼくも魔法使いになりたいんだ」

「そうなんだ、レイちゃん魔法使いになりたいんだ。もう修行してるの?」

「うん。まだ呪文は教えてもらってないけど、基礎訓練してるよ」

「型はどこまで習ったの?」

「第四までだよ」

「その年で第四ってのはすごいね!」

「ありがとう!」

魔法使いは、身体運用用の型を習う。

全部で十の型があり、これを身に着けることで様々な状況に対応できるといわれている。

体を動かしながら、魔力を運用する型は、進むにつれ複雑になり派手になる。

通常、呪文を習う前の基礎訓練では第二の型まで行うのが通例だ。

レイが習う第四の型は、初級と中級の境目といっても良い。


「じゃぁ、こんなことできる?」

セレスは、左手から白く光る球を出した。魔力の塊だ。

その球をポーンと放り投げると、右手で受け止める。受け止めた球は腕を伝い、肩を回って背中を通り、また左手にたどり着いた。

「ええと……」

レイは右手に魔力の球を作り出した。セレスのものよりちょっとぼんやりしている。

それを放り投げると左手で受け取り、腕を伝うが、肩にたどり着くまでに消えてしまった。

「あれれ?」

「あはは! まだ難しいようだね。どうせ暇でしょ?頑張ってごらん」

「うん!」

「あたしができるようになったのは、十三の時だったかな。最初の呪文を教えてもらったのより後だったから……」


「あ、できた……」

十分後。

呆けたようなレイの声にセレスが驚いた。

「うそっ!」

「もう一回やってみるね」

レイが魔力の球を右手に作る。最初の時よりくっきりしている。セレスの物と同じくらい明確に周囲と区別がつく。

高く放り投げ、左手で受け取り、腕を伝い肩を回り背中を通って、また右手にたどり着く。

セレスよりゆっくりとだが、きちんと動いた。

魔力の球は最初に作った時と同じくらいくっきりしていた。

これは、レイが魔力をきちんと区分けしてコントロールできることを示す。

初級の術者では、できないことが多い。

「レイちゃんすごいね!じゃぁ、球を二つにしてやってみてごらん」

セレスは球を同時に二つ生み出すと同じように球をコントロールして見せた。

これは並列して別の呪文をコントロールするのに必須の技能だ。

しかし、これができる術者はなかなかいない。

セレスは四つ同時に操れる。中級者でもなかなか居ないのが実情だ。五つ操れれば上級者にもなれる。


レイは苦戦していた。

はじめは魔力の球を二つ生み出すことができなかった。どうしてもくっついてしまうのだ。

ようやく別々に球を作り上げ、放り投げる。落ちてきた球をつかむとまたくっつく。

この繰り返しであった。


馬車は進む。

ダコタを出てから特に何もない時間が続く。休憩は規則正しく取られた。

冒険者のリーダーであるゴングとギルモアは時計の魔道具を持っていて、二人の話し合いで休息をとった。

時計の魔道具はそれほど珍しくもないものだ。ちょっと気の利いた商人ならもっているくらいである。


「球に名前を付けてごらん。一番、二番ってね」

二回ほど休憩をはさみ、午後になるころ。

セレスはレイにアドバイスしていた。

セレスも意地悪をした訳ではない。この手の失敗は、身に沁みなければダメなのだ。

「一番」

レイの手元に球が出る。心なしか、これまでの物より明るい。

「二番」

さらにもう一つ。今度は、赤い球が出た。赤といっても薄い紅のような色だが、これまで白一色だったのでその違いは明確になる。

セレスはそのことに驚いた。

「色を付けた? 初っ端からやるじゃないか! そのテクニックはもっと先で教わるんだがね」

その声に、後ろで見ていた冒険者や御者台の二人も注目する。

レイは集中していて返事をすることもできないようだ。

だが、白と赤の球は、きちんと分かれて制御されているようだ。

違う軌道で空中を飛び、左手に。

「次は」

腕を通り

「背中」

球は肩から背中に回るが、隙間を空けてきちんと分かれている。

「腕」

右腕を伝って、右手へ。

「やった!」

レイが言うと同時に、球は消えてしまった。

「「おぉ」」

見ていた大人たちは声を上げた。

はっきり言って、セレス以外には意味は分かってないのだが。

セレスは興奮していた。

「ワォ! なんて子だ! レイちゃんすごいよ、天才だね! この短時間でモノにするなんて半端じゃないよ!」

「ありがとうございます! 名前を付けてってところでなんか感覚がはっきりして」

レイはちょっとぼーっとしてた。

短時間に集中力を使いすぎたのだ。


だがしばらくすると、レイは練習を再開した。

次は三つに挑戦するとレイは言ったが、セレスは止めた。

まずは二つのコントロールを完璧にするべきだと。

セレスは歩きながら、色々な球の動かし方を見せ、自分でも工夫するように言った。


そんなこんなで空が茜色に染まるころ、行く手に村が見えた。

円形の神殿を中心に人家があり、その周辺に畑、その外側に木の杭がある。

典型的な開拓村だ。

杭には神殿の発行した札が張られている。

魔物が攻め寄せてきたときには、簡易の結界にするためだ。

畑の作物は頼りなさげだった。家畜も痩せているように見える。

今年は雨が少ない。

どこも頭を抱えているのであった。


冒険者を見た村の子供たちが、馬車のほうに手を振る。

冒険者は子供たちのあこがれの職業だ。

馬車の周りの冒険者たちも、慣れた様子で手を振り返す。


ダコタのアパートは二階建てだったし、街の建物は三階建てもあり、レンガや漆喰で固められていて頑丈そうだった。

村の建物は木造で、平屋だ。炊事の煙が出ているし、食事の良い匂いもする。

しかし、あまり良い暮らしには見えない。

中央の神殿だけが石造りで頑丈そうだが。

牛や馬が道を歩いている。

犬が子供たちの周りを走り回っていた。

着ているものも街の人たちとは違う。

レイはびっくりしていた。


一行が村に入ると、村の人々が出迎えた。

ギルモアとヨハンが荷物の一部を下ろし、村の人に渡す。

村の人は喜びながら村の中央に運んで行った。

村の中央には神殿があるが、その横に頑丈そうな建物があった。神殿は丸いがその建物は四角い。

四角い建物は村全体の倉庫であった。

ギルモア達は、村に頼まれて物資の輸送も行っていたのである。


「セレスさん」

レイは、馬車のそばで暇そうにしていたセレスに声をかけた。

一日訓練して頭がぼーっとしていたが、レイにはやりたいことがあった。

「この村の神殿はどこでしょう?」

人の住むところに神殿あり。

これはこの世界の常識であった。


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